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第二章

73 イザベルの葛藤

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( イザベル )

────ありえない

ありえない、ありえない、ありえない!!!


私は先程あの呪いの化け物に斬りかかった時の事を思い出し何度も心の中で呟いた。


私の資質は【 守衛師 】と言う守備に非常に特化した珍しい戦闘系中級資質だ。


その中の攻撃スキル< 風読み >は風の流れを読み、一瞬で相手を斬りふせる今の私の最大の攻撃スキル────……

戦闘を生業にする輩でも相当な実力がなければ避ける事など出来ない。


なのに────!!


現在私は裏の広場の方へ向かうリーフ様と化け物の後を追い、その行動を物陰から注意深く観察していた。


"   あの化け物が妙な真似をすれば即座に斬る   "


そう考えながら剣のグリップに手を添え、いつでも攻撃できるよう構えたまま待機していたが……暫くはリーフ様が木刀を持って追いかけるのみだったのでそのまま傍観に徹する。


このまま何事もなく早く去ればいい!


悶々と考えながら睨み続けて、約一時間後。

突然リーフ様が躓いてしまい、転倒しそうになった、その瞬間────あの化け物がまたしてもリーフ様に触れたのだ!!

その瞬間カッ!と頭に血が登った私は、恐怖に震える体を無理やり奮い立たせ、すぐにあの化け物とリーフ様の前に飛び出した。


父上は見極めよと言ったが、やはり私には到底無理な話だ。

禁忌の色に呪われし半身。

そんな存在、イシュル神がお許しになるはずがない!


恐怖を振りはらい、リーフ様に仇なす者を排除する。

それが専属護衛である私の仕事だ。


「 ────お許しを……っ! 」


リーフ様の命令に初めて背き、私はあの化け物を排除する為にスキルを発動した。



<守衛師の資質>  (ノーマルスキル)


< 風読み >

風の流れを読み、相手を斬り捨てるスピード特化の剣士系攻撃スキル。

自身のスピードのステータスが高い程威力は増す。

(発現条件) 

一定以上のスピード、攻撃力を持つ事

一定回数以上剣の素振りをする事

一定以上のレベルの敵と剣で勝負する事




地に着く足にグッと力を入れ、スキルを使い一瞬で化け物の前に移動。

そのまま全力で剣を振った。


戦闘職を生業としている者ですら、完全に避けるのは難しい攻撃、絶対に回避する事など不可能だと勝利を確信しながら剣を振ったのに────

なんと奴はいつの間にか手に持っていた木刀で何でもないかのように、スルッ……と私の剣を受け流したのだ!


そんな事、わずか8歳の子供に出来るはずがない。


あれは正真正銘の化け物だ!



そう改めて認識すると共にブルっと身体は震えた。


もしリーフ様が止めてくれなければ、あのまま奴は私を攻撃するつもりでいた。

その時の事を思い出し、そのまま身体の震えは止まらなくなる。



奴の黒い髪、瞳、呪われた半身が怖い。


実力不明の強さが怖い。


そして────何よりあの目が怖い。



空虚な……何一つ感情を灯さない空っぽの目。



” 見て ” いるはずなのに ” 見て ” いない。

” 他 ” の存在を何一つ捉えていない目だ。


それは勿論私に対しても……。



人は人である事、石は石である事、空は空である事。

奴にとって外界から得た情報はただそれだけで、そこに何の感情も乗っていない。



だから自身を攻撃してきた私に対しても、” ただそこにある物 ” という認識で、邪魔なら消すしそうでないなら捨てておく。

その程度の認識しかない様子だった。



昨日とはまるで別人だ。



あの理解を越えた目に本能的な恐怖を感じる、逃げろと全身が訴えてくる……出来れば絶対に関わりたくない、だが────……



あの空っぽの目が、リーフ様を見る時だけ気持ち悪い程に色を持つ。


ドロドロした酷く不快な色に……。



あれをなんと呼べば良いのか私には分からないが、とにかくリーフ様にこれ以上近づけるのは危険な事だけは分かる。


リーフ様は私に休めと命じたがとてもじゃないが休む事など出来ず、移動した食堂の近くで再度様子を伺っていた。

すると父であるカルパスがあの化け物を連れて外に出てきたのだ。


お側にリーフ様はいない。

チャンスだ!


そう思った私は直ぐに二人の前に立ち塞がった。



「 おい!貴様!これ以上リーフ様に近づくな!!

あのお方は、お前のような化け物が近づいてよいお方ではない!


このまま去れ!

そして二度と来るな。


聞かぬなら私の剣で貴様を葬り去ってやる! 」


剣に手を掛け最大限に威嚇しながらそう告げたが、化け物は顔色ひとつかえずに無表情。

そしてその目はやはり何も写していない。


ただ不思議そうに顔を軽く傾け「 無理だ。 」とだけ返してきた。

その答えにカッ!となった私は、その激情のまま奴に怒鳴り散らす。


「 ふざけるな!!

リーフ様から離れる気はないと、そう言っているのか! 」


「 離れる?何故??


リーフ様は俺の全て。 "  世界  " そのものなのに?


無理だと言ったのは、お前が剣で俺を葬り去る事の方だ。 」



何一つ嘘もなく疑う事もなく、ただ真実を語るように告げられる言葉の数々に心の底からゾォォォっとした。


昨日は人目を気にしている様子や逃げようとする素振りまで見せていたのに……。

昨日の今日で一体こいつの心境に何が起きたというのか?


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