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第一章

54 ” 下僕のレオン ”

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( レオン )


自分という存在を認めてもらえた!

受け入れてもらえた!!


俺はここにいる、ここに────


” リーフ様 ” によって俺は、ここに存在することを許された!!



とうとう体の中に留めておけなくなった感情の数々は、外に向かって一斉に飛び出した。


感覚の鈍くなった手でリーフ様に渡されたサンドイッチを掴み────体中から飛び出していく感情達に翻弄されたまま、勢いよくそれに齧りつく!

口の中いっぱいに広がる夢の様な味に両頬が悲鳴をあげたが、それを感じる暇がないほど心は既にめちゃくちゃで、とにかくその幸せを逃さぬようにとがむしゃらにサンドイッチを飲み込んでいった。


飢えが満たされていく────


体も……心も……同時にその全てが満たされて、これが ” 幸せ ” なのだと、俺は初めて知った。

初めて味わう目が眩む様な ” 幸せ ” に、俺はバカみたいに獣のような唸り声をあげ、壊れたように涙を流す。

そして食べ終わった後も吹き荒れる感情の数々に翻弄され、止まらぬ涙を見下ろし震えていると、リーフ様はそんな俺を見下ろしながら続けて言った。


「 やれやれ、やっと食べ終わったね。

しかーし!君の仕事はまだ残っているよ。


さぁさぁ~お次は  " 馬 "  になるんだ! 

我が下僕のレオンよ! 」



 リーフ様 の下僕である ” レオン ” がするべき事。

その事がまた俺の心に歓喜を呼び起こし、何を犠牲にしたとしてもそれは絶対にやり遂げてみせると思った。


そうすれば、リーフ様はまた嬉しそうにするだろうか?

” 俺 ” がいないと存在しない喜びが、その心に生まれる?


それを想像するとまた胸がポカポカしたが、それの意味を考えるより先に今すべき事をスキル〈 叡智 〉を駆使して考える。


馬・・それは四本の足を持つ、走る事に特化した生き物である。

残念ながら俺の足は2本・・これでは完璧にリーフ様の望みは叶えられない。


「 あの…… "   馬 "  とは……?

……俺は……どうすれば良いのですか?  」


困った俺が失礼を承知でリーフ様にそう尋ねれば、リーフ様はヤレヤレ~と言いながら ” 後ろを向け ” と命じてくれたので、俺は直ぐに背中を向けた。

何をされるのか?

それに対しての恐怖は何一つなく、今この瞬間殺されたとしても俺はこの溢れんばかりの幸せを抱えたまま、喜んでこの生を捧げよう。


あんなに必死にしがみついていた筈の ” 世界 ” に対し、一切の感情は消え失せてしまった。

もはやしがみついていた時の感情が一体なんだったのか、それすら思い出せない。


そんなものは、” リーフ様の下僕のレオン ” には、無価値なものだから────どうでもいい。


初めて味わうワクワクした気持ちに胸を躍らせリーフ様の行動を待つと、何かが肩に触れた。


そこから伝わる暖かさにひどく驚き、慌ててその正体を考えようとしたが、頭がその正体に気づく前に、その暖かさは更に背中全体を覆い尽くしてしまい思考は一旦停止する。

そして固まってしまった俺の顔の直ぐ横にはリーフ様の顔があって、そこでやっと俺はリーフ様に触れられている事を理解したのだが……同時に頭は真っ白に、心臓のバクバクいう聞いたことがないくらい大きな音だけが聞こえている状態になって、もはや頭と体は使い物にならなくなってしまった。


生まれて初めての自分以外の存在の体温……。

それはこんなにも暖かくて自分をおかしくしてしまうモノなのかと知ると、今度は ” 幸せ ” とは対極にあるであろう一つの感情が心の中に広がっていくのを感じた。



怖い…………!!



感じたことのない程の恐怖が突如、心を支配する


初めて知った幸せの感覚、これを────失いたくない!!!


そんな強い思いは、それを失った時の恐怖を生み出し俺の心を蝕んだ。



を失わないようにするにはどうすればいい?

俺はどうすればここにずっといれる?



考えて考えて考えて────!!



ぐるぐると回る思考、出ない答えに苛立ちを感じた、その時────……


「 さぁ、レオン進むんだ! 」


後ろのリーフ様から声が掛かる。


その声に、はっ!として彼が指差す方向へと視線を向けると────そこは光の溢れる世界。


日の差さぬ今の場所とは違う光り輝くその世界から、一筋の光が差し込んだ。



────そうか、そうだったのか……




先の道にある光、それを見て俺は気づかされる。


欲しいと願うなら、俺は手を伸ばさないといけない、足を動かさなければいけない。

体も心も、俺の持つもの全てを使って俺はあそこに辿り着がなければダメなのだ。

            

俺はそれを理解し、必死にへ向かって一歩踏み出した。



ただ周りにある物を ” あるがまま ” に受け入れるだけではダメなのだ。

に必死に手を伸ばさねば、俺は彼のいる場所と一生交わる事が出来ない。



重さに足は悲鳴を上げて歩く事を拒んできたが、俺は汗をダラダラと垂らしながら歯を食いしばって耐えた。



俺を存在させてくれる唯一の人、存在を証明してくれるこの幸せな暖かさが・・俺はずっと欲しい。


欲しくて欲しくてたまらない。


” 執着 ” という初めての感情にまたこの身は翻弄されながらも、俺は光の世界に向かって更にもう一歩前に踏み出した────……




……が、そこで呆気なく俺は倒れてしまった。





────────届かなかった……。


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