上 下
56 / 84
その後のストーリー( 半年後 )

56 不幸な男

しおりを挟む
( 大樹 )

流石にそこまで不幸、不幸って言われると流石にショックなんだけど……。

汗を掻きながらレオンハルトにその根拠を尋ねると、レオンハルトは口を開け閉めして何度か言いかけては止め、言いかけては止めを繰り返し、とうとう意を決した様子で俺の目をまっすぐ見返す。


「 本当は自由に外に行けるのに、私にずっと閉じ込められてるじゃないですか。

……私は、きっと凄く嫉妬深くて貴方が他を見ることを許せそうにない。

大樹様は流されやすいから結局言う事を聞いてくれているけど……きっと広い世界を見たら自分の今の環境が如何に不幸だったかって気づくと思いますよ。

そして気づいたら自由になりたいって思います。

……普通は自分を無理やり抱いた相手と一緒にいたいとは思わないんです。 」


「 …………。 」


俺はそこまで聞いて、やっとレオンハルトの言いたい事を理解した。

そして痛む頭を優しく優しく撫でる。


こいつって何でこんなにバカなんだろう……?


心の中で呟くと更にズキズキと痛みだした頭を今度はコンコンと叩いた。


いやいや、流石に流されやすいと自他共に認める俺だって、嫌いなヤツと一緒にいないし、ましてやエッチなんてしねぇだろ~。

それに────!


そこでフッ……と今までの人生を振り返り、思わず遠い目を空に向ける。


俺、モテた事ないんだよねぇ~……今まで一度も。


自分で言って悲しくなる事実にフラ~……と倒れそうになったが、今はレオンハルトが後ろにいるため問題なし。

遠慮なく後ろに体重をかけてやった。


多分、どんなに世界が広かろうと、この世界で俺がモテないのは変わらない( 半年間で実感済み )。

つまり男とはいえ、こんなに愛してくれる人がいるココは俺にとって最高の幸せの場所なんだけど……??


体重を掛けてきた俺を楽々受け止め、何だか嬉しそうにしているレオンハルトをチラッと見て、悶々とした気持ちになる。


そもそも最初から正妃やら側妃やら?侍女やらなんやらでいつもモテモテなのお前じゃ~ん?

レオンハルトこそちょ~っと周りの美しいお嬢さんとかを見たら、俺といると不幸だって思うんじゃねぇ~の~?

俺とは結婚だってできないし、外見だって平凡だし、男だし、それに子供だって……。


モヤモヤ~ンと嫌な方、嫌な方へ向かう思考をどうしたもんかと思っていた、その時、五感に触れる存在が近づいてきたのを察知し、俺はレオンハルトの鼻をキュムっと摘んだ。

すると驚いて腕が緩んだ隙に、そこから脱出してスクっと立ち上がると、レオンハルトの執着スイッチが入った気配がした。────が……。

レオンハルトも巨大な何かが近づいてきたのに気づき、直ぐに立ち上がって剣を構えた


俺たちが同時に視線を送った方向から、のそっとやって来たのは、20メートルはゆうに超えそうな、巨大な熊型モンスター。

ビッシリ生えた鋭い牙に、黒くてポッカリ空いた目はまるで幽霊の様で感情を感じない。


特別個体

《 ゴースト・ベアー 》


ユニークモンスターほど厄介ではないが、一体で普通のモンスターを遥かに上回るパワーを持ち、討伐ともなれば騎士団の一個部隊は確実に必要。


《 聖零華 》を採取できない理由は、この甘い匂いに誘われてやってくるコイツが原因だそうで、コイツ一体で結構な数の人間が喰われてしまい、そのせいで年始近くの森は立ち入り禁止区域となっている。

そいつに向かって魔法を放とうとするレオンハルトの動きを制し、俺はトンっと軽く飛び、そいつの目の前に立った。

するとそいつは真っ黒な目をギョロッと俺に向け、そのまま俺を頭から齧ろうとしたのだが────あっさりそれを片手で止めてやる。


摘まむ様にそいつの大きく開けた口に生えている牙を持ち、それ以上動かない様にすると、ゴースト・ベアはギョッ!!としたのか、ピタリと止まった。

それにニヤッと笑いながらレオンハルトの方を振り向く。


「 お前さぁ~。時々忘れてるのかもしれないけど、俺、今はたった一人しかいない世界最強の新型人類。

誰も俺を止める事なんてできないんだよ。

力ではおろか────それこそ《 聖女の遺産 》なんて薬を使ったって……さ? 」


ゴースト・ベアは、我に帰ったのか、そのままグググ……と力押ししようと体重を掛けてきたが、勿論微動だにさず。

レオンハルトは、俺とゴースト・ベアを交互に見つめゴクッと唾を飲み込んだ。


「 俺の体はどんなに強力な毒でも薬でも、慣れればその効果は消えてしまうし、一度受けたその効果は二度と効かない。

……だからさ~如何に強力な《 聖女の遺産 》だって効いたの一瞬だけなんだって。

どう見たらお前みたいなゴツい男が女に見える幻覚を見続けられるんだっつーの。

触れた瞬間、直ぐ解けちまったよ。 」

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

処理中です...