上 下
181 / 1,315
第四章

166 VS ランド

しおりを挟む
( ランド )





「 おやおや、お硬い執事様かと思っていましたが、ワンナイトがご希望とは意外でしたよ。

しかもこれから自分を殺すであろう相手に丁寧な挨拶までするとは、流石は公爵家の執事様、まさに執事の鏡ですね。 」



公爵令息専属執事カルパス


こいつの資質は〈 影従士 〉という諜報に秀でた中級資質


ただし、中級資質といってもピンキリで特に強力ではないが、何かに特別に秀でているとか、ただ単に珍しいだけという役に立たない資質もこの世界には多く存在している。


< 影従士 >はまさにその資質であった。


私の言った言葉に対し、気を悪くする様子もなく執事はまるでお手本の様な礼をしニコリと笑う。




「 ありがとうございます。

この度はせっかくのご訪問ですが・・・リーフ様はご就寝ですのでご退場願いますね? 」




執事のパチンッと指を弾く音とともに彼の影から大量の〈 夜人蝶 〉が飛び出して来た。




〈 夜人蝶 〉

体長10cmほどの蝶形Fランクモンスター。

夜行性でその鱗粉に毒を持つ。

蝶の羽が人の顔に見えるのが特徴。





「 !!!毒を持つ蝶です!!

皆さん例のものを装着してください。 」




私は直ぐに懐から指輪を取り出し指に装着すると、他の仲間達も全員同じ指輪を指に嵌めた。




〈 耐状リング 〉

一定期間状態異常攻撃に耐性を持つことができる





「 ふっふっふ、あなたの事は調査済みです。

非力な資質を持つ者は総じてデバフ特化になりますからね。

これであなたの攻撃は全て封じましたよ? 」




執事はそんな絶体絶命の状況にも関わらず表情一つ変えずにただ穏やかに笑っている。




「 ・・むかつきますね、その余裕そうな顔。

まぁ、内心焦っているのでしょうけど。

必死に隠してなんて憐れなんでしょうね。


・・ふ~む、多少歳はいっていますが、あなた綺麗な顔をしていますね。

顔だけは圧縮して残しといてあげましょう。 」




周りの仲間達はニヤニヤしながら各々武器を構える。



こちらは戦闘系資質持ちの傭兵が10人、攻撃手段を持たず更にはデバフが封じられた非戦闘系資質の者など相手にもならない。


それが分かっている仲間達は下卑た笑いを浮かべながら誰から行く?と談笑まで始めている。




「 顔だけは傷つけないで下さいね?後はお好きにどうぞ。 」



そう言い聞かせると、待ち切れない様子だった一人の仲間の男が勢いよく飛び出した。





「 ひゃっほーーー!!!一番のりぃぃぃーーー!!! 」




そう叫びながら彼は手に持つハンマーを執事の顔めがけて思い切り振り下ろしたため、その勢いにより爆風が巻き起こった。


私はそれにより舞い上がる砂ホコリから顔を守るため片手で顔を覆うと、霞んだ視界のなかこちらに背を向けて立つ仲間の男に向かって恨み節をぶつける。



「 ちょっと・・顔は傷つけるなっていったじゃないですか!

まったく ” 待て ” も出来ないなんて犬以下です!

あーー・・綺麗な顔がぐちゃぐちゃじゃないですか~・・ 」




徐々にはっきりしてくる視界に、睨みつけていた背中がしっかりと見えてくるとその違和感に気づいた。



男の体が浮いているーー




そしてブランと力なく垂れてきた手からは、ハンマーが重力に逆らうこと無く抜け、ゴトリッと大きな音を立てて地面に落ちる。


そしてそれが合図だったかのように仲間の体はグラリと横にずれていき、そのまま地面に崩れ落ちた。


その場に残るのは、腕を振り上げるかたちで立っているあの執事の男。


一体何が起きたのか、その場の誰もが分からず呆然としていると、執事の男はパンパンと汚いものでも触ったかのように手を払う。



「 やれやれ、たった一発腹部を殴った程度で気絶とは・・

明らかな鍛錬不足、こんなゴミクズのような実力で私に挑むおつもりかな?

戦闘資質を持っていても努力なしではただのゴミ、名匠が打った伝説の剣もゴミではつかえません。

まぁ、それを理解できるお方はここにはいないでしょうが・・ 」




カッ!!と怒りが湧いたのは私だけではなくその場の全員が同じ気持ちだったようで、前衛担当の4人が一瞬でその執事の男の方へ飛び出し、一斉攻撃を繰り出した。



それを眺めて、はっと鼻で笑い、非戦闘系資質の弱者が調子に乗ってるからだとニヤニヤしながらその執事の無様な姿を思い浮かべたーーー



ーーーが、その執事は気がつけばその場におらず、攻撃した仲間たちは、空を斬った武器をキョトンと見つめてから慌てて周囲に視線を動かす。



するとそれを待っていたかのように執事は仲間の一人の背後に立っていて、「 へ?? 」と間抜けな声を発し振り向いたそいつの顎を目にも留まらぬスピードで蹴り上げた。



「 ・・・ぎっ・・!! 」



無様な声を上げながらその仲間は白目を向き、その場に崩れ落ちると、それに気づいた別の仲間達がまた一斉に攻撃を繰り出すーー


ーーが、執事はまたしても消え、今度は残る仲間の頭を鷲掴みにし、そのまま自身の膝にそいつの顔を叩きつけその貌を潰した。


そして顔を叩きつけられた仲間が倒れると、その隣にいた別の仲間は、後ろの下がろうとしたのだが、執事は軽く足を払い、倒れ込んだその仲間の腹を容赦なく踏みつけた。


特攻した四人のうち三人が一瞬で倒され、立っているのはたった一人・・その仲間は明らかに狼狽え、後退りをするもあっという間に距離を詰められ顎にストレートをくらい沈黙した。




まさに瞬きする暇もない、一瞬の出来事であった。




残された私と残りの仲間五人は一瞬で笑いを引っ込め、一気に警戒モードに突入した。




「 ・・一体何のスキルを使ったのですか?

< 影従士 >如きが戦闘職の資質をもった前衛職を一撃で倒せるほどの実力があるはずがない。

まだ未発見のユニークスキルか・・ 」



「 いいえ?ただ純粋に殴りつけただけですよ。

真の強さとは己の肉体、精神力によって引き出されますので、それをもたない弱者がいくら強力なスキルを使ったとしても何の役にもたちません。

まさに ” 昼間のキラリマッシュ ” ですね。 」





< 昼間のキラリマッシュ >


キラキラ光る笠をもつキラリマッシュは夜には重宝されるが、昼間は全く役に立たないことから、持っていても役に立たないものを比喩することわざ





「 は? 」




ーーーこの私が弱者?




その言葉を聞いて私の心はどす黒い怒りが生まれる。



” 弱いモノはこの世界のいらぬもの。だから好きに扱っていい。それがこの世の ” 正しき ” 



この執事は私の ” 正しき ” 世界を害そうとする ” 間違った ” 存在で、いわば ” 悪 ” の存在そのもの


今すぐにでも断罪しなければならない存在であると私は強く確信する。



「 何のスキルを使ったのか知りませんが、油断していた仲間たちを倒したからっていい気にならないことです。

こちらはたった今、戦闘態勢に入りましたからもうあんなまぐれは二度と起きませんよ。 」



「 ですからスキルは使って攻撃などしていないと先ほど申し上げたたのですが・・

情報を得るための耳か、その情報を理解する脳に重大な欠陥があるのでしょうね。

その能力がもしあったなら今頃は穏やかな世界で幸せに暮らせていたでしょうに・・

残念でしたね? 」



ブチブチブチーーー!!!という大きな音をたてて、自身の額の血管が切れるのを感じた。



私の世界を馬鹿にされた!!!否定された!!!



こんなクソみたいなゴミ資質野郎に私の ” 正しき ” 世界は侮辱されたのだ!!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...