天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

第一章

４９ 英雄お助け作戦 そのさん

（　リーフ　）

レオンハルトの上３文字をとっているため間違えにくいし、これなら絶対忘れない。

物覚えがすごく悪い俺としては、ちょっと凝った名前などつけた日には３歩歩いたら絶対忘れる自信がある。

我ながら良い名前を思いついたものだと自画自賛していたのだが、レオンハルト改めレオンは下を向いたままだ。


「　……レオン……レオン……。　」　


そしてそのままブツブツと俺がつけた名前を呟いている。


……もしかして気に入らなかったのかもしれない。


内心オロオロとしてしまったが、俺のセンスではこれが限界……。

あと数年後に改名されるので、それまでは我慢しておくれ。


一応、心の中でファイト～！ファイト～！レ・オ・ン！と応援をしておいた。


「　さあ！　我が下僕になったレオンよ！

君に最初の仕事を与えよう！　


これを見よ！　」


次に俺はアホみたいに重いランチバケットを開けた後、中身をレオンに見せつける。

中には我が屋敷の料理人、アントンが作ったサンドイッチがこれでもかと詰まっていて、先程からプンプンと漂っていた美味しそうな香りが、開けた事で周囲にブワッ！！と漂った。


レオンにもその香りが届いているのだろう。

それを見上げたレオンは、ゴクリと喉を鳴らした。


「　ふっふっふ～！なんて美味しそうなサンドイッチなのだろう！

そしてそして────！

お腹が減った俺はこの場でこのサンドイッチを～……食べる！！　」


おもむろに俺はランチバケットに手を突っ込み、中のサンドイッチを持ち上げると、そのまま大きくかぶり付く！


サンドイッチは５つ。

そのどれも中の具が違っていて、朝ごはん同様それはそれは素晴らしく美味しいサンドイッチであった。


う、う、うま～！


口いっぱいに広がる肉汁とソースの味を堪能しながら、きっちり一口ずつサンドイッチをかじった後、俺は残りのサンドイッチが入ったバケットをレオンにぐいっと押し付けた。


「　────うわっ……！　」


その重みでレオンは短い悲鳴をあげ、バケットをもったまま地面に倒れ込む。

その姿を見て二タリっと笑ってやると、俺は偉そうにサンドイッチを指さした。


「　俺の食べ残しの残飯を食べること！それが今日から君の大事な仕事だよ。　

さあ！早く食べるんだ！

豚さんの様に！むしゃむしゃと！しっかり噛んで、だよ！　」



＜　レオンハルトお助け作戦　：　その３　＞

栄養面の改善


レオンの食事は、現在１日に小さなパンが一つという、鳩さんの餌かと言いたくなるようなご飯しか食べさせてもらっていない。


８歳の子供がそんなんで生きていけるわけないありえない食生活。

そしてそれに見合った体型を目の前のレオンはしていて、まるで小枝の様な手足に、隠されてはいるが胴体も肋骨が浮き出るほど痩せていると思われる。


これは駄目だ、絶対に。

こんな栄養状態を続けることは現在も将来的にもマイナスでしかない。


今後強くなる為にも、栄養面を改善しておくことは必須事項……今後を見越してもかなりのプラスとして働くはずなので、最優先でしようと思っていた事であった。


そこで問題になるのはリーフとして生まれてしまった以上「　ご飯一緒に食～べよ～！　」などと気軽に言えない状態になってしまった事だったが、俺はまたしても名案を思いついた。


それがこの　"  残飯  "  作戦だ。


自分の食べかけを無理やり食べさせる、これはれっきとした虐め。

しかも結構ハイレベルな虐めに分類されるにも関わらず、なんとレオンの栄養面の改善までしてしまう優れもの！


これ以上の素晴らしい作戦はない！

そう断言出来るほど、最善の方法だ。


ふっふっふっ～！と、心の中でも悪い笑みを浮かべてご満悦していると、レオンはオロオロとサンドイッチと俺を交互に見ながら小さい声でボソボソと話し出す。


「　あ……あの……本当に……　」


「　そうだよ。このリーフ様の為に頑張り給え。　」


かわいそうな程震えているレオンに、はっきりと逃げ場がない事を告げた。


すると、レオンは観念したのか震える手でサンドイッチを掴み…………




────ひと口齧りつく。




そして無言でもぐもぐと咀嚼し、ごくんっとと飲み込めば、まるで火がついた様にガツガツと食べ始めた。

そしてその目からはポロポロと止めどない涙が溢れ落ち、食べている合間にう～う～という鳴き声を噛み殺す声まで聞こえてくる。



それを聞いた俺の心は……





────ボッロボロだ。



今直ぐ土下座してごめんなさいしたい。




お腹が凄く空いていたのは分かる。

アントンの作ったサンドイッチが美味しいのも分かる。



しかしそれを台無しにするこの状況が、一体彼の中でどのように受け止められているのか……

怖すぎて考えたくない。



”　何か食べれるものないかな～？　”　と探している最中、突如目の前に現れた冴えない男。

そいつに急に下僕になれと脅され、逆らえないのをいい事に隠している顔を見せろと命令される。

そして無理やり顔を見ておいて、大した事ない顔と馬鹿にされるわ、拾った犬猫につけるような気やすさで気に入らない名前をつけられるわ、そしてトドメの一発────

食べ掛けのサンドイッチを渡されて、ブタのように食べろと暴言を吐かれる……と。


酷すぎる現状に思わずクラクラして頭を抑えた。


前世の日本でそんな事をやれば、確実に児相が怒って飛んでくるレベル……。

まさか自分がその加害者になるなど、夢にも思わなかった。