天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

第四章

１４８ 愛と友情と結末と・・

（　リーフ　）




まきを紹介してからは、時間さえ合えば三人で遊んだりご飯を一緒したり第三者から見れば特に何の変哲もない穏やかな関係性が続いていったが・・

俺の心の中にはジワっとした嫌な感覚を与えてくるものがこびりつき、ずっと離れない状況が続いていた。



そんな日々の中、その夜もたまたま三人の予定が合ったので、"  俺の家で一緒に夕ご飯を食べよう  "  と俺が誘い、家に陽太とまきが集合した時の事だった。



その頃の二人は必要なこと以外は話さないようにしていて、意図的に当たり障りない態度を貫いていたと思う。




そんな平静を装う2人を見て、俺は突然、ふっ・・と思った。






あぁ、俺が二人にそんな事させているんだなーーと。





それに気づいた瞬間　”　ごめん　”  と自然にその言葉が口から飛び出し、そのまま俺は頭を深々と下げた。




二人は訳がわからぬ様子でキョトンとした顔をしたが、陽太は、あっと気づいた様子で、


”　なんだよ、お前さては、いたずらでも仕掛けたな？　”　

ーーと言ってニヤッと笑ったが、ずっと頭を下げたままの俺に徐々に雰囲気は硬くなっていく。



まきもなにか不穏な雰囲気を察し、固まってしまっているのに気づきながら俺はゆっくり顔を上げた。




”　二人が惹かれ合っているのは知っていた。

でも今まで気づかないふりをしていた。



・・だからごめん。　”





俺の言葉を聞き終わった陽太は下を向いて黙り、まきは震えた。





二人は俺の為に自分の気持ちを捨てる覚悟をしてくれた。



俺は二人に凄く大事にしてもらっている。





悲しい気持ちを包み込む様に、暖かい気持ちが大きく心に覆い被さると、ジワっとした嫌な感覚は徐々に溶けていった。




世の中には、好きになってしまったから仕方がないと愛を言い訳に使って人を傷つける人達が沢山いて、影で互いの想いを確かめあい安全な場所を作ってから相手を切り捨てる。


そんなありふれた狡くて酷いやり方を二人はしようとしなかった。




それは俺を大事な存在であると思っていてくれているからで、俺という存在を最大限に尊重してくれているからだ。





もうそれだけで十分だ。





暖かい気持ちは俺の２人に対する　”　大好き　”　の気持ちをしっかりと守ってくれて、心の底から俺は大好きな二人の心を捨てさせたくないと思った。



選びたい答えをしっかりと出せた俺は、悲しい気持ちに引きずられて泣き出しそうになる顔を必死に笑顔に変える。




”　まき、別れよう。


今まで本当にありがとう。”




なんとかそれだけ伝えて、俺は部屋から飛び出した。




背後からは二人が俺の名前を呼ぶ声がしたが、今は少しだけ自分の気持ちを整理する時間がほしかった。






走って、走って、走ってーーー

結構な距離を走り続けて、やっと俺はとある公園に辿り着く。



その年は桜の開花が早く、満開を超えた今は公園に咲いてる桜達のほとんどが散り始めている状態で、ハラハラと花弁が落ちる姿はまるで雪が振っているようにも見えた。


そんな花弁達を振り切る様に歩き、俺は一本の大樹の前へと到着するとその前に置かれているベンチへとゆっくりと腰を下ろした。







ここは俺が捨てられた場所ーー





俺の始まりの場所だ。







そこに座って暗くなった空を見上げながらまきの事を想う。




まきの両親は、お互いに　”　真に愛する人　”　がいて、ほとんど家には帰らず、彼女はずっと一人きりの部屋で帰らぬ両親を待ち続ける日々を過ごしていた。


そして小学生に上がる頃には二人揃ってその　"   真に愛する人  "   の元へ。


両親の姿が全く見当たらなくなった事に気づいたら近所の人が通報し、やっとまきは保護されたのだった。



しかしまきは保護された時もそこを動きたがらなかった。



両親からの愛情を渇望し、食べ物もロクに無く電気すらつかないその部屋でもずっと帰ってこない両親を待ち続けたかったのだと、後に彼女が言っていた。



その体験はまきの心に今でも大きな影を落としていて、孤独を酷く怖がり一人になると彼女の思考はひどく沈む。



”　また捨てられるんじゃないか？　”


”　自分はいらない子なんだ　”　



そうずっと苦しんでいるのは知っていたのに、俺は　”　孤児院の子供が熱を出した　”　”　酷い喧嘩をした　”　”　泣いて手がつけられない　”　そんな様々な理由で彼女を一人にしてしまう事が多かった。




俺はまきが欲しい一番を与えることができなかったのだ。



俺は彼女を幸せにすることができない・・・その事実は俺の胸に突き刺さる。




せっかく両親を待ち続ける日々から抜け出せたのに今度は俺を待ち続ける日々を過ごさなければならない、そんな時、陽太と出会って察してしまったのだろう。



この人が自分がもっとも欲しかったものを与えてくれる人だと。



そして陽太もまた駆け引きなしで純粋に自分だけを愛してくれる人だと感じ取ったのだと思う。



陽太は両親に愛されて育ち、沢山の愛に囲まれて生きてきた男で愛し方も愛され方もよく知っている。


だからこそ、きっとまきの孤独に寄り添い、負ける事なく時にはまきの孤独ごと抱えて強引に前に進んでくれるに違いない。



俺にその愛し方はできない。




それを完全に理解した俺は泣いた。




もう体中の水分が全部出ちゃってるんじゃないかってくらいにボロンボロン泣いて泣いてーーそのまま結構な時間が経った頃、落ち着いてきたタイミングで横から缶コーヒーが差し出された。



上を見上げると眉を情けなく下げた陽太がいて、差し出したコーヒーを押し付けてきた後は無言で俺の隣に座り込む。



陽太の手には自分の分のコーヒーも握られていて、それをグイッと飲んだ後、突然俺との思い出話を話しはじめた。



俺と初めて会ったときの事、それからガラリと変わった学生生活の事、あれもこれもと俺たちは夜どうし語り合い、最後に陽太は　”　ごめん　”　と一言俺に告げる。




俺はそれに対し、二カッと笑い、”　二人共幸せになってくれよ　”　と言うと、陽太は、昔から変わらぬ笑顔で　”　分かった。ありがとう。　”　としっかりと答えてくれたのだった。






その後、二人は順調にお付き合いを始め、新しい関係性を築き始めた俺達。


二人としてはそれなりに山あり谷あり色々あった様だがそれを見事に二人で乗り越えとうとう結婚し、それを俺は心から喜んだ。


しかし、なんと二人は結婚式も新婚旅行も絶対にやらないと言い張ってきたので、そこでまた少々拗れたが、結局は　”　やらなきゃここで一生駄々をこねるぞ！　”　と脅した俺が勝利。


そうして半ば無理やりやらせた結婚式であったが、小規模ながら二人は凄く幸せそうで俺は本当に嬉しかった。



”　大好きな二人が幸せになってくれて嬉しい　”


そう思う頃にはまきに対する気持ちは愛情から親愛へと変化していて、俺にとって二人は幸せの象徴的なものになっていた。



そんな二人にはとうとう子供はできなかったが、その分寄り添って仲睦まじく暮し、休みの日には、俺が園長になった「　りんごの家　」によくボランティアとして手伝いにきてくれてしばらくの間は順調そのものだったがーーーー



ある日俺が病に倒れた事でそれは終わりを告げる。




ここ最近体調が思わしくなかった俺に告げられたのは、末期のがんであった。



もう手の施しようがない病状に、余命宣告をされた俺が一番に考えたのは自身が経営していた「　りんごの家　」の事。


早急に任せられる人を探さねばと頭を悩ましてたある日、突然陽太がやってきて、”　気に食わねぇ上司をぶっ飛ばしてクビになった。雇ってくれ。”　と言って頭を下げてきた。


ポカーンとしていると、今度はまきが駆け込んできて、”　仕事でミスしてクビになった！雇ってください　”　と叫ぶ。



鉢合わせした陽太とまきはお互い顔を見合わせて驚いていたので、どうやら二人して何の相談もなしに仕事を辞めてきてしまったらしい。



俺は二人の気持ちは凄く嬉しかったが、こんな赤字ギリギリの孤児院を押し付けるのは申し訳なく断った。


ーーーが、二人は頑として諦めない。




俺はどうしたもんかと悩んでいると、二人は言った。



”　この「　りんごの家　」はお前の子供だ。

なら親友の俺たちが引き取るのは当然だろう　”　と。



それを聞いた瞬間、俺はボロボロ泣いてしまい、そして二人に　”　ありがとう　”　と心からの感謝を伝えた。




それから二人は孤児院の新しい園長と副園長になり、俺が死ぬまでずっと側にいてくれて最後は大勢の子供たちとともに俺の最後を看取ってくれたのだ。