上 下
59 / 1,315
第一章

44  イシュルの教会

しおりを挟む
( リーフ )

教会の中に入るとまず目に入るのは大きなイシュル神像で、白銀の長い髪を持つ美しい女性が簡素な白いドレスを身に纏い天に祈るようなポーズをとっている。

そして恐らくは何かの行事ごとの時に鳴らすのだろうか?像の上には大きな鐘が設置されており、それを支える銀細工の支えにはガラスの花が所々に飾られ像全体を輝かせていた。


これがイシュル神様か~。


へぇ~と感動しながら周りをキョロキョロ見回すと、イシュル神像が立っているのは広くて綺麗な聖堂で、沢山の礼拝者達がイシュル神像に向かって祈りを捧げてはそのまま帰っていく姿が見える。


モルトとニールは勝手知ったるとばかりに慣れた様子で、イシュル神様の像の前まで俺を連れて行くと、他の礼拝者同様祈りを捧げ始めたので俺もすぐにそれを真似て祈った。


そして真剣に祈り続けるモルトとニール、その他の人達を見て、元日本人であった自分としては馴染みがないが、この国の人達にとってイシュル神が本当に大切な存在であるということを理解する。


だからこそ彼らにとってレオンハルトの存在は受け入れ難いものだったんだろうな……。


祈りのポーズのまま、こんにゃろ~!と恨んでしまう気持ちが湧くが……でも同時にそんなレオンハルトの命を救ってくれたのもイシュル教だった。

きっとイシュル神様の ” 子供は神のお使い様 ” という教えがなかったら多分生まれた瞬間に────


しゅしゅ~ん……


恨めしい気持ちはあっという間に萎んでいき、目の前のイシュル像に向かって今度は心から感謝のお祈りを捧げる。


"   イシュル神様、レオンハルトを助けてくれて本当にありがとうございます!

これから俺、頑張ります!  "


心の中でお礼を告げると……



────────ゴローン!ゴローン!!


突如イシュル神像の上に設置されている鐘が大きな音を立てて鳴り出したのだ。


突然教会内に響いた音に驚き、慌てて鐘の方を見ると、鐘がひとりでに鳴っている事に気づく。

"   もしかして 目覚まし時計のように時間によって鳴る仕掛けがあるのかな? "

そう思ったが、周囲の人々のざわめきと、俺の両隣にいるモルトとニールの狼狽えっぷりにどうもそうではない様子。


神官さん達も慌てて鐘の方に駆け寄り何事かとその周囲を調べている。


風か何か?

そう勝手に納得していると、隣にいるモルトがボソッと呟いた。


「 ありえない……。 」


「 ?何があり得ないんだい? 」


そう尋ねると、反対隣にいるニールが答えてくれる。


「 教会の鐘はイベントの時や何らかの緊急時に神官さま達によって鳴らされるんです。

それ以外では鳴らさないですし、更にその際は2~3人掛かりで鳴らすんですよ。

勝手に鳴るなんて……ありえないっす。」


「 おいっ……言葉遣い……! 」


モルトが咄嗟に注意したが、内容的にはその通りらしく、う~む……と考え込む様子を見せた。


俺は、普段聞けない鐘の音が聞けてラッキーラッキーと思いながら、難しい顔をして考え込む2人の首に手を回しぐいっと自身に引き寄せる。


「 じゃあ俺たち今日はスーパーラッキーだ。

きっと日頃頑張ってる君たちを褒めてくれたんだよ。

だからとりあえず神様にありがとうしてから帰ろうか。 」


その言葉に2人は顔を見合わせ嬉しそうな様子を見せ、3人揃って「 ありがとうございました! 」とお辞儀したところで本日の行事は無事終了。

そのまま踵を返してその場を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...