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プロローグ

11 英雄

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そうしてまた小屋に住み始めた彼は、奴隷になる前と同じ生活を始めた。

水で空腹を誤魔化しては食べられそうな雑草を口に入れ、空腹に耐えきれなくなったら醜い姿を隠して街へ向かい、ゴミ箱を漁っては飢えを凌ぐ……そんな以前と変わらぬ日々を過ごす。


街の人々は戻ってきた彼に対し、ますますその嫌悪を深め、徹底的に無視を貫きながら天に願った。



────神様、どうかあの化け物がここから消え去ってくれますように……と。



するとそんな街の人々の願いはこの後直ぐに意外な形で叶う事になる。



約一年の月日が流れ < イシュル神の日 >を迎えた彼は、この世界で "   成人   "   と呼ばれる15歳を迎えた。


その日はまた例年通りのお祭りが世界中で開かれ、人々はこの世界を創ったイシュル神への感謝を示す為、空を見上げ大地に膝をついた、その瞬間────……


突如空が白く光りだし、神の信託が全世界に響き渡る。




【 黒い髪と瞳を持ち、その半身に呪いを受けし子は、我が愛し子の ” 英雄 ” である。


彼が18歳を迎えた時、世界に6つの光の柱が出現する。


"   英雄   "  である彼はその全ての柱を訪れ、最後は ” イシュルの聖大樹 ” にてその役目を果たすだろう。 


もし彼がその役目を果たさぬならば、世界は永遠の闇に閉ざされることとなる。


  
────その英雄の名は ” レオンハルト ”  】



それを聞いた世界中の人々は驚き、光る空に向かって必死に祈り続けるしかできない。


そんな人々を見下ろし、神は最後にこう告げた。


【     レオンハルトの持つ ” 黒 ” と半身の呪われし姿は、はるか昔に世界を憎み、邪神となった者がかけた非常に強力な呪いで、神でさえ解くことが出来ないものである    】    


────と。



その後、世界中が大騒ぎとなった。


神の愛し子である ” 英雄レオンハルト ” を見つけ出し、その役目を果たしてもらわねば世界は滅びてしまう。

早速、各国の王たちはその ” 英雄レオンハルト ” を見つけようと国中にお触れを出したのだが、それに青ざめたのは彼が暮らす街< レガーノ >の人々だった。


イシュル神の愛し子を長年存在しないように扱い続け、飢える彼を無視し続けた。


それだけでも恐れ多いのに、時には石を投げつけ追い払い、その様を嘲り笑ったりもしていた。


このことが王にバレれば街の人間は全員処刑されるかもしれない。

しかし何よりもレガーノの街の人々を打ちのめした事は、己の信じる神に背いてしまったという事実であった。


イシュル神はこの世に生を与えられたその日から、人々の心の支柱であると断言できるほど大事なものなのに、それを自らの手で汚してしまったという大罪を受け入れられない人々は、罪のなすり合いを始めた。



” 彼を捨てた母親が悪い。”


” きちんと保護しなかった教会が悪い。”


” 現状を放置した領主様が悪い。”


” そもそもあんな呪いをかけた邪神が悪い。”




"    だから何も知らなかった自分たちは悪くない  "



しかしどんなに己の罪から逃れようとしても現実は何一つ変わらず、とうとう名前のない彼の存在を嗅ぎつけた王国の騎士により、彼は見つかってしまう。


青ざめて俯いた街の人々の中、名前のない彼は騎士たちの後に続き、ゆっくりゆっくりと歩き、街の人々は己の犯した罪を見せつけられる事に恐怖しながら彼を静かに見守った。


きっと名前のない彼は、自分たちを心の底から憎んでいるに違いない。

これから大罪を犯した自分たちには、神の愛し子より神罰が下るだろう。


ガクガクと震えながらその瞬間を待っていた、が────?


それはいつまで経っても襲って来ない。


不思議に思い、顔を上げる街の人たちが見たものは────自分たちに対し何一つ感情を持っていない名前のない彼の姿だった。


名前のない彼の目には、そんな街の人々の姿など欠片すらも映ってはいない。


怒りも、悲しみも、憎しみも何一つ持っていない彼は、青ざめ震える街の人々に視線ひとつ投げずにただ前を通り過ぎその場を去って行ってしまった。


そのため街の人々には何一つお咎めもなく、いつもの日常がレガーノに帰ってくるかと思われたが……それから街の人々の生活は激変していく。


己の罪に怯え普通の生活ができなくなっていった街の人々は、その事実からなんとか逃げようと、ある者は酒に、ある者は女に、ある者は賭博に手を出し自ら落ちていった。


中には自らの命で罪を償う者まで現れ始めた頃には、レガーノは、もはや街とも呼べぬ場所へと成り果てており、以前の平和で幸せだった街は、名前のない彼とともに消え去ってしまったのだった。

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