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第四章

158 迷子の迷子の・・

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( 傭兵達 )



「 へへっ、なんだよ。

< 守衛師 > とか全然大したことねぇじゃねえか!

あっさり中に入れたぜ。 」



傭兵達は正門を抜け広い迷路の様になっている庭園を走りながら一斉に笑い出す。


数は10、かなりのスピードで進んでいるため随分と広い庭園だが、5分もしない内に屋敷に到着するだろう。


そう傭兵達は確信を持っていた。



「 いくら中級資質ってもピンきりだからな。

希少価値が高いっつーだけで全然大したことない資質もゴロゴロあるし、< 守衛師 >もその類だったんだろう。

まぁ、そもそも消す予定のボクちゃんにそんな優秀な兵士なんて雇わねんじゃね? 」



ちがいねぇ!と言ってまたドッと笑う傭兵たち。


傭兵たちは上機嫌だ。


もうすぐ金、名誉、名声、その全てが手に入る。

逸る気持ちを抑え一人の傭兵が口を開いた。



「 このまま屋敷に侵入して金目のものは根こそぎ奪うぞ。

屋敷にいる奴らはザイール達がやるって話だが・・要は殺さなきゃいいんだよな? 」



その意味を理解した面々はニタ~と笑った。



「 おいおい、お前直前まで娼館で遊んでたんだろう? 」



「 へへっ、いいじゃねぇか。

どうせ殺すんだったらその前に使ったってよ。

女が大当たりだな。

後は優男が一人と・・まあ、華奢なら俺いけるかな~?

もうひとりの男は・・あ~、ごつすぎて無理。

あとリーフ様も手指が動かねぇ顔だよな、ションベン臭くて。 」



「 俺、男だったらパス~、とりあえずボコって楽しもうかな~ 」



足を動かしながらワイワイと楽しくおしゃべりしていたが、次第に口数は減っていき、全員の顔に焦りが出てきた。




もう既に15分は経っている。



なのに庭園の景色はなにも変わらず美しい色とりどりの花が咲き乱れ、目を楽しませるだけ。


まぁ、もっとも、花を見て美しいと想うような上品な感性を持っている者は一人もいないが・・




「 ・・おいっ、なんか変じゃねえか?

こんなに走ってるのにまだ屋敷の前に辿りつかねえぞ? 」



一人の男がそう声を上げると全員足を止め、改めて周囲を見渡した。


周りはまるで壁のように並び立つ緑に覆われた景色とそれを飾る色とりどりの花々・・まるで本物の迷路のようだ。


ゾッと背筋に嫌な感覚が走り、一度戻るぞという声を皮切りに全員元来た道を引き返し始める。


ーーーーが、やはり先ほど同様、全く代わり映えのしない景色に一人の男が怒鳴り散らした。



「 ちきしょう!!どうなってやがる!!

なんで入り口すら見つからねえんだよ!!!

それどころか景色1つ変わらねえじゃねえかっ!!! 」




傭兵達は次第にザワザワとし始め一旦その場に止まり、イライラをぶつけるように壁のように立つ緑の葉の固まりを蹴り飛ばした。



その瞬間ーーー



ーーーゴゴゴゴ!!!と音を立てて凄まじいスピードで再生していく葉っぱ達、あっという間にそれは元の状態へと戻ってしまった。


衝撃の出来事に固まる傭兵達、そしてその様子をあざ笑うかの様に響き渡る女のキャハハッ~!という無邪気な笑い声。




そこでやっと傭兵達は敵の術中に嵌っている事に気がついた。







< 迷い人の資質 >  (ユニーク固有スキル)



無限迷子


自身がテリトリーと決めた場所に巨大迷路を出現させ、敵をその中に閉じ込める空間系スキル。

迷路は無限に増やす事ができ、またその構造も好きに構成できるため一度入ってしまえば出る事は非常に困難。

また任意ではなく自動発動も可。



(発現条件) 

心に巣食う感情の迷路を解き、その答えに3回以上たどり着くこと。

ある一定以上の魔力、魔力操作を持つこと

一定以上のポジティブ、聡明、決断力を持つこと







リーフ邸の専属侍女、ジェーンの資質は< 迷い人 >



特に突出した能力も無いとされる下級資質であったが、ある時を境にその才能は開花し始める。


その中でももっとも強力、かつ稀有なスキル:< 無限迷子 >は、常にリーフ邸を覆っており、彼女が承認しなければ屋敷にたどり着くことはできない。



「 ーーー!!くそがっ!!

空間系のスキル持ちがいるなんて聞いてねえぞ!!

これじゃあ誰一人外に出れねえじゃねえか!! 」




再生すると分かっているが、男は苛立ちを抑えきれず剣で周りの花をぶった斬る。



全員が忌々しそうに顔を歪め、なんとか脱出を・・と策を練っていると、突然花を斬った男が前にバターンと倒れた。



まるで糸が切れたかの様な倒れ方に、全員が呆れながらこんな時に悪ふざけはやめろよと倒れた男を責めるも男は起き上がろうとしない。



もっとも近くにいた別の男が「 おいっ!! 」と咎める様に屈んでその顔を見ると、倒れた男は恐怖を感じているような形相をしていて、汗を大量に掻きながら目で必死に何かを訴えようとしている。



それを見た男が、「 ひっ!! 」と後退りしようとするとーー・・・



その男も同様にバタンと倒れ込んだ。



その様子を見た仲間達はただごとではない事を察知し慌てて武器を構えるも、一人、また一人と次々に傭兵たちは倒れていく。



ほぼ全員が倒れてしまった中、立っていたのは一人だけ



唯一立っている男は倒れてしまった仲間たちを呆然と見下ろし、「 一体どうなっていやがる・・」と呟いた。




その時ーー






「 おや?一人、毒の耐性持ちがいましたか。 」



穏やかな若い男の声がし直ぐにそちらに視線を向けると、視線の先には一人のニコニコと笑う優男の姿が・・



そいつは胸に手を当て一礼すると、呆然としている傭兵に向かって言った。




「 こんばんは。

ボクはリーフ様の専属庭師のクランと申します。

ボクの庭園へようこそ、侵入者の皆さん。 」

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