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第三章

119 初めてのお祭り

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( リーフ )


一通り気になる出店を回って歩き、時間は既に14時を過ぎた頃ーー


俺とレオンは中央広場の一角にある憩い広場に腰を下ろしていた。



そこは緑豊かな広い公園みたいなところで、休みの日には街の人達がよくピクニックとかをしている場所らしい。


人混みに少々疲れた今はとても安らげる空間だなと思いながら、ググッ~と大きく伸びをした後、俺はその場にゴロンと転がった。



流石に公共の場ということで、レオンには ” 椅子 ” になってもらうことなく、隣に座って貰ったが、お仕事が出来ないということで彼の機嫌はやや悪い。



ジトッ・・と不満を訴える視線を受けながら、俺はお祭りであった出来事を一つ一つ思い出しながらボソボソと独り言の様に話しだす。



「 やっぱりトロロン・ピックの串焼きかな~、一番美味しかったのは・・


でも、ニールのところのチーズ蒸しパンも凄く美味しかったし、モルトのところの花くじクッキーも・・う~ん、甲乙つけがたいね。

あっでも花くじクッキーの大外れを引いちゃったのはびっくりだったね。 」



モルト家の出した出店で大盛況だった花くじクッキー。

実はこれ、俺が発案したもので単純にお客様にくじを引いてもらい、当たった花味クッキーを渡すというものであった。



花の匂いがするクッキーは元からモルトの家で販売していて、貴族を中心に爆発的なヒットを出し続けているが、平民には多少近寄りがたいイメージがあり人気はイマイチ。



なんてったっ基本は貴族が開くお茶会に出すものだし、なんとなくとっつきにくい感じがあるのは確かに分かる。



それで悩んでいたモルトに、「 じゃあ、くじ引きにするのはどうかな? 」と俺が提案したのだ。



くじ引き??と不思議そうな顔をするモルトに、ようはお祭りなど楽しければいいのだから、くじ引きにすれば子供達を中心に絶対盛り上がるはずだと説明したら、彼はパァァァと表情を明るくし早速それを実行に移したのだった。



そしてそれは見事に大成功。



子供や若い層を中心に凄い人だかりが出来ていて、それにつられて奥様方も夢中になってクッキーをつまんで食べていた。



様々なお花の香りがそこら中を漂い、クジを引いた子供達に釣られて大人もそれを食べる。

そうする事で美味しいのに今まで敷居が高いと遠巻きにされていた商品をバッチリ宣伝できたようだ。



良かった良かった~とニコニコして見守っていると、俺に気づいたモルトとご両親、そしてお姉さんが慌てて俺に挨拶に来てくれた。


そしてこのアイディアに対し、売上の1割を収めたいと言われたが、丁重に辞退した。


別に大したアイディアではないし、俺も楽しませて貰えるし、それにはしゃぐ子供たちを見ていると駄菓子屋のくじで喜んでいた孤児院の子供達を思い出して俺も嬉しい。


モルトのご両親は、しかし・・とオロオロしてしまったので、「 じゃあ一回くじを引かせて~ 」と頼むと勿論!とすぐに出店に案内された。



そして通されたくじ引きの前。


周りのお客さんたちは、「 あっリーフ様だ~ 」 「こんにちは~」と口々に声を掛けてきたためそれに返事を返すと、皆は俺が何を当てるのか注目し始める。




実はこの花くじクッキー、もう一つ俺が提案した策が練り込まれている。

それはーーーー・・・




くじはよく町内会のふくびきで使われるガラガラ回すタイプのものだったので、俺はそれをグッと握り、勢いよくガラガラと音を立てて一度回した。



すると出てきたのはなんとーーーー虹色の玉!!




その瞬間ーーモルトとご両親、お姉さんの顔色が真っ青になった。




「 ・・に、虹色~・・特賞・・ラフレシアクッキ~・・・」



モルトがベルを力なくチリンチリンと鳴らしてそう告げると、周りにいた人達が一斉に俺から離れる。


もう1つの策とはーー・・そう、まさに俺が引き当ててしまったものにある。



くじ引きの醍醐味、それは大当たりとそれに相対する大外れがあること。


大当たりは全種類のクッキーの詰め合わせ、そして大外れは・・このラフレシアクッキーなのだ。



ゴクリと唾を飲み込むと、震えながらモルトお姉さんが、厳重な箱に入ったそれを赤いクッションの上に乗せて持ってくる。



モルトのご両親が気遣う視線もそこそこに、俺は意を決してパカッとその箱を開けた。



その瞬間ーーー




むわあぁぁ~~・・・



物凄い悪臭が辺りを漂い周りが軽いパニック状態にーー

俺もその腐ったゴミ溜めの様な匂いに鼻と口を押さえ息を止めた。




こんな凄い匂い、嗅いだことがない!!


モルト家の実力は本物だっ・・・!



あぅあぅと息を短く吸いながら、レオンは大丈夫かと見上げれば、普通、めちゃくちゃ普通!



英雄様は嗅覚も狂っている!



ジワッと涙が滲み霞がかってしまった眼を見開くと・・


モルトはマスクを10枚くらい重ねて着用しているにも関わらず倒れそうだし、それを持ってきたお姉さんに至ってはガスマスクみたいなやつを装着している。

更にその後ろでご両親は俺にマスクを渡そうとして途中で力尽きているし、周りの人達は遠ざかりつつゲホゲホ咳き込んでいる姿が目にボンヤリと写る。



俺はそんな周囲を見渡した後、そのクッキーに恐る恐る手を伸ばすと、モルトとお姉さんは、まさか・・っ!と眼を見開いた。




俺は決して食べ物を無駄にはしない。

それは前世から変わることのない俺のポリシー。




それを念仏のように唱えながら俺は、息を止めそのクッキーに齧りついた!



すると口いっぱいに広がるトイレの味。


たまらず「うぷっ」とうめき声を上げれば、周りからは悲鳴に近い声が上り、モルトは直ぐに臭い消し草をスッ・・と手に持ち待機。



しかしそんな中レオンだけが普通に、「 口に合いませんか? 」と尋ねてくる。



なんだかトイレをペロペロしている味だよとも言えず、俺が涙目でぷるぷるしていると、レオンはぴょいっとクッキーを俺の手から取り上げ、そのまま自身の口の中に放り込んだ。


青ざめる俺と周囲の人達。


そして続くバリバリという大きな咀嚼音・・。


その豪快な食べっぷりに、ひぇっと短い悲鳴を上げればモルトもお姉さんも、周囲の人達も全身をブルブルっと体を震わせたレオンを凝視したが、当のレオン本人は涼しい顔。



普通に噛み砕き、普通~にゴクリと飲み込み、いつも通りの無表情。



おそるおそる「 だ、大丈夫かい? 」と尋ねたが、レオンは、何が??と言いたげに首を軽く傾けただけ。



まさか謎スキルに嗅覚と味覚にバッドステータスでもついているのでは?


そんな新たな不安に怯えながら、俺はモルトから差し出された臭い消し草を有り難く受け取り、レオンと共にそれをむしゃむしゃと食べながら次のお店へと向かった。



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