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第一章

41  カルパスとリーフ

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( カルパス )

それからの行動は早かった。

だいぶ抵抗されたが、私はリーフ様の専属執事の座を強引にもぎ取り、当時メルンブルク家に仕えていた侍女< ジェーン >と8歳になった娘< イザベル >と共にこの街レガーノに残る事になったのだ。


その後はすぐに庭師の< クラン >と料理人の< アントン >も雇い入れ、リーフ様は穏やかな環境の中スクスクと育っていく。


流石はあのお二方の子供だと言わざるを得ないくらい、生まれてすぐから気性が荒くひどい癇癪持ちであった────兄< グリード >様と姉の< シャルロッテ >様とは、全く異なる気質を持っていたリーフ様は、とても優しくて心配になるくらい素直な性格をしていた。

このまま健やかに幸せに過ごしてほしい。

そう思っていたのだが、カール様から派遣された家庭教師の男がやってくれた。


お前は捨てられた子でいらない存在であると、王都で仲睦まじく暮らす両親と兄弟の事を話をしながら、遠回しにそのことをまだ幼いリーフ様に伝えてしまったのだ。

幼いながらその事に何となく気づいていたリーフ様は決定打を突きつけられて、それから朝から晩までずっと泣いて過ごすようになってしまう。


自身の気持ちに整理がつかず、しかし攻撃的な思考をもっていなかった子供は他の人間にそれをぶつけて発散することも出来ない。

その結果、心の痛みを全て泣くことでなんとか外に出そうとしているように見える。


それに気づいた私を含めた大人たちは強く叱る事も出来ず、リーフ様の気が済むまで付き合うことを決めた。

そしてまだ幼かった娘のイザベルは、イザベルなりに思うところがあったらしい。


「 どうか私をリーフ様の専属護衛として雇って下さい。 」


自身の< 資質 >が分かった後、自らそう志願してくれたのだ。


そうして毎日悲痛な声で泣くリーフ様に、皆が心を痛めていたある日のこと。

突然侍女のジェーンが慌てた様子で私の元に飛び込んできた。


ジェーンの話では────

「  リーフ様の様子がおかしい。  」

「   今日は泣きもせず普通に返事を返してきた!   」

そう必死に伝えてくる。


更には……


「 なんかこう……喋り方が近所に住んでいたおじいちゃんそっくりでした! 」

……などと訳の分からない事まで言い出した。


もしや何らかの魔法、もしくはスキルか?!


一瞬警戒して調べても、そんな気配は微塵もない。


「 私が直接みてこよう。 」


あらゆる可能性を頭の中で考えながらジェーンにそう伝え、すぐにリーフ様のお部屋へと向かう。

そうしてリーフ様の部屋の扉の前に到着した私はピタリと止まって中の様子を伺いながら、侵入者に備え設置してあるあらゆる魔法、トラップを念入りにチェックし始めた。


侵入した形跡なし。

特別問題になりそうな事は見当たらない……。


侵入はおろか何らかの遠隔魔法もスキルも使った形跡がないことをしっかり確認し、ほっと息を吐き出す。


とりあえずは問題なさそうだ。


そう判断をし、扉を叩こうとした、その時────


「 ……って最初からお話ズレちゃってるじゃないか────────!! 」 


突如バターンと何かが倒れる音と共に、そんなリーフ様の叫び声が聞こえた。


ズレる……??

一体なんの話がズレているのか……?


さっぱり理解できない言葉が聞こえた後、今度は何かがすごい勢いで転がる音が聞こえ始める。


「 …………。 」


……とりあえず会ってみなければ判断できないと、私は扉をノックをし返事を待って部屋の中に入った。


すると中にいたのは、変わらぬ外見、変わらぬ【 生元魔力 】をもったいつも通りのリーフ様で、とりあえずはホッと息を吐く。


【 生元魔力 】

その個体が生まれながらに持っている魔力の事。

死ぬまでそれを変える事は出来ない。


それが変わっていないという事は、目の前のリーフ様は100%本物。

さらに部屋の中に仕掛けた仕掛けも全て反応が無いため、目の前のリーフ様は自信を持って本人であると言えるのだが…………


” さあ!君の名前はなにかな~?自己紹介をしてごらん。”


まるで幼子を相手にしているかのような物言いに、先程のジェーンの言葉が頭をよぎる。

本人に間違いがない事を前提に考えれば、新しいお遊びか、はたまた心が臨界点を突破した結果なのか……


うーむ……


考えても結局分からず、ただリーフ様本人は久しぶりに楽しそうな様子で笑っていたので、どちらにせよ悪いことではないだろうと判断しそれに付き合う事にした。

しばらくすればまた前の様に悲しげな様子に戻るだろうと思うとやはり胸が痛んだが、それでも今だけは楽しそうな姿を見て少し嬉しかったからだ。


────しかし……


私の予想は見事に外れ、この日からあの悲しげに泣くリーフ様を見ることは二度となかった。
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