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第三章

117 レオンの日常

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( リーフ )



街の中はもう既に大騒ぎとなっていて、昨日の夜中からぶっ通しで騒いでいる人もいる様だ。


至る所で肩を組んで踊る男達に華麗にクルクル回るきれいなお嬢さん達。


様々な楽器を用いた演奏に笑い声と手拍子が合わさり、更にそれに美しい歌声が重なると、歓声が四方八方から上がった。



凄い!!



日本のお祭りではちょっと見れないレベルの盛大なお祭りに、俺は物凄く感動していた。


街の通りには沢山の大樽がボンボンと置かれていて、中には大量のぶどう酒らしきものが並々とと入っている。

そしてマイコップを持った街の人達が、そこからお酒を掬ってはゴクゴクと美味しそうに飲み干している事からどうやら飲み放題の様だ。



俺も飲みたいな~



その光景を見ながら思わずゴクリと喉を鳴らす。



しかし、現在の俺は心は71歳とて体は12歳・・

お酒解禁にはまだまだ時間が必要なのだ!



悲しみと絶望に肩をガックリ。


あと何年・・?と指を折って数えながら、なんとなくチラリと隣に立つレオンを見上げると・・その様子は心なしか嬉しそうに見えて、今度は罪悪感に心をチクチクと刺される。



考えてみれば、こうしてレオンを連れて遊びに出かけたのは初めてのことだ。



なんと言ってもこの約四年間、勉強!修行!勉強!修行!の毎日で、子供らしい遊びなどしてこなかったからだ。


それは良くないなとは思ってはいたものの、なにせレオンの才能を開花させるのが俺の役目なわけだし、俺だって強くならなければ悪役失格になってしまう。



その為ついつい修行を優先してしまったわけだが・・結局のところそれでも上手く行っているのかどうか、不安しかない。



頭の中にはレオンと共に過ごした修行漬けの日々がモワモワ~と浮かんでくる。

 

そもそも俺がレオンに率先して取らせたいと考えているスキルの発動条件であるーー

< 何度も瀕死になる >や< 瀕死攻撃をくらう >


などはあんまり・・いや、全然成功しているように見えない。



顔が赤くなる時があるので、多少カウントされている?とは思うが、多分回数的には全く足りていないと思われる。



なんといってもとにかくレオンが圧倒的すぎる!




俺は、はぁ~・・とため息を漏らしながら緩~く首を振る。




ドノバンとの本気の打ち合いだって汗一つかかずに涼しい顔。

俺があの手この手で挑んでも全て完膚なきまでに叩き潰される。



やはり未知のスキルが作用しているとしか思えないのだが、問題はこの未知のスキルが物語で取得するスキルに匹敵するものかどうか。


ようは現在のレオンがいかに強かろうと、結局は物語のレオンハルトより弱ければダメだということだ。

 
正直物騒な言葉のオンパレードに不安しかないが、結局は現在発現してしまっているスキルについてはどうしようもない。


今後も物語通りのスキル取得を目指しつつ、俺自身のレベルを上げてレオンのステータス情報を少しでも増やすくらいしか今の俺に出来ることはないだろう。


それに鑑定のレベルを上げておけば将来は鑑定士として働くこともできるかも!・・な~んて密かに思ったり。



明るい未来を思い描き、ニタリッと笑うとそのまま笑い声が漏れそうになったので、直ぐに口元を抑えてレオンの様子を伺うと、

俺と目が合った瞬間、それはそれは、上機嫌です!と言わんばかりの楽しげオーラがーーー



休日出勤しているのにこの態度・・・

社畜精神は本日も絶好調の様だ。



その恐ろしさに、今度はそのままフルっ・・と体が小さく震えてしまった。



レオンはずっと前に一日だけ一人の休日をとって以来、例え、雨が降ろうが風が来ようが、嵐が来ようが毎日俺の家へやってくる。



もちろん週に一回の休日だろうと変わらずに。


朝日が登る前に家の門に来て、そこから二人でラジオ体操、ストレッチから修行、修行、その後残飯と称して一緒に朝ごはん。


そしてそのまま修行、残飯ランチ、そしてレオンに御包みされて昼寝。


その後も修行、修行、残飯夕食。


やっと終わりが?と思いきや、更にその後は二人でひたすら座学の勉強をし、お外が真っ暗になる頃やっとレオンは帰宅する。



前世の記憶を持つ俺としては、週休2日は与えるつもりだったのだが・・

なんとレオンはせっかくの休日も一日壁を見ているだけという、社畜の完全体のような過ごし方しか出来なかった様で、それからは休日も喜んで出勤してくるようになった。



まぁ、そのうち休みたくなるだろう・・


そう放置していたのが余計にまずかったらしく、今では俺が声を掛けないと帰宅すらしなくなってしまった。

 

もしかして母親を待つ家が辛くて帰りたくないのだろうか・・?とも思ったが、それでも傍若寡婦な俺の側よりは良いだろうと一応はレオンを家に帰している。


ーーーが、やはり壁を見ているか、体を横たえるかの二択。




「 壁見るの楽しいの? 」


ある日タイミングをみながら恐る恐るそう聞くと、普通に「 いいえ 」と答えたレオンにヒヤリと心は凍る。


プライベートを過ごせなくなっている事を危惧し、これはいかん!と俺なりに様々な策を巡らせてはきた。



自身のそんな努力の日々を思い出しレオンのキラキラ笑顔にニッコリしつつも、心の中では、ぐぬぬっ・・と唸り声をあげる。



そんな俺の苦肉の策の一つとして、

「 好きに使っておいで。 」と言ってレオンに小遣いを渡し、” 初めてのお使い ” まがいの事をさせてみた事がある。


こうしてマントを深くかぶれば簡単な買い物は出来るということに気づき、試しにショッピング体験をさせてみようと考えたのだ。



興味を持たせるためには、やはり情報が必要。



同世代の若者がキャピキャピ買い物をしている姿を見れば、レオンとて良いなぁ~と思い様々な欲望が湧き上がることだろう!とそれを目論んでやらせてみたのだが・・・



レオンはピカピカ光る硬貨をジッと見つめ、「 わかりました 。」と非常に頼もしい返事を返した後、ふっと消えてまたすぐにふっと帰ってきてしまった。



ーー早くない?



これは作戦失敗か・・とガッカリした瞬間、レオンの手にピカピカに光るご立派な平たいお皿と、キラキラ光る美しいバラの花束が。


それを見た瞬間、俺はカッ!!と眼を見開いた。



レオンが買い物してきた!



つまりこれが欲しい。



初めてお仕事以外で意志を出すことが出来たんだ!と俺はとても喜んだ。



ーーーーが、それもつかの間。

レオンは突如俺の目の前にそのご立派なお皿を置き、その横を囲うようにバラを飾り付けた後、お皿の上に先ほど渡した硬貨をちょこんと乗せた。



まるで小さな祭壇のようなものに首をかしげていると、レオンはすぐに膝をつき祈り始めた。



俺に向かって。




いや、なんで???


ハテナで溢れた頭の中、俺は、はっと思い出す。



『 俺のモノは俺のモノ~

レオンのモノもぜ~んぶオレのモノ♬ 』



このメチャクチャな理論は、某いじめっ子の有名理論。

それを真似て俺がレオンを虐める際に言い放った言葉の一つだ。



つまりレオンはこれを下僕として守らなければならないルールの一つとして認知。

結果手に入れた硬貨はリーフ様のモノ!と考え、俺にそれを献上したとーー・・そういうことか。



震える手でお皿の上の硬貨を摘み、キラキラ光るそれをジッと見つめながらガックリ。



そんな俺をキラキラした目で見上げてくるレオンに何も言えず、結局はーー

「 ・・ありがとう。 」

ーーと言うしかなかった。



しかもこの仰々しい渡し方・・


恐らくレオンなりに考え直に返すのは失礼に当たると思い、こんな渡し方をすることにした様だが、実はこの渡し方は教会のお布施の仕方を真似したものであった。



教会はお布施という形で募金を募り、それを活動資金にしているわけなのだが、その資金の使い道はーー


各地に設置されている教育機関や孤児院の運営

貧しき人々への救済活動

慈善事業

教会運営の病院


ーーーなどなど。

全国で幅広~い活動のために使われている。



その為この国に籍を置く貴族には、毎年必ず利益から計算されたお布施を教会に支払う義務があるのだ。


その際、神々しいお皿の様なものにお金を乗せ、イシュル神像に祈りを捧げながらお布施をするのだがーー

どこで知ったのかレオンはこれを忠実に再現した様だ。



ちなみにお皿はニールの家に、バラはモルトの家に行って貰ってきたらしく、その詳細を後日なんとも言えぬ表情を浮かべた両名から聞いた。




"   主人に失礼の無いようお金を捧げる  "




ーーー駄目だ、これはお仕事のカテゴリーだ・・



そしてその後もちょこちょこと同様の試みを行っては全て失敗に終わっている。




惨敗ともいえる思い出達を振り返り、スゥ・・と身体は冷えきったが、そんな失敗を引きずり、本日に悪い影響を及ぼすわけにはいかない。




俺は心の中で上げ続けている唸り声をギリィ・・と唇を噛む事で止め、代わりにフンスッと鼻息を荒く吹く。



今回ばかりは失敗は許されない。



おそらく今日がレオンの最大の分岐点・・!




そうして慎重に・・慎重に・・とガチガチに緊張しながら歩いていたのだが、街の中心街にたどり着いた瞬間ーー

俺のトリさん頭からそんな想いはポポーンと飛んでいってしまった。


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