45 / 71
五章・変わりつつある気持ち
――2
しおりを挟む
「うん。ここに飾るのにちょうどいい大きさだ。写真たてもいい感じだね」
玲司が嬉しそうに手にしている物は随分前に無理矢理連れて行かれた教会で撮ったウエディングフォトだった。嬉しそうなタキシード姿の玲司の隣にはウエディングドレスを着た真顔の穂乃果が写っている。これのどこがいい写真なのか、さっぱりわからない。
玲司は大きなパネルの方を歴代のお菓子パッケージが並ぶ大きな棚の一画に置き、写真たては自分のデスクに飾った。
「いいですね、社長。なんだか部屋が明るくなったような気がしますよ」
原口もノリノリで玲司を煽てあげる。写真が増えただけで全く部屋の明るさなんて変わってないわ! と穂乃果は心の中で突っ込んだ。
「だよね。これでもっと仕事が頑張れそうだよ」
「本当ですね。では私も仕事に戻りますので何かありましたら呼んでください」
ペコリと頭を下げた原口は秘書室と繋がっているドアから戻って行った。穂乃果はもう何を言ってもこの男には無駄だと思い、写真に対して、こちらからは一言も言わなかった。
……そんなに嬉しいのかしら。
ニコニコと嬉しそうに写真を眺める玲司は子供が初めての物を見るようなキラキラした瞳で写真を眺めていた。その顔がすごく印象的で、脳裏にこびりつく。
いつまでも写真を眺めている玲司を置き去りにし穂乃果も秘書室に戻ると、原口が大量の紙山を物凄いスピードで捌いていた。
「原口さん……すごい早いですね。流石です」
「あ、奥様も受け取りましたね。今日中に終わるように頑張りましょうね」
「きょ、今日中……が、頑張ります」
よーしと気合を入れパソコンに向かった。最近自分専用のデスクとパソコンを用意しもらい、なんだか懐かしい気分になる。工場のときもこうしてデスクに座りパソコンをカチャカチャと叩いたものだ。懐かしくて、でもやっぱり悔しくて少し強めにキーボードを叩いた。
「お、終わった~~~!」
「奥様、お疲れさまでした」
「え!? 原口さんもう終わってたんですか!?」
原口のデスクの上は綺麗に片付いている。
「ええ、まぁ」
「さ、さすがです」
パチパチと小さく両手を叩いた。
「この仕事をして何年だと思っているんですか」
クスクスと上品に笑う原口は秘書のエキスパートだ。一緒に仕事をしていて見習いたいところしか出てこない。
コンコンと扉が鳴った。
「穂乃果、帰ろうか」
部屋の繋がるドアから玲司がひょこっと顔を出した。
「では、社長、奥様、お疲れさまでした」
ペコリと頭を下げ原口は秘書室を出た。
「原口お疲れ様。また明日もよろしくね」
「原口さん! お疲れさまでした!」
「じゃあ僕達も帰ろうか」
すっと玲司は腕を絡めるよう差し出してきたが穂乃果はすっとその手を横目にカバンを持つ。
「帰りましょう」
先にドアノブに手をかける。
「ははっ、つれなあいなぁ」
ちょっと嬉しそうな玲司の声が聞こえたのはそれもスルーすることにした。でも少しだけ、手を繋いでもいいかな、と思ってしまったのは内緒だ。最近は玲司の大きな手の温もりが少し恋しくなる時がある。
玲司が嬉しそうに手にしている物は随分前に無理矢理連れて行かれた教会で撮ったウエディングフォトだった。嬉しそうなタキシード姿の玲司の隣にはウエディングドレスを着た真顔の穂乃果が写っている。これのどこがいい写真なのか、さっぱりわからない。
玲司は大きなパネルの方を歴代のお菓子パッケージが並ぶ大きな棚の一画に置き、写真たては自分のデスクに飾った。
「いいですね、社長。なんだか部屋が明るくなったような気がしますよ」
原口もノリノリで玲司を煽てあげる。写真が増えただけで全く部屋の明るさなんて変わってないわ! と穂乃果は心の中で突っ込んだ。
「だよね。これでもっと仕事が頑張れそうだよ」
「本当ですね。では私も仕事に戻りますので何かありましたら呼んでください」
ペコリと頭を下げた原口は秘書室と繋がっているドアから戻って行った。穂乃果はもう何を言ってもこの男には無駄だと思い、写真に対して、こちらからは一言も言わなかった。
……そんなに嬉しいのかしら。
ニコニコと嬉しそうに写真を眺める玲司は子供が初めての物を見るようなキラキラした瞳で写真を眺めていた。その顔がすごく印象的で、脳裏にこびりつく。
いつまでも写真を眺めている玲司を置き去りにし穂乃果も秘書室に戻ると、原口が大量の紙山を物凄いスピードで捌いていた。
「原口さん……すごい早いですね。流石です」
「あ、奥様も受け取りましたね。今日中に終わるように頑張りましょうね」
「きょ、今日中……が、頑張ります」
よーしと気合を入れパソコンに向かった。最近自分専用のデスクとパソコンを用意しもらい、なんだか懐かしい気分になる。工場のときもこうしてデスクに座りパソコンをカチャカチャと叩いたものだ。懐かしくて、でもやっぱり悔しくて少し強めにキーボードを叩いた。
「お、終わった~~~!」
「奥様、お疲れさまでした」
「え!? 原口さんもう終わってたんですか!?」
原口のデスクの上は綺麗に片付いている。
「ええ、まぁ」
「さ、さすがです」
パチパチと小さく両手を叩いた。
「この仕事をして何年だと思っているんですか」
クスクスと上品に笑う原口は秘書のエキスパートだ。一緒に仕事をしていて見習いたいところしか出てこない。
コンコンと扉が鳴った。
「穂乃果、帰ろうか」
部屋の繋がるドアから玲司がひょこっと顔を出した。
「では、社長、奥様、お疲れさまでした」
ペコリと頭を下げ原口は秘書室を出た。
「原口お疲れ様。また明日もよろしくね」
「原口さん! お疲れさまでした!」
「じゃあ僕達も帰ろうか」
すっと玲司は腕を絡めるよう差し出してきたが穂乃果はすっとその手を横目にカバンを持つ。
「帰りましょう」
先にドアノブに手をかける。
「ははっ、つれなあいなぁ」
ちょっと嬉しそうな玲司の声が聞こえたのはそれもスルーすることにした。でも少しだけ、手を繋いでもいいかな、と思ってしまったのは内緒だ。最近は玲司の大きな手の温もりが少し恋しくなる時がある。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
社長の×××
恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。
ある日突然異動が命じられた。
異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。
不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。
そんな葵に課長は
「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」
と持ちかける。
決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。
果たして課長の不倫を止めることができるのか!?
*他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる