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五章・変わりつつある気持ち

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「うん。ここに飾るのにちょうどいい大きさだ。写真たてもいい感じだね」


 玲司が嬉しそうに手にしている物は随分前に無理矢理連れて行かれた教会で撮ったウエディングフォトだった。嬉しそうなタキシード姿の玲司の隣にはウエディングドレスを着た真顔の穂乃果が写っている。これのどこがいい写真なのか、さっぱりわからない。


 玲司は大きなパネルの方を歴代のお菓子パッケージが並ぶ大きな棚の一画に置き、写真たては自分のデスクに飾った。


「いいですね、社長。なんだか部屋が明るくなったような気がしますよ」


 原口もノリノリで玲司を煽てあげる。写真が増えただけで全く部屋の明るさなんて変わってないわ! と穂乃果は心の中で突っ込んだ。


「だよね。これでもっと仕事が頑張れそうだよ」


「本当ですね。では私も仕事に戻りますので何かありましたら呼んでください」


 ペコリと頭を下げた原口は秘書室と繋がっているドアから戻って行った。穂乃果はもう何を言ってもこの男には無駄だと思い、写真に対して、こちらからは一言も言わなかった。


 ……そんなに嬉しいのかしら。


 ニコニコと嬉しそうに写真を眺める玲司は子供が初めての物を見るようなキラキラした瞳で写真を眺めていた。その顔がすごく印象的で、脳裏にこびりつく。


 いつまでも写真を眺めている玲司を置き去りにし穂乃果も秘書室に戻ると、原口が大量の紙山を物凄いスピードで捌いていた。


「原口さん……すごい早いですね。流石です」


「あ、奥様も受け取りましたね。今日中に終わるように頑張りましょうね」


「きょ、今日中……が、頑張ります」


 よーしと気合を入れパソコンに向かった。最近自分専用のデスクとパソコンを用意しもらい、なんだか懐かしい気分になる。工場のときもこうしてデスクに座りパソコンをカチャカチャと叩いたものだ。懐かしくて、でもやっぱり悔しくて少し強めにキーボードを叩いた。


「お、終わった~~~!」


「奥様、お疲れさまでした」


「え!? 原口さんもう終わってたんですか!?」


 原口のデスクの上は綺麗に片付いている。


「ええ、まぁ」


「さ、さすがです」


 パチパチと小さく両手を叩いた。


「この仕事をして何年だと思っているんですか」


 クスクスと上品に笑う原口は秘書のエキスパートだ。一緒に仕事をしていて見習いたいところしか出てこない。


 コンコンと扉が鳴った。


「穂乃果、帰ろうか」


 部屋の繋がるドアから玲司がひょこっと顔を出した。


「では、社長、奥様、お疲れさまでした」


 ペコリと頭を下げ原口は秘書室を出た。


「原口お疲れ様。また明日もよろしくね」


「原口さん! お疲れさまでした!」


「じゃあ僕達も帰ろうか」


 すっと玲司は腕を絡めるよう差し出してきたが穂乃果はすっとその手を横目にカバンを持つ。


「帰りましょう」


 先にドアノブに手をかける。


「ははっ、つれなあいなぁ」


 ちょっと嬉しそうな玲司の声が聞こえたのはそれもスルーすることにした。でも少しだけ、手を繋いでもいいかな、と思ってしまったのは内緒だ。最近は玲司の大きな手の温もりが少し恋しくなる時がある。


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