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第三章

120 花爆弾

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( リーフ )




先ほどの事を思い出しぷっと小さく笑うと、レオンがやはり不思議そうに首を少し傾げるが心なしかいつもより楽しそうな雰囲気が漂っている気がする。



例え精神を壊し正常な状態ではないとしても、俺はレオンに対して街の人達の態度が以前より柔らかくなったのを感じて今とっても嬉しい。



モルトは当然として、モルトの両親もお姉さんもあの場にいた街の住人達も、黒マントを被った男がレオンだと気づいていた。



しかしそれを知っても特に騒いだり、ヒソヒソする人達がいなかったことは大きな進歩だ。



それを考えると嬉しくて俺の気分も自然と上向きになっていく。



多分呪いがうつらないことが俺により証明されたのが大きいと思うが、それ以上にレオンの大人しくて真面目で誠実な人柄が、小学院の子供達により伝わったお陰じゃないかな~と思っている。


モルトやニールにその話題をふってみた時も、毎日家で俺やレオンの話題が上がらない日はないと目を逸らしながら言っていたし、周りの子供達も先生も最初レオンにビクついてたのが夢の様ーー


今や空気と同類と言っても過言ではないほど態度は普通になったので、親御さんがお子さんからその話を聞いてレオンが危険な人物ではないと分かったのだろうと思われる。



まぁ、友達と呼べるのはモルトとニールくらいだが、最初はそんなもの。



これからも沢山コミュニケーションを練習し、マイペースに友達を作っていけばいい。



口から漏れる程度だった笑いは次第に大きくなり、とうとう大声で笑い始めるとレオンは益々不思議そうな顔をした。



そんなレオンの様子を見上げながらフッとついこの間の出来事を思い出し、その笑いは苦笑いへと変化し、笑いすぎて涙が滲んだ目元をグイッと拭う。




ついこの間、そんな友達作り訓練生のレオンの練習相手になってもらおうと、ドノバンにエッチな事を言われてレオンが手を・・いや、剣を出そうとした時、

” その前にドノバンと会話をしてみよう! ” と提案してみた。



とりあえずはその人の特徴を言ってみて会話のキッカケを作り、

” 自分がその人を見てどう思ったのか ” とか?

” 今後どうしてほしいか ” 


ーーなどなどを口にしてみたらどうかとアドバイスしてみたのだが、レオンは考えるに考え最後には・・


「 ・・俺は、紫色のもじゃもじゃは駄目なものだと思います。

・・今後はリーフ様の役に立て。 」


ーーとだけ言った。




まぁ、確かにドノバンの髪は紫色のゆるふわパーマだし、紫色のもじゃもじゃはセーフ。



しかし俺としてはーー


「 ドノバンは普段カッコいいけど、エッチな事を言うときはカッコ悪いと思っている。

今後はそういった破廉恥な事は自分の前で言わないでほしいな。 」


そんな答えを期待して言ったのだが・・・

これは前途多難だなと思わずため息が出てしまった。



しかし人よりだいぶマイペースでも、きっとこういった小さな体験を経てレオンの未来は少しづつ明るく変わっていく。


例え結末が変わらないとしても、自分の心で沢山の思い出の中から自分なりの答えを出してほしい、その為に俺はここに来たのだ。



俺が失脚した後、どうかレオンに幸せだと思えるような出会いがありますように。


そしてその人達と共に少しの時間でも人生を歩く楽しさが味わえますように。



そう願い俺をじっと見下ろすレオンにニコリと笑うと、レオンは少し驚いたような顔をした、


その時ー・・・





ーーーーバシュッ!!! 



大きな発射音が近くで聞こえると、一筋の白い煙が空へと上がっていった。


そして、ポポポポンッ!!と大きな音をたてて爆発し、空から沢山の色とりどりの花が降ってくると、周囲から「 花爆弾が上がったぞー!!! 」という興奮する声と拍手をする音が至るところから聞こえ始める。




〈 花爆弾 〉とは日本で言う花火みたいな物で、魔力で作った花を空で爆発させる魔道具だ。


かなり高度な魔力操作と魔道具の知識がないと作れない代物で、数年前に発明されて一時期騒がれていたらしい。


魔力で作った花は少ししたら消えてしまうが、幻想的でまるで天国に迷い込んだ様な景色を見せてくれる花爆弾は、お祭りなど祝いの場では盛り上がる為に必ずと言っていいほど打ち上げられる必須魔道具だ。



そして今まさにその奇跡のような美しい景色が目の前に広がった為、俺は直ぐに飛び起き「 うひょーー!! 」と感動の雄叫びを上げた。



キラキラ光る色とりどりの花たち。

それが真っ青に晴れ渡った青空に散りばめられている光景は、まるでお空の花畑のようだ。



うわぁ~・・・


ポカンと口をだらしなく開けて只々その夢の様な空に魅了されていると、落ちてくる花は全てうっすらと透けていて更に淡い光に包まれている事に気づく。

” 魔力で出来ているからだろうか? ” とか、” 暗くなったらもっと綺麗なんじゃないか? ” とか、そんな事を考えながら、真上に落ちてきた花を掴もうと手を伸ばしたーーー



ーーーその時・・・






ーーーバシッ!!



突然伸ばそうとしていたのと反対の手を強く掴まれ、そのまま、あっ・・と言う間もなく後ろへと引っ張られた。

そのせいで花を掴もうとしていた手は空を切り、身体は後ろにいるレオンに衝突する勢いで倒れ込んでしまう。



おおお???何だい?何だい?



そう問いただそうとする前に、ぶつかった先にいるレオンに後ろからスッポリと抱き込まれ、そのまま結構な力で抱きしめられてしまった。



「 ??急にどうしたんだい? 花爆弾にびっくりした? 」



驚いて問いただしたが、レオンは一向に手を緩めてくれず、ただ「 ・・いえ・・」と答えるだけ。



俺がマヨネーズだったら中身が全部出る!と断言できるほど物凄い力で締め上げてくるレオンに、俺は苦しさを訴えようとしたが・・


触れている背中越しに彼が震えているのに気づき、慌てて口を閉ざした。



レオンは何かにとてもビビっている。

そして俺は超苦しい。

ほんとにちょっと何か出ちゃうかもしれない。



スキル:〈 石男 〉で必死に耐えながら、レオンが怖がっているものは一体なんぞや?と必死に考えていると、

降り注ぐ綺麗な花を見て一つピンッと思いつくものがあった。




ついこの間の事ーー

花が咲き乱れる庭にできた正体不明な巨大な巣を、何かな何かな~?と木の棒で面白半分でつついていた時の事。

突如大きな羽虫がそこから出てきたかと思ったら、出てくるは出てくるは有象無象の羽虫の大集団が。



そして、そのまま俺は随分と長い時間、その集団に追いかけ回される羽目になったわけだが、それを無表情でボンヤリ見ていたレオンは実は凄く怖がっていたのかもしれない。


花=羽虫を思い出してこんなになってしまった?



その可能性に気づいた瞬間、俺は、はは~ん?と非常に納得して軽く頷く。



ちなみに俺はめちゃくちゃ怖かった。

まさかあんな大量の羽虫が出てくるとおもわなかったから。



ってことは、さてはレオンーー虫苦手系男子なんじゃないの~?


ぷぷぷぷ~と笑いをこそこそ隠しながら、ジェネレーションギャップなるものにほのぼのと心を温めた。



俺の子供の頃は、虫と共に生きてきたから ” 怖かった~ ” で済んでるけど、最近の子供は虫離れがすすんでいるらしいからね。


繊細なレオンには強烈過ぎる思い出だったということか・・




思わぬ苦手属性判明でによによしていたが、未だ締め付けが凄いがだんだん落ち着いてきたのか徐々に緩む拘束と、更にレオンのポカポカ体温とふんわり香る花の匂いに心地よさを感じーーー


俺はそのままぐっすり眠ってしまった。

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