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第一章

45 名無しの化け物

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( リーフ )

その後はモルト家所有のバラ庭園でランチをする予定のため、護衛のイザベルも含めた全員でそこへ向かってポテポテ歩く。

道中の話題はもっぱら勝手に鳴り出した鐘についてで、先ほどそれが鳴り響く中、ニッコニコで帰ろうとした俺達三人の背後に教会の外で待機しているはずのイザベルが一瞬で現れびっくり仰天。


どうやら敵襲だと思ったようで周囲を確認した後、すぐに駆けつけてくれたらしく、それは本当に凄く嬉しいが……

前世のおじさんの体だったら心臓麻痺で死んじゃってたかもしれない。

驚き過ぎて。


良かった~若い体で!


そんな変態臭~い言葉を思い浮かべ思わず苦笑いしたが、それに気づかぬほどモルトとニール、更にはイザベルまで浮かれた様子で嬉しそうにお互いその話題を話している。


そして、最終的にこのレガーノはとても良い街で街の人達もとても良い人達だから、きっと神様が祝福してくれたのだろうと話を締めていた。


その言葉を聞いて、俺は改めて今見える街並みを見回した。


ニコニコと笑い合いながら喋っている人々の姿。

元気よく走り回る子供達。

そこに悪意など一つも感じられず、それを証拠にこの街での犯罪はせいぜい子供のいたずら程度のものしかおこっていない。


────────本当に平和でのどかな街だ、ここレガーノは。


交わされる穏やかな話題と子供達の笑い声を背に、この後彼らがたどるであろう未来に思いを馳せる。


とても悲しい結末だ。


彼らは大事にしていたイシュル神様を自ら乏してしまったと、最後は自責の念にかられ自滅していった。


物語の中で何も言わずに去っていく彼を見て、彼らが本当は何を思っていたのかは知る由もないが……

今まで色眼鏡を掛けてみていた世界からそのフィルターが突然外れて、目の前に痩せ細ってボロボロの子供の姿が見えたら────俺だったら多分死にたくなるよ。


なんてひどい事しちゃったんだろうって。


多分そこでなんとも思わない人は、そもそも自滅なんてしない。

その辛い気持ちをどうにか発散したくて人のせいにして逃げようとしたけど、結局は出来なかったんだ。

根っこが真面目で、優しかったから。


レガーノの人々がこれから辿る運命を思い、ギュッと目を瞑ってワシャワシャワシャ~!と乱暴に頭を掻いた。


中々今の時点で人の価値観って奴をガラリと変えるのは無理だと思うので、とりあえずレオンハルトを見つけたら積極的には近づけない様にするしかないか。


幸い俺は一応は公爵様。

俺が側にいるなら流石に石は投げられまい。


改めて ” リーフ ” に生まれてラッキーラッキー!


むひょひょ~!と心の中でご機嫌で笑っていると、ニールが突然「 そういえば…… 」と、全く違う話題を話し始めた。


「 少し小耳に挟んだんすけど……
 
リーフ様って ” 名無しの化け物 ” の噂は、ご存知っすか?

少し前から、どこからともなく現れては街のゴミ箱をあさりに来るそうっす。

背丈は子供程しかないそうなんですが、なんでもその姿はまるで呪われたかの様な恐ろしい姿をしているそうです。 」


ピタリと固まった俺に気づく間もなくモルトが嫌悪感に滲んだ顔で言った。


「 あぁ、俺、以前両親と街を歩いていた時に一度だけ見たことありますよ。

汚れた布を頭から被っていたのでその全容は分かりませんでしたが、チラリと見えた手足は全体的にやけどの様に黒く爛れていて、そこにびっしり変な文字が書かれていました。

とても人間とは思えない姿に、俺、大声で悲鳴をあげてしまって……

そうしたら父が必死に石を投げて追い払おうとしてくれたんです。

母もそれに応戦して大きな音を音を立てて、そしたらその音を聞きつけた街の人達も協力してくれてなんとか追い払う事ができました。

本当にその時はすごく怖かった……今思い出しても、震えてしまいます。

両親も街の人達もなんとかその化け物を退治したいんだそうですが、下手に刺激して何か呪いの様なものが伝染したら……と思うとどうしようも出来ないと言っていました。 」


「 うわぁ~……まじっすか……じゃぁ、噂は本当なんすね。
                    
家の近所のおばさんが、以前遠目でそれらしきものを見たらしいんすけど、神の怒りをかったとしか思えないって言ってたっす。

絶対近づいちゃいけないよって何度も言いながら震えてたっすね。 」


イザベルはその話を聞きながらブルリと震え、他の2人も同様に体を震わせたが、俺にそれを気にする余裕はなかった。



だって彼だ。



俺の人生を変えてくれた。


辛くてどうしようもない時はずっと俺の心を支えてくれた。


そして諦めてしまいたいと挫折しそうな時は背中を押してくれた。


そんな俺の永遠のヒーロー、憧れ続けた彼が、ここにいる。

この無数にある世界の中、同じ世界に足をつけて生きている。


そんな奇跡を前に、この世界に転生させてくれたレーニャちゃんに、本当にありがとう!と心の中でつぶやいた後、改めて目の前に突きつけられる彼の置かれている環境について心を痛めた。


本当は、今直ぐ "   レオンハルトは悪くないんだぞ────!   "   と声を大にして叫びたいが、それをすることは許されない。


何故なら俺はレオンハルトの前に立ちふさがる最強最悪の悪のカリスマ。

〈 リーフ・フォン・メルンブルク 〉なのだから。


なんの関係もない脇役……いや、外見通りの通行人役でも良い、それに生まれていれば……!

心の中でバタバタと地団駄を踏み、どうしようもできない境遇にたいして投げていた────その時……






────────ガシャンっ!!






カラカラカラ…………





金属の様な物が落下する音が、突然日の当たらぬ薄暗い脇道から聞こえた。


そしてガサガサという何かをかき分ける音が続けて聞こえ始めたので、俺たちは全員でそちらの方向へと目を向ける。

暗がりに目が慣れてくるにのに従い徐々にその正体が見えてくると、ビリビリと電気の様なモノが全身に流れ、目はそれに釘付けになった。


汚れてところどころ破けた布を頭から被り、更に大きな麻袋のようなものに穴を開け、かろうじて着れる様に仕立てている服。

はみ出た左半身をできるだけ隠そうと、薄汚れた布を手足に巻き付けている小さな小さな子供。


ガリガリの体に小枝の様な手足を懸命に動かしながら鉄製のゴミ箱を漁るその姿に、ぶわっと感情が爆発しそうになった。



────見つけた!


やっと会えた。俺の人生をハッピーエンドにしてくれたヒーローに!



感動と同時に、今のレオンハルトの姿に悲しみや怒りを感じジワッと涙がでそうになったが、湧き上がった感情はグッ!とお腹に力を入れて飲み込んだ。


隣にいたモルトとニール、イザベルは、レオンハルトの姿を目にした途端、うっ……と息を詰まらせヨロヨロと後ずさるが、俺はただ一点のみ、レオンハルトから目をそらすことなく、一歩、また一歩と足を前に出す。


「 ……あっ……。 」 


「「 リっ、リーフ様……?? 」」


レオンハルトに近づいていく俺の姿を見て、三人からは戸惑う声が聞こえたが……俺の足は止まらない。


悪役リーフの役目は、レオンハルトに強さを与える事。

そして俺の目的はレオンハルトの人生の節目節目に起こる、心を殺す出来事を本来の未来を大きく変えずに防ぐ事。


そして最終的には、人生の中で経験してきた数々の思い出の中からこの世界の在り方を選んでほしい。



それが今の俺のハッピーエンド。

それを目指して俺は前世と同じく走り続ける。



────そしてこれが悪役リーフとしての第一歩だ!





「 おいっ!!そこの君!! 」

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