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第四章

149 愛とは?

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( リーフ )



懐かしさに目を細めていると、隣に座っていたレオンが、「 リーフ様? 」と怪訝そうな雰囲気でこちらを見ているのに気づき、ハッ!と現実に意識が戻ってくる。



「 あ、ごめんごめん。

結婚式があまりにも素敵だったからぼんやりしちゃったんだ。


本当に綺麗だね。 」



「 ・・そうですか。 」



レオンはそう答えてから、花婿と花嫁の姿をじっと見つめる。


もしかして興味を引かれているのでは?とワクワクしていると、レオンは不思議そうな表情をうかべて言った。



「 リーフ様、” 愛 ” とは一体どんなものですか? 」



” 愛 ” 



なんとレオンが愛について尋ねてきた!


これは赤飯レベルだ!とテンションはうなぎ登り。


ぜひともその疑問についてお答えしなければ!ーーと気合が入るものの・・これはとても答えるのが難しい質問だと考え込んでしまう。



” 愛 ” と一言で言っても沢山の種類があるわけで、恋愛、家族愛、友愛、親愛・・と上げたらきりがない。



生まれてすぐ捨てられてしまった俺にとってパッと思いつく愛とは、まきやパン屋のみち子さんに向けていた恋愛と、陽太や友人たちに向けていた友愛や親愛、それに子どもたちに向けていた加護愛、慈愛くらいだろうか?



正直、語るほど ” 愛 ” というものを理解してない上に、恋愛にいたっては成就したことがないから語っていいものか分からない。



まぁ、結婚式という狭いカテゴリーで考えれば、教える愛は ” 恋愛 ” でいいと思うが・・


しかし ” 恋愛 ” 一つとっても、身を焦がす様な愛もあれば、穏やかに慈しむ愛もあるし、独占欲の強い重苦しい愛もあれば、性欲にすぐに負けちゃう軽い愛もあるし、一般論で語るのがとても難しい。



俺はう~ん・・と悩みながらも年長者として伝える努力はしてみようと口を開く。




「 そうだね~、” 愛 ” っていっぱいあるからね。

レオンは結婚に興味があるの? 」



「 興味・・?


・・・どうでしょうか。


ただ不思議な気がします。

全くの別の個体同士が出会い、これからの人生を共にするという事が。


それを決める ” 愛 ” とはどのようなものなのかと・・ 」




レオンはいつもより柔らかい雰囲気でそういった。


なるほど。


レオンが興味を持ったのは ” 恋愛 ” についてらしい。




これはこれは・・


俺はにんまりと三日月のように目を細めほくそ笑む。



甘酸っぱい青春の始まり・・その第一歩を踏み出す直前、そういうことだね?



それに気づくと、俺の口端はニヨニヨ~と上へ上へと上がっていき、おっとっと!と口元を慌てて手で隠した。




ならばキラキラした美しい恋愛について教えてあげよう。

レオンはとりあえず少女漫画レベルからだ!



口元から手を外しゴホンと咳払いをしてから俺はレオンにペラペラと語り出す。




「 やれやれ、レオンはお子様だな~。


ずばり一緒にいて幸せだなって感じることだよ。


愛があれば、隣にいるだけで、目が合うだけで幸せな気持ちになるんだ。

あとは姿が見えないと会いたくてたまらなくなるし、その人のためなら何でもしてあげたくなる。


その人が何をしても可愛くてたまらない気持ちになって、ずっと一緒にいたくなるし、幸せになって欲しいと誰よりも願うようになるよ。 」





「 ・・ーーーえっ・・? 」






レオンはなぜか驚いたような顔をして固まった後、かぁぁと顔を赤らめる。



おおっと、しまった。

純情恥ずかしがり屋さんのレオンにはちょっとレベルが高すぎたか・・



予想以上の反応に失敗してしまったかと少々心配になってしまったが、なんのなんの。


俺もこのくらいの年の頃、まきに対し今のレオン同様の反応をしては枕に顔を埋めて恥ずかしがっていたものだ。


微笑ましくて思わずにっこりし、そして甘酸っぱいまま終わってしまった自身の恋愛を思い出す。




「 でも、残念ながら自分と一緒にいても幸せになれないことが世の中にはあるんだよ。

その時はその人の幸せを願って離れてあげるのも ” 愛 ” ってやつだと思うよ。


自分が側にいなくても好きな人が幸せなら嬉しいものさ。 」




な~んちゃって!




自分の恋愛経験を語ってしまいちょっと恥ずかしくなって頭を掻く。


歳をとると、若い子相手にちょっとだけカッコつけたくなるもんだな~などと照れてしまった、その瞬間ーー



ブワッと物凄い殺気がレオンから放たれた。




それをまともに浴びてしまった俺の体は凍りつき、体中から汗が一瞬で吹き出す。



指一本動かす事は出来ず、更に喉はひりつき「 う・・あ・・ 」といううめき声しか出せない。

どうにかして乱れる呼吸を整えようとヒューヒューと息を吐きつづけると、俺の状況にすぐに気づいたレオンは慌てて殺気をかき消した。


それにより俺の体は崩れ落ちガクリと力を失うと、青ざめた顔のレオンが抱きとめてくれて、そのまま震える手でお茶の入った袋を口元まで持ってきて飲ませてくれる。




「 あ・・俺・・あぁ、どうしよう・・


俺、そんなつもりじゃ・・ 」



レオンはパニックを起こしているようでうわ言の様に繰り返し謝罪を呟きながら俺に、お茶を飲ませてくる。


そのおかげか、徐々に呼吸は整い固まった体は元通り動くようになった。





ーー・・あーびっくりした~。




俺は、ぷはぁっ!と大きく息を吐き出し、殺気でこんなに体が固まるのか~と初めての体験に衝撃を受ける。


なんといってもビリビリ草を握った時より痺れが上!


これは早々に慣れないと勝負の時に不戦勝になってしまうおそれがあるぞと危機感を抱いたが、とりあえず、” もう大丈夫~ ” とレオンに伝えようとして、そこでやっと何故レオンがこんなに激怒したのかを理解した。




レオンの現在の身分は俺の< 奴隷 >。


< 奴隷 >とは所有物と同じ扱いであり、恋愛すること自体許されぬ身分である。




つまりレオンからしてみれば・・・




゛ 恋愛?偉そうにそんなものを語りやがって!

こちとらお前に奴隷にされて恋愛も結婚もできないだろ! ゛





ーーそのお怒りはご尤も・・




なんて無神経なことをレオンに言ってしまったんだろう・・


これは絶対言っては駄目な言葉だったと気づき、慌てて謝ろうとしたがーー・・



俺はリーフ・フォン・メルンブルク


レオンをいじめ抜き、彼の力を引き出すことが役目の極悪非道の悪役・・



その事を思い出し、ぐっと謝罪の言葉を飲み込んだ。



なんて言えばいいのだろう・・と迷いながらレオンを見上げれば、レオンはパニックを起こしたまま泣きそうになっているのが見えた。



呪いが解けた後は、誰もが羨むほどの沢山の愛情をこれでもかと向けられるレオンだが、現在それを知っているのは俺だけ。



レオンからすれば、呪いはあるわ、奴隷にされるはで踏んだり蹴ったり、その上酷い暴言により傷つけられ、怒った際の殺気が原因で、これから主人たる俺にひどい目に合わされるかもしれないと、そんな恐怖でガタガタ震えているのか。



謝ることはできないが、罰を与えるつもりはない事を伝えなければと、俺はまずレオンの首に両手を伸ばしそのまま力一杯ぎゅーっと抱きしめた。




そしてひゅっ!と息を吸ったまま固まるレオンの体をペチペチと叩く。



前世にて、施設にいた子供達はよく俺を試すような酷いいたずらをしては、今のレオンのようにどうしよう、どうしようとパニックを起こす子達が少なからずいて、

そんな時は、言葉で伝えようとしても中々伝わらず、代わりにこうやってぎゅーっと抱きしめて ” 怒ってないよ~ ” ” 大丈夫だよ~ ” とアピールをしていた。



レオンにもそれが上手く伝わったようで、震えは徐々に収まっていき、完全になくなったタイミングで俺はレオンからそっと手を離す。


するとレオンは子供扱いされた恥ずかしさからか耳の方まで真っ赤になっていて、さらには困ったように眉をハの字にして俺を見つめていた。




「 奴隷は開放されるまでずっと主人のもの!


つま~り!レオンはずっと俺のもの!


いさぎよく諦めて一生俺のうしろについてこ~い! 」




分かったかな~?と悪の親玉のような悪どいセリフを言うと、レオンは泣きたいような笑いたいような顔をして「 はい。 」と答えた。




それからいつものレオンに戻ったので、二人で家に向かって帰っていったのだがーーー

後日その広場で巡回中だった数少ない守備隊さん達が一斉に気絶したという話をイザベルから聞き、怖いね~と語り合ったのだった。


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