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第三章
125 借金取り
しおりを挟む( リーフ )
魔力の花のシャワーと人々の歓声を振り切って、俺はレオンの家の前へと到着した。
日が落ちて月のうっすらした光のみに照らされる森ーーそのすぐ前にレオンの家がある。
ところどころ穴が空き、今にも崩れそうなボロボロの小屋。
ここがレオンの生まれ育った家、帰らぬ母親をずっと待ち続けた家だ。
俺はそんなレオンの気持ちを思うと、とても悲しい気持ちになった。
何一つ悪い事などしてないのに生まれてからずっと母親に疎まれ、人々に迫害されてきたレオンは、この家で今まで一体どれだけの辛い思いをしてきたのか・・
俺にそれを理解することは出来ない。
そして力になる事だって出来ないのだ。
俺は悪役、リーフ・フォン・メルンブルク
これから絶対的な孤独に落とされるレオンに、さらなる追い打ちを掛ける。
よしっ!と気合いを入れて早速中に入ろうと、扉に向かって足を進めようとしたーーー
・・・が、俺の足は動かない。
フルフルと震える足を見下ろしながら、ボンヤリとレオンの事を考えた。
本当はこれ以上レオンの心を傷つけたくない。
・・それでも危険地帯の鉱山送りだけは絶対に阻止したい。
例え恨まれようともーーー
バシンッ!!と動こうとしない足を思い切り叩き、その後腰に括り付けているお金が入った袋にソッと手を触れる。
そして大きく深呼吸して今度こそ覚悟を決めると、慎重にレオンの家へと近づいていった。
レオンの家の入り口らしき扉は、どうやら少しだけ開いている様で、中からはロウソクの様な淡い光が漏れている。
そして家の中には数人の人間の気配が・・
良かった・・間に合った。
俺はホッ・・と胸を撫で下ろし、そのまま扉にペタッとくっつき中の様子を伺う。
中は怒号飛び交うーー・・を想像していたのだが、妙に静かで頭にハテナが浮かんだが、俺のやる事は一切変わらない。
よーし!
ス~と大きく息を吸い込みピタリッと止まると、ここはこの日の為に何度も練習した、" 傲慢で~偉そうで~意地悪全開の貴族の子供スタイル " で行くぞ!
ーーと決意し息を吐き出しながら、バーン!!と豪快に扉を開いた。
そして最初に眼に飛び込むのはレオンの背中と、その前に地べたに座り込んでいるお兄さん・・・あっ40代くらいからおじさんになるんだっけ?・・おじさんが3人。
恐らく真ん中の一番厳ついおじさんがリーダーだと思われる。
茶色い髪のオールバックに立派な体格、無精髭がだらしなくみえるが、それがまた怖い人というイメージを作り出す。
ちいさな色付きメガネをかけ、黒いロングコートに白いシャツを着崩した、とても堅気の人間には見えない出で立ちの男だ。
そんないい大人が、なぜ床にベッタリと座り込んでいるのか?
「 ???? 」
不思議に思い、彼らの様子を詳しく観察すると、彼らの顔色は一様に悪く、全力疾走してきたかのように汗をぐっしょり掻いていることに気づいた。
恐らくお祭りの人混みのせいで、歩いてくるのに相当疲れてしまった様子。
俺も凄く疲れたから気持ちはわかる。
うむ・・と軽く頷き、一応それに肯定を示した。
街からここまで結構な距離があるし、前世の日本のように道路は舗装されていないから一般の人には結構辛い道のりだったりする。
特に三十も半ばを超えるとガクッと体力も落ちるし、疲れてしまうのは仕方ない。
しかし・・
俺は軽く頷いた後、お座り人形と化している男達へ呆れたような視線を向ける。
床の上に座るくらい疲れているならお祭りが終わった明日にすればいいのに・・
若いのに随分とせっかちな坊や達だ。
もしかしてちゃっかりお祭り楽しんできたんじゃないの~?と、ため息をつきながら疑いの目でジロジロと見ていると、
俺に背中を向けていたレオンがゆっくりとこちらを振り返り・・
「 こんばんは。リーフ様 。」
ーーーと普通に挨拶を返してきた。
あれ?普通だ。
絶望感が全く感じられないその様子に少々違和感を感じたが、直ぐに、あっ!と気がつく。
レオンはまだこのおじさん達から話を聞いていないのでは?!
その可能性に行き着いた俺は、よしっ!!と心の中でガッツポーズをとった。
実はこのおじさん達、何も知らない純粋なレオンに母親から捨てられた事を無情にも告げるだけでなく、あろう事か傷心のレオンに暴言を吐きまくり八つ当たりまでする。
お金が取れなくてイライラしたのだろうが、それを子供にぶつけてはいけない。
しかもこんな悪そうな外見のおじさんだったら怖いに決まっている!
ここは、度胸だけならエベレストと呼ばれたこのおじさんがお相手しよう。
「 ふっふっふ~、こんばんは、我が下僕のレオンよ!
おいっ!そこに座っている君達!
俺の下僕に何か用かい? 」
「 ・・・おめぇ、何もんだ?
そこの化け物と友達か何かか?」
リーダーらしき男は、青白い顔のままゆっくりと立ち上がり、ギロリと睨みつけてきたが、
そんな脅しは子供のレオンには効いてもこの還暦越えのおじさんには効かないぞ!
「 はっはっはっー!!!
俺の名前も知らないなんて、とんだ田舎者めっ!
俺はリーフ・フォン・メルンブルク!
身分は公爵だ!頭が高~い!! 」
腕を組み、ニヤ~と笑ってやると、彼らはお互いに顔を見合わせた。
「 ・・まさか、おめぇが噂の " 変わり者の・・ " ーーーじゃなくて、申し訳ありません。
失礼な態度をお許し下さい。
公爵家のリーフ様ですね。 」
男たちは慌てて立ち上がり、ブルブル震える足を必死に踏みしめて俺に頭を下げる。
「 うん、いいよーいいよー。許す許す~。
それはいいから何か面白いお話してたんじゃないのかな?
さぁ早く話すんだ!
なんだったら無理やり聞いてもいいんだよ~? 」
俺が彼らの下半身の相棒目掛けてヒュンッヒュンッと突きの素振りをすると、三人の顔色は更に悪くなった。
「 ・・・っ!!!話します!話しますからそれだけはやめて下さい!
・・実はそいつの母親が借金してバックれまして・・
その時の借金の担保がそいつだったんですよ。 」
リーダーの男は、レオンの方を気にしながらそう説明する。
「 ほほ~、なるほどね~。
レオンは借金のカタに売られるってわけか。 」
「 ・・はい。
しかし、こんな見てくれじゃあ奴隷として売ったとしても利子の足しにもなりゃーしないです。
最初からそのつもりで俺達をだましたんですよ!
あのクソ女っ・・!! 」
イライラした様子を見せ始めたリーダーの男は近くにあった木のテーブルをダンっと叩いた。
ミシミシとテーブルが軋む音を聞きながら、俺は彼に「 借金はいくらなんだい? 」と聞くと、「 金貨100枚です。 」という答えが返ってくる。
金貨100枚、日本円でいうと100万円だ。
借金奴隷の買取価格は、最低でも1000万円。
特に歳が若ければ若い程そのお金は跳ね上がる。
彼らとしては最高の条件でお金を貸し付けたつもりが、まさかのどんでん返しだったというわけだ。
そのせいで丸々100万円をタダでむしり取られてしまったのだから、そのお怒りは仕方がない。
俺は、はぁ~とわざとらしいため息をつき、怒りをおさまらぬ彼らに向かって言った。
「 こんな見た目じゃ絶対買い取ってくれる人はいないだろうね。
あ~君達は大損だ!可哀想に・・!!
俺は優し~い男だから今、とてもとても同情している! 」
あぁ~と唸りながら叫ぶ俺の迫真の演技に、三人は再度顔を見合わせ「 ・・どうも・・。 」と控えめに頭を軽く下げてきた。
俺は、よろしい!と満足してレオンを振り返ると、多分状況がまだ飲み込めてないようで、いつもと同じ無表情でぼやっと立っている。
そりゃーそうだ。
心はズズンッ・・と沈む。
ずっと待ってた母親に捨てられてしまったのだから、ショックで呆然としてしまうのは仕方ない。
沈む心をごまかす様に、わーはっはっ!と俺は大声で笑った。
「 レオン、聞いたかい?
君はこれから奴隷にされてしまうんだ!
奴隷はね、主人となった人に決して逆らえず、ず~っと側でこき使われるんだよ!
それこそ死ぬまでず~っとだ!
きっとご主人に沢山我儘言われると思うよ。
アレやれ、コレやれとそれに振り回される日々になる!
それが奴隷だ! 」
「 ・・・ずっと・・側で・・? 」
相当衝撃が強かったらしく、レオンは下を向きブツブツと独り言を呟き始めた。
心の中で俺はごめん!と必死に謝りながら、ベルトに括り付けてた袋を手にしリーダーの男に放り投げる。
受け取ったその袋から、チャリっという硬貨が擦れる音が聞こえ、男達は目を見開いた。
「 面白そうだから俺が買ってあげよう!
ちょうどおもちゃが欲しかったところだったからね。
くっくっくっ!さぁ何して遊ぼうかな~?
楽しみだ! 」
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