天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

第二章

６２ レオン初出勤

（　リーフ　）



お目当てのものも無事見つかり、ホッとしながら時間を確認すれば既に７時５分前！

そろそろレオンが来る時間だと俺は正門の方へと慌てて走っていった。


そしてなんとか約束の時間ギリギリだが正門が見えるところまで来れて、間に合った～と安心したのも束の間ーー

そこには剣を構え険しい顔で威嚇するイザベルと、既に到着しているレオンが遠目に見えた。



レオンの格好は昨日と同じくツギハギだらけの麻袋を腰で縛っているだけという格好だったが、

左側の手足に布は巻き付けておらず、顔にも布は被っていない肌がむき出しスタイルで来たご様子。


どうやらレオンは一度脱いでしまえば気にならないタイプだった様で、それに対し良かった良かった～と思いながら、ふと気づく。



かなり遠くの距離にいるのにレオンと目が合ってない？？



２人の姿が確認出来た時からずっと顔がこちらを向いている気がする・・多分偶然だと思うが・・


くるりと後ろを振り向けば俺が住んでいる大豪邸

そこで、あっ！と気づいた。


レオンの視線が昨日の教会を見上げていた俺とそっくりであることを。


もう一度後ろを振り返り、改めてお城の様な外観をしている我が大豪邸を眺め、おおお～と感動の声を上げる。


明らかに大きすぎると思うが、何せここにメルンブルク家の家族全員で住むつもりで建てたらしいので、公爵家にふさわしい従者や侍女さんの人数を考えるとこのくらいが妥当らしい。


きっとレオンは随分と大きくてすごい作りの家だな、とお上りさん状態になっているにちがいない。


ただでさえリーフパパさんかママさんのどちらの趣味か分からないが、たぶん己の理想をこれでもかと詰め込んだこだわりの外観をしているし、その気持はよ～く分かる。



物語の中で彼らは自分たち一家を神の祝福を一身に受けた愛し子であると、心の底から思い込んでいた。


"   美しさ   "   に絶対的な価値観を置く彼らにとって、絶世の美しさを誇るイシュル神とそれを崇拝する美しい自分たちの姿はたまらなく魅力的であったようだ。


もしかしてリーフがレオンハルトを気に入らなかった原因はその価値観にも基づいていたのかもしれない。

だから最後の決闘では自分が英雄であることを認めろと、アーサーに条件を出したのだろう。



そんな物語にでてくるメルンブルク家のお屋敷は、教会と同様白を基調とした外観に白銀を主とした装飾品がこれでもかと周りを飾るキンキラリンの大豪邸。

現在俺の背後にある屋敷と全く同じものが建てられていた。


唯一物語の中と違うのは庭園に咲いているのが真っ赤なバラではなく、優秀な庭師のクランが選び抜いた色とりどりのお花達であるという点だけだ。


そんなこだわりの物件を離れるのはパパさんとママさんにとって苦渋の決断だっただろうなと少し申し訳無さを感じたがそこで、ふっと疑問がよぎった。




なぜ彼らはこのレガーノに住むことに決めたのか・・？



王都はこことは比べ物にならないほど広く、流行の最先端をいく発展大都市。


流行に敏感で権威を至るところでひけらかす彼らにとって、平和がトレードマークのレガーノに住み着くほどの魅力が果たしてあったのだろうか？



うーん・・



考え込んでみたが結局は分からず・・

まぁモルトのところのバラをそばで見たかったとか、ニールのところの牛乳が美味しかったとか割と単純な理由だったのかもしれないなと思うことにして、その疑問は頭の外へポポーンと放り出す。


結局豪邸に釘付けであろうレオンの目線は、多分近づくにつれて俺へと移っていき、イザベルが俺に気づいた頃には、バッチリと俺を見つめたまま、突然地面に片膝をついて言った。




「　おはようございます。リーフ様。

あなたの下僕のレオンがご命令どおりに参りました。」