64 / 1,001
第一章
51 あるべき世界
しおりを挟む
( レオン )
走って走って走って──────……………
ブルブルと震える身体と、もつれて今にも転びそうな足を懸命に動かし、俺は自分の家へと辿り着いた。
そして直ぐに中へ入り後ろ手でドアを閉めると、そのままズルズルと地面に崩れ落ちる。
混乱する頭と鳴り止まぬ鼓動が苦しくて……そのまま膝に顔を埋めギュッと自身の体を抱きしめた。
いつもと変わらぬ朝。
そして変わらぬ日常になるはずだった今日。
誰もいない部屋、化物の自分、体を蝕むのは飢餓感。
そして絶対的な孤独を抱え、一人で完結する世界の中、今日も俺はそんな世界に必死にしがみつく。
何故かと言われても分からない。
ただこれが俺にとってのあるがままの世界なのだから、ここでしか俺は存在する事が出来ない。
だから振り落とされない様にしがみつくしかない、ただそれだけだった。
もしかしたら俺は、俺という存在が消えてしまうのが怖いのかもしれない。
「 気持ち悪い 」「 化物 」が消え去ってくれる事を誰もが願っているというのに……
ぐぅぐぅと飢餓感を訴えてくる腹を抱え、俺はいつもの様に頭にすっぽりと布を深く被り、剥き出しになっている気味の悪い左手と左足にしっかりと布を巻く。
そして1日一回、投げ捨てられるパンの小さなカケラを口に含めば、これで食料はなくなった。
飢餓感を少しでも満たすため少しずつ齧っているのだが、そんなモノでは全く満たされないため、後は街に行って、少しでも食べられそうな物を探す、これが俺の ” 普通の日常 ” だ。
そうしてまず向かうのは飲食店の裏路地で、そこにあるゴミ箱を漁れば運良く前日の客の食べ残しが沢山手に入る事があるのでそれを狙う。
しかし勿論見つかれば罵倒され酷いときには石などを投げつけられて追い払われてしまう事もあるため、ちょうど昼時、一番お店が忙しくなる時を狙って細心の注意を払いゴミ箱を漁るのだ。
そうすれば誰にも見つからずにゆっくりとゴミを漁ることができる。
俺はいつも通りに一軒の飲食店に目をつけ、その路地裏にあるゴミ捨て場で慎重にゴミを漁っていたが、今日は運が悪い事にあまり食べ残しは残っておらず鳥の小さな骨が数本とキャベツの芯だけであった。
それでも俺にとってはご馳走だ。
誰かに取り上げられないように直ぐに口の中に入れ、しっかりとそれを噛み締めたが、それだけでは全く足りずお腹はずっと空腹を訴えてグーグーと鳴ったまま。
少しでも長く口の中に入れている事で、なんとかその不快な感覚を誤魔化そうとするもお腹は騙されてはくれないらしい。
あぁ……お腹が空いた……
空腹を訴え続けるお腹を押さえながら、フッと思う。
一度でいいからお腹が一杯になってみたい。
この飢餓感から解放されたい。
そんな叶うはずのない願望を抱きながら、俺は続けて以前遠目で見たことがある食事風景を思い浮かべた。
テーブルに所狭しと並べられた豪華な食事、それは一体どんな味がするのだろうか?
匂いだけでもお腹が膨れそうな程の主張の強い料理の数々に全く想像が追いつかない。
それに────……
俺の脳裏にはもう一つその風景に映る映像が浮かび上がる。
テーブルの周りを囲み、笑顔で笑い合う人々の姿。
食事を共にする人々は本当に幸せそうな様子であった事を思い出し、俺はフッと思う。
” 喜びの共有 ” とは、一体どの様なものなのか?
それをする事で一体何が自分に与えられるのか?
・・
その答えはここにいる俺には一生分からない
俺は頭を軽く振りそんな妄想を吹き飛ばすと、淡々ともう一つあるゴミ箱を開け中のゴミを掻き分け始めたが、いつもは考えないそんなありえない妄想に浸ってたせいだろうか、俺の注意力は随分と散漫になっていたらしく────
近づいてくる人の気配に全く気が付かなかった……。
走って走って走って──────……………
ブルブルと震える身体と、もつれて今にも転びそうな足を懸命に動かし、俺は自分の家へと辿り着いた。
そして直ぐに中へ入り後ろ手でドアを閉めると、そのままズルズルと地面に崩れ落ちる。
混乱する頭と鳴り止まぬ鼓動が苦しくて……そのまま膝に顔を埋めギュッと自身の体を抱きしめた。
いつもと変わらぬ朝。
そして変わらぬ日常になるはずだった今日。
誰もいない部屋、化物の自分、体を蝕むのは飢餓感。
そして絶対的な孤独を抱え、一人で完結する世界の中、今日も俺はそんな世界に必死にしがみつく。
何故かと言われても分からない。
ただこれが俺にとってのあるがままの世界なのだから、ここでしか俺は存在する事が出来ない。
だから振り落とされない様にしがみつくしかない、ただそれだけだった。
もしかしたら俺は、俺という存在が消えてしまうのが怖いのかもしれない。
「 気持ち悪い 」「 化物 」が消え去ってくれる事を誰もが願っているというのに……
ぐぅぐぅと飢餓感を訴えてくる腹を抱え、俺はいつもの様に頭にすっぽりと布を深く被り、剥き出しになっている気味の悪い左手と左足にしっかりと布を巻く。
そして1日一回、投げ捨てられるパンの小さなカケラを口に含めば、これで食料はなくなった。
飢餓感を少しでも満たすため少しずつ齧っているのだが、そんなモノでは全く満たされないため、後は街に行って、少しでも食べられそうな物を探す、これが俺の ” 普通の日常 ” だ。
そうしてまず向かうのは飲食店の裏路地で、そこにあるゴミ箱を漁れば運良く前日の客の食べ残しが沢山手に入る事があるのでそれを狙う。
しかし勿論見つかれば罵倒され酷いときには石などを投げつけられて追い払われてしまう事もあるため、ちょうど昼時、一番お店が忙しくなる時を狙って細心の注意を払いゴミ箱を漁るのだ。
そうすれば誰にも見つからずにゆっくりとゴミを漁ることができる。
俺はいつも通りに一軒の飲食店に目をつけ、その路地裏にあるゴミ捨て場で慎重にゴミを漁っていたが、今日は運が悪い事にあまり食べ残しは残っておらず鳥の小さな骨が数本とキャベツの芯だけであった。
それでも俺にとってはご馳走だ。
誰かに取り上げられないように直ぐに口の中に入れ、しっかりとそれを噛み締めたが、それだけでは全く足りずお腹はずっと空腹を訴えてグーグーと鳴ったまま。
少しでも長く口の中に入れている事で、なんとかその不快な感覚を誤魔化そうとするもお腹は騙されてはくれないらしい。
あぁ……お腹が空いた……
空腹を訴え続けるお腹を押さえながら、フッと思う。
一度でいいからお腹が一杯になってみたい。
この飢餓感から解放されたい。
そんな叶うはずのない願望を抱きながら、俺は続けて以前遠目で見たことがある食事風景を思い浮かべた。
テーブルに所狭しと並べられた豪華な食事、それは一体どんな味がするのだろうか?
匂いだけでもお腹が膨れそうな程の主張の強い料理の数々に全く想像が追いつかない。
それに────……
俺の脳裏にはもう一つその風景に映る映像が浮かび上がる。
テーブルの周りを囲み、笑顔で笑い合う人々の姿。
食事を共にする人々は本当に幸せそうな様子であった事を思い出し、俺はフッと思う。
” 喜びの共有 ” とは、一体どの様なものなのか?
それをする事で一体何が自分に与えられるのか?
・・
その答えはここにいる俺には一生分からない
俺は頭を軽く振りそんな妄想を吹き飛ばすと、淡々ともう一つあるゴミ箱を開け中のゴミを掻き分け始めたが、いつもは考えないそんなありえない妄想に浸ってたせいだろうか、俺の注意力は随分と散漫になっていたらしく────
近づいてくる人の気配に全く気が付かなかった……。
応援ありがとうございます!
37
お気に入りに追加
1,921
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる