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六章・愛してしまったので離婚してください
――12
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「……」
二人の間に重苦しい空気が漂う。玲司は驚いたようで、髪をくしゃりと握り髪の毛を乱した。
「……本気?」
「本気です」
自分は玲司に相応しくない。玲司にはもっと素敵な女の人と幸せになってほしい。
「僕が工場のことを黙っていたから?」
「……いえ、ずっと思っていたことです」
「僕は離婚しないよ。君に決定権はないって最初から言ってあるよね? 桃果ちゃんの治療費だってどうするんだい? これからドナーが決まればもっと金はかかる」
「それは、言ってました……桃果の治療費は私がたくさん働いてお金を集めますから」
はぁと深くため息をついた玲司は力強い瞳で穂乃果を見た。
「離婚はしないよ」
「……っ、でも」
玲司は立ち上がり穂乃果の手をとると歩き出した。
「玲司さん?」
引かれるままに穂乃果は玲司のあとを付いていくと二階の玲司の部屋に着いた。なにも言わずに扉を開け中に突き進む玲司。手を繋がれたままの穂乃果も一緒に玲司の部屋に入ると、ベッドの前で玲司がピタリと止まった。後ろから見る玲司の大きな背中はなんだか怒っているようなきがする。
「僕と穂乃果は離婚したくてもできないんだ」
「……はい?」
どういうことだろう。いつものように独占欲をむき出しにしている……とはなんだか違うような気がする。
ベッド横にあるサイドチェスト。穂乃果は知っている。一番上は鍵がかかっていて開かないことを。
玲司は本棚に飾られていた赤ちゃんと両親らしき人物の写真立てをもってくるとその裏には鍵が貼ってあったらしい。ぺりっとテープを剥がし鍵を取り出した。
「この写真僕の赤ん坊の頃の写真なんだ。こっちが僕を産んで十四まで育ててくれた両親。交通事故で二人共亡くなっちゃたんだけどね。それで僕は子供のいなかった叔父さん、つまり桐ケ谷製菓の前社長夫婦に引き取られたんだ。その時は悲しくて辛くて、でも泣いちゃいけないって強がってたな。その時の僕の姿が穂乃果と被ったんだ。あぁ、この子もたくさん我慢をしているんだなってね」
「……そうだったんですか」
突然明かされた玲司の過去に驚きが隠せない。まさか同じように両親を失っていたなんて。十四まで育ててくれた両親を亡くし、玲司も一人だったのだと。そして十四からの育ての両親まで亡くしてしまったなんて、心が共鳴しかけてしまう。玲司も同じだったんだと。
「ごめん、僕は工場の事以外にもうひとつ穂乃果に黙っていたことがあったんだ」
「……え?」
これ以上にまだ秘密にしてきたことがあるなんて、なんだかもう驚くを通り越してなんですか? と普通に受け止めてしまう自分がいる。
玲司は鍵を使ってチェストの一番上の引き出しを開ける。中からはぺらりと一枚の紙が出てきた。穂乃果もよく見覚えのある茶色の用紙。婚姻届だ。
「え? どうしてここに? まさか出してなかったんですか?」
婚姻届に興味のなかった穂乃果は玲司に勝手に出してきていいと言った。言ったけれど、まさか出してないとは考えてもいなかった。つまり自分達はまだ結婚していなかったという事だろうか? 玲司の頭の中は本当に考えても考えてもよく分からない。
「穂乃果がいつか僕のことを本当に愛してくれたら出そうと思っていたんだ。君が僕の事を嫌いで離れたいって言うなら今ここで破り捨てることもできる。でも僕は捨てたくない。いつか穂乃果に愛してもらえるように努力する。僕は何があっても穂乃果を手放す気は無いよ」
ずるい聞き方だ。嫌いなはずがないのに。玲司のことを愛していると気づいてしまったのに。そう、愛してる。愛してるから嫌な女の自分を見られたくないのだ。
「……じゃあ、破り捨ててください。今まで支払っていただいたお金は少しずつでも返します」
玲司の顔を見ると胸が熱くなって、きゅうっと締め付けられる。泣きそうになる。だからそっぽを向いた。顔を見たら決心が鈍ってしまいそうで怖かったから。
「穂乃果、僕は君を手放すつもりはないと言ったよね?」
玲司に肩を掴まれるが顔を見ない。穂乃果はぎゅっと目を瞑った。
二人の間に重苦しい空気が漂う。玲司は驚いたようで、髪をくしゃりと握り髪の毛を乱した。
「……本気?」
「本気です」
自分は玲司に相応しくない。玲司にはもっと素敵な女の人と幸せになってほしい。
「僕が工場のことを黙っていたから?」
「……いえ、ずっと思っていたことです」
「僕は離婚しないよ。君に決定権はないって最初から言ってあるよね? 桃果ちゃんの治療費だってどうするんだい? これからドナーが決まればもっと金はかかる」
「それは、言ってました……桃果の治療費は私がたくさん働いてお金を集めますから」
はぁと深くため息をついた玲司は力強い瞳で穂乃果を見た。
「離婚はしないよ」
「……っ、でも」
玲司は立ち上がり穂乃果の手をとると歩き出した。
「玲司さん?」
引かれるままに穂乃果は玲司のあとを付いていくと二階の玲司の部屋に着いた。なにも言わずに扉を開け中に突き進む玲司。手を繋がれたままの穂乃果も一緒に玲司の部屋に入ると、ベッドの前で玲司がピタリと止まった。後ろから見る玲司の大きな背中はなんだか怒っているようなきがする。
「僕と穂乃果は離婚したくてもできないんだ」
「……はい?」
どういうことだろう。いつものように独占欲をむき出しにしている……とはなんだか違うような気がする。
ベッド横にあるサイドチェスト。穂乃果は知っている。一番上は鍵がかかっていて開かないことを。
玲司は本棚に飾られていた赤ちゃんと両親らしき人物の写真立てをもってくるとその裏には鍵が貼ってあったらしい。ぺりっとテープを剥がし鍵を取り出した。
「この写真僕の赤ん坊の頃の写真なんだ。こっちが僕を産んで十四まで育ててくれた両親。交通事故で二人共亡くなっちゃたんだけどね。それで僕は子供のいなかった叔父さん、つまり桐ケ谷製菓の前社長夫婦に引き取られたんだ。その時は悲しくて辛くて、でも泣いちゃいけないって強がってたな。その時の僕の姿が穂乃果と被ったんだ。あぁ、この子もたくさん我慢をしているんだなってね」
「……そうだったんですか」
突然明かされた玲司の過去に驚きが隠せない。まさか同じように両親を失っていたなんて。十四まで育ててくれた両親を亡くし、玲司も一人だったのだと。そして十四からの育ての両親まで亡くしてしまったなんて、心が共鳴しかけてしまう。玲司も同じだったんだと。
「ごめん、僕は工場の事以外にもうひとつ穂乃果に黙っていたことがあったんだ」
「……え?」
これ以上にまだ秘密にしてきたことがあるなんて、なんだかもう驚くを通り越してなんですか? と普通に受け止めてしまう自分がいる。
玲司は鍵を使ってチェストの一番上の引き出しを開ける。中からはぺらりと一枚の紙が出てきた。穂乃果もよく見覚えのある茶色の用紙。婚姻届だ。
「え? どうしてここに? まさか出してなかったんですか?」
婚姻届に興味のなかった穂乃果は玲司に勝手に出してきていいと言った。言ったけれど、まさか出してないとは考えてもいなかった。つまり自分達はまだ結婚していなかったという事だろうか? 玲司の頭の中は本当に考えても考えてもよく分からない。
「穂乃果がいつか僕のことを本当に愛してくれたら出そうと思っていたんだ。君が僕の事を嫌いで離れたいって言うなら今ここで破り捨てることもできる。でも僕は捨てたくない。いつか穂乃果に愛してもらえるように努力する。僕は何があっても穂乃果を手放す気は無いよ」
ずるい聞き方だ。嫌いなはずがないのに。玲司のことを愛していると気づいてしまったのに。そう、愛してる。愛してるから嫌な女の自分を見られたくないのだ。
「……じゃあ、破り捨ててください。今まで支払っていただいたお金は少しずつでも返します」
玲司の顔を見ると胸が熱くなって、きゅうっと締め付けられる。泣きそうになる。だからそっぽを向いた。顔を見たら決心が鈍ってしまいそうで怖かったから。
「穂乃果、僕は君を手放すつもりはないと言ったよね?」
玲司に肩を掴まれるが顔を見ない。穂乃果はぎゅっと目を瞑った。
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