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第四章

147 大樹の記憶

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☆ リーフさんと女性のちょっとした絡みがありますので少し注意ですm(_ _)m





( リーフ )




結局それから色々なお店を見て回ったが、残念ながらレオンが興味を持つものは1つも見つからず・・

仕方がないので俺達は街で人気の ” 肉パン焼き ” を買って教会近くの広場へ向かった。



そこは教会がすぐそこにある広い広場で、休みの日にはそれなりに人が集まるが、平日の日中である今はポツポツと人がまばらにいるくらい。


暖かい日差しの中、木の根本にレオンと並んで座りそんな人々の流れを見ていると、レオンは買った服を隣に置き、俺に買った肉パン焼きを手渡してくれた。



肉パン焼きはカレーパンに近い感じで外はカリカリ、中身は大振りのお肉がゴロゴロ入ったシチューがパンパンに詰まっていて、人気なのは納得の美味しさなのだ。


レオンに御礼を告げそれを受け取り、パクリと一口齧ればじゅわっと広がるシチューの旨味。

そして続いてやってくるのは、しっかり主張してくるホロホロ溶ける柔らかいお肉達!


その美味しさに思わずーー「 うぅ~・・ 」と唸ってしまうほど、俺の口の中は大騒ぎになってしまう。



ハフハフ、フーフーっとその旨みを堪能しながらレオンにも与えつつ一心不乱に食べているとーーー





リンゴ~ン、リンゴ~ン






大きな鐘の音が教会から聞こえてきた。




そしてその音に合わせ、近くに建っている教会から白いタキシードを着た男性と純白の可愛らしいドレスを着た女性が出てきたので、思わず視線はそちらへと移る。



どうやら今日は教会で結婚式が行われていた様だ。




幸せそうに寄り添い笑い合う、花婿と花嫁。


後に続いて出てきたのは ” おめでとう~ ” と口々にお祝いの言葉を投げながら花をばら撒く人々の姿。




ーーーとても綺麗で幸せに溢れた光景だった。





そんな幸せの象徴のような景色を見て、俺は自分が ” 森田 大樹 ” だった頃を思い出す。


そして続けて幼馴染の〈 まき 〉の事も、親友であった〈 陽太 〉の事も・・






俺と〈 まき 〉は同じ孤児院【 りんごの家 】で育った同じ年の所謂幼馴染という関係で、出会いは小学校も半分が過ぎた頃ーーー彼女が突然りんごの家へ保護されてきた時から始まった。



紹介された時に、平均よりもかなり小さくオドオドと周りを気にするまきを見て、力になりたいなと思ったのが初まり。



それからは部屋の隅に一人うずくまるまきにしつこいくらいに自分がしたい遊びに巻き込み、彼女は少しづつ笑顔が増えていった。


そして怖がりで気は弱いが気丈に頑張ろうとするまきの笑顔を見ているうちに、俺は彼女が好きなんだと、ある日唐突に気づく。




”    まきが好き "  




じゃあ、早速告白しよう!







ーーーーというわけにはいかず・・


もだもだと見つめるだけの長い長い片思いの期間が続き、とうとう高校を卒業する日まで来てしまった。




"   このままお別れになるなんて嫌だ!  "   



唐突に湧き上がったその気持ちに従い、俺は、そこでやっとまきに自分の気持ちを伝える決意をしたのだ。




顔は真っ赤で呂律も回っておらず、渡した花もセンスがいいとは決して言えない酷いものだったと思うが、まきは泣きながら嬉しいといってその花を受け取ってくれた。



その時ほど俺は自分が幸せ者だと思った瞬間はない。



俺はびゃーびゃー泣きながら "   受けいれてくれてありがとう "   と大号泣したのだった。





それから俺とまきはお互い初のお付き合いというものを始めたが、それははたから見れば非常にマイペースなものだったと思う。



沢山お話をして、たどたどしく手を繋ぎ、休日は二人でお出かけ。


そしてそれからだいぶ経ってから初めてのキス。



幸せだった。



” 愛 ” はこんなにも自分を幸せにしてくれるものだと初めて知り、それを与えてくれるまきを心から大事にしたいと思った。





だから俺は、


"   結婚するまでこれ以上自分の気持ちだけで関係を進めない  "


そう誓いまきとはこれ以上関係は進めようとしなかった。





大事に大事に・・




そうして何の問題もなく俺達の関係は続き、このままずっとずっと一緒にいれると思っていた。




ーーーいや、思い込んでいたのだ。バカな俺は。








"   そろそろ結婚を・・  "



そうお互い意識した頃、俺の親友の陽太に ” 会って欲しい女性がいる ” と伝え、何だかんだで忙しかった陽太にやっとまきを紹介する日がやってきた。


少し小洒落たレストラン、いつもよりちょっとだけ背伸びした格好。


なんだか親友にーーではなく両親に紹介するようだとドキドキと緊張しながら陽太を待つ。






親友の陽太との出会いは高校生の時、その時は同じクラスのクラスメイトであったがそこまで親しく話した事が無い程度の間柄であった。



"   芸能人でもおかしくないほどの高い顔面偏差値  "


"  クールで当たり障りもなく何でも出来る、まるで王子様  "


それが周りから見た陽太という人間で、そんな陽太は当然入学直後から人気者。


常に沢山の人達に囲まれていたため単純に接する機会が皆無だったからだ。





クラスに馴染むどころか溶け込み消えそうな程平凡な俺と、その正反対の陽太とは、


"   きっとこのまま接点はないだろう  "   


そう思われたが、ある一つの事件がそんな俺達を結びつけることとなった。





それはたしか入学して二~三ヶ月くらいが経った頃だったと思う。



俺はその頃からあまり周りが見えるタイプではなく、最初は全く気づいていなかったのだが、あからさまな態度と言動によりある一人のクラスメイトが虐められている事に唐突に気がついた。


虐められていたのはクラスの中でも大人しい男の子で、そして虐めていたのはクラスの中で問題ばかり起こす男の同級生。


その時もあーだこーだと聞こえる様な悪口を浴びせては大笑いする姿を見て、俺は不快である事を簡潔に分かりやすくスッパリキッパリと伝えた。



するとそいつは、平凡顔で特にこれといった特徴のない俺に口を出されたのが気に入らなかったらしく、暴言を吐きながら自身のお弁当の中身を俺の机の上にぶちまけたのだ。



俺の人生のモットーは< 決して食べ物を無駄にはしない事 > 



無惨にもぶちまけられたお弁当の中身を見下ろした後、俺は全く迷うことなく即座にそいつをぶっ飛ばす。



俺の突然の行動にクラスメイト達全員が唖然とする中、そいつは壁に激突しそのまま床に倒れるとまさか殴られるとは思っていなかったのか、

最初はポタポタと床に落ちていく自身の鼻血を放心状態で眺めていたが直ぐに正気に戻り、俺に向かって怒鳴りだした。



” 不当な暴力を振るわれた!! ”


” これだから親なしは!! ”  


” 母さんに言って退学にしてやるからな!! ”




まさに怒り心頭といった様子であったが、俺は完全に無視。



そして机の上にぶち撒けられた料理を前に「 いただきます!! 」と言ってパクパクと食べ始めたのだが、それを見て、そいつはぶっ!!と吹き出し大声で笑いだす。



”  おいっ、皆見ろよ!こいつゴミを食ってるぜ~?

うわっ!きっも~。


親なしだから飯もまともに食わせて貰えないんじゃね?

乞食っwww ” 




そう俺を指差し嘲笑する中、遠巻きに見ていたクラスメイト達をかき分けて、陽太が前に進み出た。


そして俺をチラッと見た後、その男のクラスメイトに視線を合わせニッと笑いかける。




” 確かに暴力はいけないよな~。


お前殴ったら退学だもんな? ”




そいつがクラスで勝手な行動を取るのは家がお金持ち、かつ母親がこいつを溺愛していて直ぐに学校に怒鳴り込んでくるからだ。



そのせいで誰もそいつに逆らわない。



そいつはクラスで人気者の陽太を味方につけた!と思い、嬉しそうに "   そうだ!   "   と答えたその瞬間ーー空にふっとんだ。



ーーいや、正確に言えば陽太に蹴り上げられて上に打ち上げられたのだ。




するとそいつはそのまま地面に体を叩きつけられ、今度こそそのまま気絶してしまう。



俺は、むしゃむしゃと形が崩れたおにぎりを食べながら流石に驚いていると、陽太は何でも無いような顔でコキコキと首を鳴らしながら言った。



” あ~、すっきりした。

俺あいつすげー嫌いだったからさ。 ”



そう言い捨てた後は、陽太は床に落ちていた唐揚げをひょいっと摘んでそのまま食べる。



それに吹き出し ” 俺は食べ物を無駄にするやつは嫌いだ。 ” と言い切ると、陽太は唐揚げをゴクンッと飲み込むとーーー


 ” 俺たち気が合うな ” と言ってニヤッと笑った。







結局その後二人揃って一週間の停学になった俺と陽太。


しかし、その事件のお陰で俺達は唯一無二の親友となり、卒業してからもずっとこうして付き合いを続けてきたというわけだ。



そんな大親友の陽太に最愛の人を紹介する。


その後は皆で仲良く出来ると良いな~などと考えながら、俺は今か今かと陽太を待っていると、それからすぐに入り口のほうから入ってきた陽太が見え、直ぐに手を振った。



すると陽太の目は直ぐに俺を捉え、それからゆっくりと視線は向かい側にいるまきへ。





そして二人の視線が交わった、その瞬間




” やっと会えた ” 




そんな不思議な雰囲気が一瞬だけ場に漂った。





何というか・・俺はこの場に存在していないような、


まるで世界が2人だけの世界になってしまったような・・?




それは一瞬のようにも感じたし凄く長い時間にも感じたが、注文を取りに来た店員さんによってその時間は唐突に終わる。



そしてその後は普通の恋人と親友との和やかな時間へと戻っていった。






ーーー表面上は







それからいつもと変わらぬ日常が戻ってきたが、1つ変わった事といえばまきがたまにぼんやりと空を見上げるようになったことだ。



その瞳に映っているのは空ではない事は・・分かっていた。



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