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四章・安心感を与える腕の中
――2
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急に自分の名前を呼ばれて驚いた。振り向くと林田がニヤッと笑って立っている。
「は、林田さん、お久しぶりですね」
正直言って会いたくはなかった。以前林田からの告白を断ったあとに工場の契約を切られてしまったのだ。引きつる顔を必死で作り笑顔に変える。
「たまたま買い物に来ていたら穂乃果さんが見えたんだな」
「そうなんですね。ではまた、買い物が終わっていませんので」
「またね、なのだ」
林田はにやぁっと笑うと店内の中に入っていった。
それを確認すると穂乃果ははぁぁっ大きくため息を付き、新しい空気を沢山吸った。なんだかどっと疲れてしまい、とりあえずいいなぁと思っていた定番の黄色のパンジーや、濃い紫のパンジー、ピンクとオレンジのパンジーを籠にいれ、会計を済ませる。あまり買うと重くて持ちきれないので今日はとりあえず片手に五株ずつ持ち、合計十株買って帰ることにした。
「う……意外と重いわね」
でもこれで庭が明るく綺麗になると思うとさっきの林田との遭遇で疲れていたはずなのに心が踊る。
「玲司さんも喜ぶかしら……って! なにいってんの!」
盛大な独り言にジロっと不審な人を見る目で周りの人から見られてしまい恥ずかしくなって急いでホームセンターを出た。
正直言って少しだけ玲司に対しての思いに変化があった。
穂乃果は契約を切られた工場の事があったからもっと冷徹な冷たい人間だと思っていたのに、それとは真逆、凄く穂乃果のことを大切に扱ってくれている。少し過保護すぎるほど。
それがなぜなのかは分からない。愛があって結婚したわけじゃない、あの男の世間体と興味に乗っかってお金の為に結婚しただけなのに。そもそも玲司の言う穂乃果に対する興味というのもよく分からないのだ。
見た目? 性格? 身体……はそんなにいい身体ではない、胸も標準サイズだし、不幸な自分に同情でもしてくれたのだろうか、考えても玲司が自分のどこに興味を持ったのか分からない。
カバンの中から電話の着信音が聞こえる。道の端に花を置きスマホを取り出すと玲司からの着信だ。
「もしもし?」
「今どこにいるんだ?」
玲司の聞いたことのない、怒っているような棘のある低い声。
「あと少しで家に着きますけど……」
「そうか、ならいいんだけれど。家に着くまでこの電話は切っちゃ駄目だよ」
「なんでですか?」
直に切れそうにないので仕方なく片手で十株の花を持って歩くことにした。
「なんでって、心配だし、僕が穂乃果の声を聞いていたいから、かな」
「心配って、幼稚園児じゃないんですから」
そんなことよりその後の玲司の発言に穂乃果の耳が熱くなる。この男はさらりとキザなことを空気を吐くように言ってくるのだ。
「もう着きましたから切りますよ」
「そうか、今日は七時すぎには帰れると思うから、しっかりと戸締まりしておくんだよ」
「はいはい、わかりましたから」
あまりにも過保護で、腕も重くて痛いし早く切りたい。
「はぁ、早く穂乃果に会いたいよ」
「っ……!? もう着いたから切りますね!」
突然の甘い囁きに驚きブチッと電話を切った。
な、なんでなのよ……。
身体が熱い。今までどんなに甘い言葉をいわれてもここまで心が反応することなんてなかったのに。ドクドクと心臓が早く動いていた。
「は、林田さん、お久しぶりですね」
正直言って会いたくはなかった。以前林田からの告白を断ったあとに工場の契約を切られてしまったのだ。引きつる顔を必死で作り笑顔に変える。
「たまたま買い物に来ていたら穂乃果さんが見えたんだな」
「そうなんですね。ではまた、買い物が終わっていませんので」
「またね、なのだ」
林田はにやぁっと笑うと店内の中に入っていった。
それを確認すると穂乃果ははぁぁっ大きくため息を付き、新しい空気を沢山吸った。なんだかどっと疲れてしまい、とりあえずいいなぁと思っていた定番の黄色のパンジーや、濃い紫のパンジー、ピンクとオレンジのパンジーを籠にいれ、会計を済ませる。あまり買うと重くて持ちきれないので今日はとりあえず片手に五株ずつ持ち、合計十株買って帰ることにした。
「う……意外と重いわね」
でもこれで庭が明るく綺麗になると思うとさっきの林田との遭遇で疲れていたはずなのに心が踊る。
「玲司さんも喜ぶかしら……って! なにいってんの!」
盛大な独り言にジロっと不審な人を見る目で周りの人から見られてしまい恥ずかしくなって急いでホームセンターを出た。
正直言って少しだけ玲司に対しての思いに変化があった。
穂乃果は契約を切られた工場の事があったからもっと冷徹な冷たい人間だと思っていたのに、それとは真逆、凄く穂乃果のことを大切に扱ってくれている。少し過保護すぎるほど。
それがなぜなのかは分からない。愛があって結婚したわけじゃない、あの男の世間体と興味に乗っかってお金の為に結婚しただけなのに。そもそも玲司の言う穂乃果に対する興味というのもよく分からないのだ。
見た目? 性格? 身体……はそんなにいい身体ではない、胸も標準サイズだし、不幸な自分に同情でもしてくれたのだろうか、考えても玲司が自分のどこに興味を持ったのか分からない。
カバンの中から電話の着信音が聞こえる。道の端に花を置きスマホを取り出すと玲司からの着信だ。
「もしもし?」
「今どこにいるんだ?」
玲司の聞いたことのない、怒っているような棘のある低い声。
「あと少しで家に着きますけど……」
「そうか、ならいいんだけれど。家に着くまでこの電話は切っちゃ駄目だよ」
「なんでですか?」
直に切れそうにないので仕方なく片手で十株の花を持って歩くことにした。
「なんでって、心配だし、僕が穂乃果の声を聞いていたいから、かな」
「心配って、幼稚園児じゃないんですから」
そんなことよりその後の玲司の発言に穂乃果の耳が熱くなる。この男はさらりとキザなことを空気を吐くように言ってくるのだ。
「もう着きましたから切りますよ」
「そうか、今日は七時すぎには帰れると思うから、しっかりと戸締まりしておくんだよ」
「はいはい、わかりましたから」
あまりにも過保護で、腕も重くて痛いし早く切りたい。
「はぁ、早く穂乃果に会いたいよ」
「っ……!? もう着いたから切りますね!」
突然の甘い囁きに驚きブチッと電話を切った。
な、なんでなのよ……。
身体が熱い。今までどんなに甘い言葉をいわれてもここまで心が反応することなんてなかったのに。ドクドクと心臓が早く動いていた。
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