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三章・大きな手に撫でられて
――1
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大きな窓から明るい朝日が差し込む広いリビング。小鳥の泣き声が聞こえ、爽やかな朝陽を身体に感じるのはいつぶりだろう。穂乃果はん~っと両腕を上げながら背筋を伸ばして気合を入れ、冷蔵庫の中身を拝借させてもらった。
引っ越してきた初日はドリンクばっかりだった冷蔵庫の中も今日は一通りの食材が入っていた。卵とベーコンでハムエッグを、バターロールがあったのでそれをトースターで軽く焼く。
コーヒーメーカーが置いてあり、看病してくれたお礼に淹れてあげたいと思ったが残念ながら断念した。豆から挽くようなコーヒーメーカーとはご縁の無かった穂乃果には使い方が難しすぎた。
「お、起こしにいくのは悪いわよね」
作り終えた二人分の朝食をダイニングテーブルに並べ、階段の下で立ち止まった。
「やっぱり、やめておこう……」
一緒に寝ようと言われていたがすぐに穂乃果が熱を出した為、玲司は自室で眠っている。まだ起きてこない玲司を起こしに行こうか悩んだが、悩んだ末やめた。もしかしたら今日は仕事が休みでゆっくりしているのかも知れない。
「結局二日も寝込んじゃったのよね」
この大きな家に引っ越してきた矢先、すぐに熱をだして結局二日も寝込んでしまった。三食きっちり手料理を玲司は薬と一緒に運んできてくれ穂乃果を献身的に介抱してくれていたのだ。だからなのか、ほんの少し玲司への嫌悪感は薄れ始めていた。
あまりにも家にいるものだから会社に行かなくて大丈夫なのか心配になり「会社には行っているんですか?」と聞いたら「病人の君が心配する必要はないよ」と言われてしまった。少し疎外感を感じてしまったが結局穂乃果はこの二日間玲司の手厚い看病のお陰で体調は全回復を成し遂げたのだ。
「先に食べてよう」
ダイニングテーブルに並んだ朝ごはん、穂乃果は端に座った。
「美味しそうだね。穂乃果が作ってくれたのかい?」
声が聞こえたと同時に後ろから肩に重みを感じる。玲司が穂乃果の肩に手を添え、後ろから覗き込んできた。
「……玲司さん起きたんですね。朝ごはん出来てますけど食べますか?」
「もちろんだよ。それより体調は大丈夫なのかな?」
玲司は穂乃果の額に手を回し熱がないか確認してくる。
「あ、あの本当に下がりましたからっ」
玲司の手をどけ、後ろにいた玲司の身体を押し離した。なんだか胸のあたりがザワザワし始める。多分そのザワザワは嫌悪感のはずなのに触られても嫌ではなかったという矛盾が穂乃果の中で発生していた。
明らかに押され、触れることを拒否されているはずなのに玲司は嬉しそうに笑顔のまま「ならよかった」と頭をぽ
んっと触りキッチンへ向っていく。
拒否したのに笑顔って、あの男ドMなのかしら……。
玲司はどこからコーヒー豆を出してきて豆を挽き始めた。くるくると豆を挽くその姿が異常にかっこよく見えてし
まうのは何故だろう。寝起きのゆるい服なのに、なんなら髪も少し乱れているのに穂乃果にはキラキラして見えた。
「ん? 穂乃果もコーヒーのむ?」
「い、いえ、結構ですっ」
視線がばっちり合い、慌てて逸らした。豆を挽く玲司を見ていたことがバレてなんだか恥ずかしい。穂乃果はむしゃりとバターロールにかじりついた。
「穂乃果、もう体調はいいんだよね?」
コーヒーを片手に玲司は穂乃果の向かいの席に座った。
「はい、お陰様で。その説はお迷惑をおかけしました」
「いや、全く迷惑とかでは無かったよ。むしろちょっと弱っている穂乃果が凄い可愛くて――」
んんっ! と咳払いして玲司の言葉を妨害した。さらさらと恥ずかしい言葉を言うのだから、きっと良い慣れているのだと思うが穂乃果は違う。言われ慣れていないから対応に困るのだ。
「じゃあ、今日はちょっと出かけたいところがあるから僕に付き合ってくれるかな?」
「え、でも仕事は?」
「今日は休みなんだ」
「そうですか、まぁそれなら」
面倒かけてしまったし、買い物くらいは付き合ってやろう。そのくらいの軽い気持ちで返事をした。そう、軽い気持ちで――。
車に揺られること二十分、未だに目的地に着かないようだ。動きやすいように穂乃果はデニムに薄手のパーカー、足元はスニーカーで来たのだが、どれだけ遠いスーパーなのだろう。
「あの、スーパーって結構遠いんですか?」
「スーパー? スーパーには向ってないよ。家から五分くらいのところにスーパーはあるしね」
「え、じゃあどこへ向ってるんですか?」
「ちょうどもう着くよ。楽しみだな」
ニコニコと笑みを浮かべながら上機嫌で玲司はハンドルを握っている。
「は、はぁ……」
なんの主語もない会話に穂乃果の頭の中にはハテナマークしか浮かばない。
「ほら、着いたよ」
「は……?」
引っ越してきた初日はドリンクばっかりだった冷蔵庫の中も今日は一通りの食材が入っていた。卵とベーコンでハムエッグを、バターロールがあったのでそれをトースターで軽く焼く。
コーヒーメーカーが置いてあり、看病してくれたお礼に淹れてあげたいと思ったが残念ながら断念した。豆から挽くようなコーヒーメーカーとはご縁の無かった穂乃果には使い方が難しすぎた。
「お、起こしにいくのは悪いわよね」
作り終えた二人分の朝食をダイニングテーブルに並べ、階段の下で立ち止まった。
「やっぱり、やめておこう……」
一緒に寝ようと言われていたがすぐに穂乃果が熱を出した為、玲司は自室で眠っている。まだ起きてこない玲司を起こしに行こうか悩んだが、悩んだ末やめた。もしかしたら今日は仕事が休みでゆっくりしているのかも知れない。
「結局二日も寝込んじゃったのよね」
この大きな家に引っ越してきた矢先、すぐに熱をだして結局二日も寝込んでしまった。三食きっちり手料理を玲司は薬と一緒に運んできてくれ穂乃果を献身的に介抱してくれていたのだ。だからなのか、ほんの少し玲司への嫌悪感は薄れ始めていた。
あまりにも家にいるものだから会社に行かなくて大丈夫なのか心配になり「会社には行っているんですか?」と聞いたら「病人の君が心配する必要はないよ」と言われてしまった。少し疎外感を感じてしまったが結局穂乃果はこの二日間玲司の手厚い看病のお陰で体調は全回復を成し遂げたのだ。
「先に食べてよう」
ダイニングテーブルに並んだ朝ごはん、穂乃果は端に座った。
「美味しそうだね。穂乃果が作ってくれたのかい?」
声が聞こえたと同時に後ろから肩に重みを感じる。玲司が穂乃果の肩に手を添え、後ろから覗き込んできた。
「……玲司さん起きたんですね。朝ごはん出来てますけど食べますか?」
「もちろんだよ。それより体調は大丈夫なのかな?」
玲司は穂乃果の額に手を回し熱がないか確認してくる。
「あ、あの本当に下がりましたからっ」
玲司の手をどけ、後ろにいた玲司の身体を押し離した。なんだか胸のあたりがザワザワし始める。多分そのザワザワは嫌悪感のはずなのに触られても嫌ではなかったという矛盾が穂乃果の中で発生していた。
明らかに押され、触れることを拒否されているはずなのに玲司は嬉しそうに笑顔のまま「ならよかった」と頭をぽ
んっと触りキッチンへ向っていく。
拒否したのに笑顔って、あの男ドMなのかしら……。
玲司はどこからコーヒー豆を出してきて豆を挽き始めた。くるくると豆を挽くその姿が異常にかっこよく見えてし
まうのは何故だろう。寝起きのゆるい服なのに、なんなら髪も少し乱れているのに穂乃果にはキラキラして見えた。
「ん? 穂乃果もコーヒーのむ?」
「い、いえ、結構ですっ」
視線がばっちり合い、慌てて逸らした。豆を挽く玲司を見ていたことがバレてなんだか恥ずかしい。穂乃果はむしゃりとバターロールにかじりついた。
「穂乃果、もう体調はいいんだよね?」
コーヒーを片手に玲司は穂乃果の向かいの席に座った。
「はい、お陰様で。その説はお迷惑をおかけしました」
「いや、全く迷惑とかでは無かったよ。むしろちょっと弱っている穂乃果が凄い可愛くて――」
んんっ! と咳払いして玲司の言葉を妨害した。さらさらと恥ずかしい言葉を言うのだから、きっと良い慣れているのだと思うが穂乃果は違う。言われ慣れていないから対応に困るのだ。
「じゃあ、今日はちょっと出かけたいところがあるから僕に付き合ってくれるかな?」
「え、でも仕事は?」
「今日は休みなんだ」
「そうですか、まぁそれなら」
面倒かけてしまったし、買い物くらいは付き合ってやろう。そのくらいの軽い気持ちで返事をした。そう、軽い気持ちで――。
車に揺られること二十分、未だに目的地に着かないようだ。動きやすいように穂乃果はデニムに薄手のパーカー、足元はスニーカーで来たのだが、どれだけ遠いスーパーなのだろう。
「あの、スーパーって結構遠いんですか?」
「スーパー? スーパーには向ってないよ。家から五分くらいのところにスーパーはあるしね」
「え、じゃあどこへ向ってるんですか?」
「ちょうどもう着くよ。楽しみだな」
ニコニコと笑みを浮かべながら上機嫌で玲司はハンドルを握っている。
「は、はぁ……」
なんの主語もない会話に穂乃果の頭の中にはハテナマークしか浮かばない。
「ほら、着いたよ」
「は……?」
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