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第三章

121 一緒

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( レオン )


本日は ” イシュル神の日 ” と呼ばれる日であり、昨日の晩あたりから随分と雑音が多い。


街の方ではいつもは寝静まっているはずの人の姿が多く見られ、歌ったり踊ったりの大騒ぎをしているようだ。


毎年この日に家の外に出たことがなく、確かに音楽らしき音が家の中まで聞こえてはいたが、まさかこんなにも大騒ぎになっていたとは知らなかった。


俺は屋根伝いにリーフ様のお屋敷に向かいながらチッと舌打ちをする。


俺の家からリーフ様のお屋敷まで向かう際は、最短距離で到着するため街の中を真っ直ぐ突っ切っていくのだが、本日はどうにも邪魔な障害物が多く、非常にうっとおしいと思った。



更にはいつもは朝日が昇る時間にリーフ様と会えるのに、そのどうでもいい騒ぎのせいで ” 7時に来い ” とまで言われてしまったのだ!



俺にとって今日という日は厄日にちがいない。



数時間もリーフ様と一緒にいる時間が取られてしまったと心底腹立たしい気持ちになりながら、いつも通り朝日が登る前に家を出てリーフ様の家に到着すると、直ぐに門の前でリーフ様の気配を探る。


するとどうやら珍しくまだ就寝中のようで、規則正しい心音と寝息が聞こえてきた。



その音を聞いているだけで多少は気持ちが静まり、そのまま意識を集中させてそれを聞きつづけていると、ふっと屋敷の周囲を回っている鳥やそこら中にウジャウジャいる小動物の存在に気づく。



あぁ、これはリーフ様の近くによくいるあの執事の男のものか



微量な魔力を纏った鳥や小動物達は屋敷の中をぐるぐると回っては交代に休憩を取って常に周囲を見張っている様子であった。

一体何を見張っているのかと思ったが、もしかして俺を観察しているのか?という可能性に辿りつくと、思わずフッ・・と笑いが漏れる。



この俺が、リーフ様を害するとでも?

そんな事するわけがないのにご苦労な事だ。



屋敷の上空を必死に飛び回り警戒を続ける鳥達に蔑む視線を送りながら、俺は心の中で ” 正しき ” を教授してやった。



リーフ様が俺の全て。

世界そのものであり俺の神様なのだから、もしも世界中の人々がリーフ様を害せよと言うならば消えるのは世界の方。


それが ” 正しい ” 世界だろう?ーーと。



それが理解できないという事実に心底呆れ、ふぅ・・と大きなため息をつくと、” そんな愚か者に付き合う必要はないか ” と早々にその存在を意識から外す。


そして再びリーフ様の気配を感じながら時が経つのをひたすら待っていると、正門の前にいつも来る女が現れ俺をギロリと睨みつけてきた。


それをいつもどおり完璧に無視しながらそのまま黙っていると、リーフ様が起きる気配がして、俺の心臓はバクッと大きく跳ねる。



あぁ、会いたいな。


途端に心から湧き上がる欲求・・


その欲求は日増しに強欲になっていき、側にいれるだけで良いという思いから、見て欲しい、話しかけて欲しい、触れて欲しい、ーーー触れたいへと、どんどん変化していった。



リーフ様の剣タコがついた手で触れてもらう

その暖かな体に俺の手が触れる


それだけで俺は、天にも勝る気持ちになれる。



それを知ってしまったからこそ、もっともっとと俺はリーフ様へと手を伸ばすが同時に恐怖する気持ちもあった。



神聖なものに触れてしまったという罪悪感と、こんなにも純白で美しい人を穢してしまう事への恐怖。


それはいつだって俺の中にある。



それでも俺は自分の欲求に逆らうことは出来ない。



触れられた場所からじわじわと熱が伝わる ” 満たされる ” という極上の幸せを知り、それが俺の体をまるで麻薬の様に蝕んでいく。


俺は自分の事しか考えられぬ欲望にまみれた汚らしい ” 化け物 ” で、そんな化け物が一生手に入るはずのない物を手に入れてしまった。


だからもうそれをくれる存在を離せない。


リーフ様が与えてくれる ” 感情 ” 達は今まであった様な単純でわかり易いものだけではなく、混ざり合い複雑で理解するのが難しいものも沢山ある。


それは時に俺の邪魔をしたり、時には背中を押したりと忙しい。


それらを完璧に理解出来た時、俺の欲望達は満足出来る様になるのだろうか?



今の俺にはわからない。



思わず苦笑してしまうと、それをなんと捉えたのかは知らないが正門の前に立つ女がギャーギャーと騒ぎ出し、気がつけばいなくなっていた。


勿論それに対し、特に何も思う事はなくそのまま待っているとーーー




やっとリーフ様が来た。





おもわず顔が緩む。


リーフ様は俺に朝の挨拶をした後、早速修行に・・と思いきや、なんと今日はお祭りに参加するためお供してほしいと言ってきた。


2人きり・・しかもお出かけなんて初めてのことーー 

” 嬉しい ” で満ちていく心のままYESと返事を返したが、直ぐにハッと思い出す。



自分の ” 黒 ” と呪われた半身の事を。



こんな姿でイシュル神祭になど行けば、大騒ぎになってしまうかもしれない。



そうなってしまえば、リーフ様は楽しむことはできない。


俺はそれが ” 悲しい ”


そのため断りの言葉を述べたのだが、リーフ様は「 せっかくかっこいいのにね。 」とさらりと言い放った。




その眼に嘘はない。

勿論嫌味などの悪意も同情心もない。

本当に俺のこの容姿を好ましいと思ってくれているのだ。



それが分かってしまった俺は、カッと熱が上がりそうになる顔を慌てて下を向くことで隠す。


こんな醜い姿でも良いと認めてくれるのはリーフ様だけ

普通と同じに扱ってくれるのもあなただけ・・


喜びを噛み締めながら心の中で呟いた。



リーフ様が側にいるから、俺は ” 普通 ” の子供でいられる。

それがどんなに凄いことか、そして幸せな事かきっとリーフ様は知らないだろう。



俺の脳裏に今までのリーフ様との思い出達が駆け抜けていく。



学院でも、あんなにも怯えていた教師や同級生達が変わったのはリーフ様が側にいるからだ。


あんまりにも俺を ” 普通 ” に扱うものだから、気がつけば俺は ” リーフ様の無害な付属品 ” という扱いになってしまった。。



” 畏怖の対象 ” ” 神に逆らいし大罪人 ” という扱いからあまりの変わり様に、彼を通して見える世界はこんなにも綺麗なものなのかと思い知らされた。



俺は自分のこの外見が好ましいものには見えない。

そしてこの外見に伴ってついてくる人生も同様に。



でもリーフ様から見たらこの外見は大したことはなくて、更にはかっこいい物にまで見えるという。



俺から見える世界を粉々に消し去るリーフ様は、常に優しく幸せな世界を俺に見せてくれるのだ。



ジンジンと痺れるような幸せに浸っていると、リーフ様が黒いマントをいつの間にか持ってきて俺に被せてくれた。


深くフードを被り留め具を止めれば、左半身はスッポリと隠れ、俺の姿をしっかりと隠してくれたため、ホッと息を吐く。


これなら・・と安心しながらマントで隠れた体をぼんやりと見下ろしていると、リーフ様は、” これは彼の執事が用意してくれた ” ” 後でお礼を言おうね ” とだけ言って俺の背を押し街中へと連れて行ってくれた。


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