天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

第四章

１５７ VS 傭兵達

（　ジェーン　）



私は現在公爵家メルンブルク家の次男、リーフ様に仕える専属侍女である。


元の生まれは凄く資産が潤っているわけでもないが貧乏でもない、そんな平凡な男爵家で年の離れた兄二人と仲睦まじい両親の元、何不自由無く育てて貰った。


待望の女の子、しかも兄たちより一回りも離れていた私は、両親にも兄たちにもベタベタのドロドロに愛されて日々を過す。


”　ジェーンは我が家のお姫様だ！　’

”　世界一可愛い女の子はジェーンだよ。”

”　皆が君の虜になる！　’


そんな口癖の様に毎日囁かれる言葉に、”　そうか！私って世界一可愛いんだ！　”　と思っていた。



ーーー準成人を迎えるまでは・・



この国の殆どの貴族たち同様、私も家の近くにある中学院に通うことになったのだが、そこには今までとは１８０度変わった世界が存在していた。


洗練された美しさをもつご令息、ご令嬢！

上から下まで完璧といえるコーディネート！

生まれながらの気品オーラ！！



そんな人達がうじゃうじゃいる中で私は悟る。




私、めちゃくちゃ平凡じゃん・・・と




自分が可愛いとはとても言えない平凡な容姿であること、その事に気づいた時は本当にショックで、しかもその当時憧れていた男性が物凄い美人と結婚した事も相まって私は三日三晩泣きはらした。


そもそも両親も兄も凡庸な顔立ちで、それにそっくりな自分が可愛い顔なわけないじゃないかと、そう卑屈に思うことで大好きな両親や兄まで侮辱してしまった事に気づきまた泣いた。


オロオロと心配する両親と兄たち、それにこれ以上迷惑かけたくなくて、今度は自分が美しさの中心に立つのではなく、そんな人達をサポートする人になろう！


そう決意し、今までサボりがちであった勉学を死ぬ気で頑張った結果ーーーなんとその努力が実り、あの美しさで不動のナンバーワン！公爵家メルンブルク家の侍女として雇ってもらえることになったのだ。


それはそれは美神の如くの完璧な容姿、優雅で洗練された仕草、一つ一つにセンスを感じる完璧なコーディネート。


メルンブルク家の人間達はまさにこの世に降臨した神の使徒ーーーー








ーーとは正反対のクソみたいなゴミ共だった。



毎日毎日　”　施し　”　と言う名の乱れた交流会、お互い競い合う様に雪だるま式に増えていく愛人達、他者は使い捨ての道具でしょ？と真剣に語るクソ理論。

そしてそんな両親の元で育っていくコピーか？と言いたくなるような子どもたち。



それを見て私の二度目の悟り



”　人間中身が一番大事　”




美に対する憧れは遥か彼方まで吹き飛んでしまい、退職しようと決意した頃のこと、奥様のマリナ様がこの家の３人目となる次男リーフ様をご出産した。


またあの両親のコピーが誕生したのか・・とうんざりしながら部屋の外で控えていると、何やら様子がおかしい事に気づく。


中で聞こえるマリナ様とカール様の怒号、ドタドタと騒がしい音がしたと思ったら突然ドアが開き部屋から生まれたての赤子を抱いた執事長カルパス様の姿が・・


部屋の前に待機していた侍女たちは彼に抱かれている赤子をみて全ての事情を把握した。



そうしてリーフ様はひとまず別室に移されたのだが、マリナ様は酷く錯乱していて侍女たちは総出で向かわねばならなくなった。


しかし、生まれた赤子を一人にするわけにはいかないと誰かが残る事になったのだが全員が関わりたくなくて沈黙する。



公爵家の最大のトラブルにあえて近づきたくない。



そうひしひしと感じる空気の中、私は、はいは～いと手を上げて喜んで立候補した。


明らかにホッとする面々、そして全員がそそくさと出ていってしまえばその場に残るのは私とその生まれた赤子だけ。


赤子のリーフ様はうにうにと手足を動かし、こちらの状況も知らぬまま「　あ～、う～　」とご機嫌な声を上げる。


可愛いな～とヒョイッと抱き上げゆらゆらと揺らしてあげるとウトウトし始めるリーフ様に自然と表情も緩む。



こんな可愛いのになんで　”　いらない　”　なんて言うんだろう・・




ドアの外からとぎれとぎれに聞こえた暴言の数々に、”　だったらそもそも下半身の交流会なんてするなーー！　”　と心の中でツッコミを入れたが、今更何を言ったって生まれてきた命に責任を持つしかない。



しかし、きっとあの様子では十数年後、リーフ様は・・




あのカール様とマリナ様の様子からこの赤子の未来を想像することは容易い。


私は眠ってしまったリーフ様をそ～とベッドに下ろすと改めてその赤子を見た。



茶色い髪に、あの二人に似ているところが１つもない容姿、鼻の頭にはそばかすらしきものまである。


”　平凡　”　まさにそんな特徴を持つリーフ様に自身の半生を想う。



平凡な容姿の私


でもそんな私を可愛い、可愛いと死ぬほど愛してくれた両親に兄ーー


外見など関係なく私という人間を愛してくれる、必要としてくれる、受け入れて居場所をくれる




それって本当に幸せな事だったんだ




私はそうして三度目の　”　悟り　”　を得る。


そして思った。


私は私が貰ってきた沢山のものを今度は他の誰かに与えていくべきだ。


与えてもらった幸せで今度は誰かを幸せにすること、それが私の　”　正しき　”　世界のルールだから。



だから私が幸せを返す相手はこの子にしよう。




ーーうん、そう決めた！




決意も固まってベッドを見下ろしニマニマ～としていると、突如寝ていたはずのリーフ様がカッと目を開けた。



ちょっと驚いてビクッとしてしまったが、起きちゃったかな～？と話しかけようとしたその時・・なんとムクリとリーフ様が立ち上がったのだ！



え？えええええーーー！！！？？？




驚き口をあんぐりと開けて呆然としていると、チャンチャララララン♪　という聞いたことない独特の音楽が部屋で流れはじめ、そこら中に音符のような記号がフワフワと浮かび上がった。


そしてーー・・


なんとベッドの中でこれまた見たこと無いような動きでリーフ様が踊りだしたのだ！


頭がハテナマークで埋まり正常な判断能力がもはや迷子となった頃、踊り終わった様子のリーフ様は満足そうに笑い、


「　あ～楽しかった！　」と言った。




そこで私の意識は薄れ、目を覚ませば目の前にはスヤスヤと眠ったままのリーフ様の姿が・・・



あれ？私、夢見てた？？



ゴシゴシと目をこすり、もう一度リーフ様を見下ろすと眠った時から全く動いてないのが、シワ１つ無いシーツによって分かった。


疲れてたのかな？と不思議な気分のまま、私はその後様子を見に来たカルパス様に今後の予定を聞き出し、一緒にいきま～す！と喜んで立候補したのだった。



昔の事を思い出しながらリーフ様の成長にフフッと笑った後、私は机の上に置かれたチェス盤の駒を１つ進めた。