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二章・お言葉に甘えて
――11
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「えっと……」
「はい、あーん」
白い湯気をゆらゆらさせながらスプーンで掬ってふーふーと食べやすいように冷ましてくれている。その光景を見ながら穂乃果はなんだか少し泣きそうになった。こんな風に誰かに優しく心配してもらったのは久しぶりだ。
「や……、それはちょっと、自分で食べられます」
さすがにあーんは恥ずかしい。
「だめ。僕が穂乃果に食べさせてあげたいんだよ。病人なんだからこういう時こそ甘えないと」
「……」
なんだか昨日から甘やかされているだけのような気がする。でもきっと玲司は言っても折れなそうだ。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
昨日追加された定型文のお言葉に甘えて、かなりの使用頻度な気がする。
「はい、あーん」
しぶしぶ小さく口を開き、口元に運ばれてきたお粥を食べる。熱すぎず丁度いい。味もシンプルな塩のみなのになぜか凄く美味しく感じた。
「……美味しいです」
あ、思わず美味しいって言っちゃった……。
「よかった」
安心したようにふわっとした優しい笑顔を玲司は見せた。そして「はい、あーん」とまた口に丁度いい熱さのお粥を運んでくれる。美味しいとちゃんと伝えたから嬉しそうに頬を緩ませているのだろうか? 優しくじぃっと見つめられながら食べるのはなんだか恥ずかしい。
「あの、あまり見ないでもらえませんか……食べづらいです」
「あ、ごめん。可愛くてつい見惚れちゃってたな」
「なっ……」
勢いよく息を吸ってしまい、むせそうになるのをゴクンと飲み込んだ。
「ひな鳥みたいで」
……そういうことですか。
そっと両手を布団の上に揃えて起き、じろりと玲司を見た。
「もうお腹いっぱいになりました。薬を頂けますか?」
「もういいのかい? じゃあ薬を飲もうか」
コップに入った水と錠剤を受け取り穂乃果はさっと飲み干した。
「飲み終わりましたので、寝ます。ご心配おかけしました」
「ん? なんだかご機嫌斜めかな?」
「いえ、別に」
別にひな鳥みたいって言われたくらいで怒っていない。……多分。
「そう、ならいいけれど。じゃあ今日はゆっくり休みなさい、また飲み物とか後でもってくるからね」
玲司は穂乃果の髪を梳きながら優しく後頭部を撫でる。その大きな手がなんだかすごく安心感を与えてくれたのか、急に睡魔が襲ってきた。
ん……なんだか凄く、眠い……。
瞼に重りを付けられたように段々と下がり始める。
「穂乃果、なにか辛いことがあったらすぐに電話すること。些細なことでもいい、水くださいでも僕はすぐに飛んで
くるからね」
「はい……」
人に優しく介抱されるなんて、何年ぶりだろう。父も桃果が産まれてからは身体の弱い桃果ばかりを心配し、自分が熱を出しても一人部屋に放って置かれていたことを思いだした。穂乃果はいつしか具合が悪くても人に頼ることをしなくなったのだ。頼って一人にされたらもっと寂しいから。なのに、嫌なはずなのに、憎んでいるはずなのに、今日は玲司の手が心地よい。
「眠そうだ。横になりなさい」
ぼやぼやした意識の中、穂乃果はベッドに横になった。玲司が綺麗に布団を掛け直し、やわらかな布団に包み込まれる。じわじわ後頭部から伝わってくる冷たさが気持ちいい。
「穂乃果、おやすみ」
部屋から出ていかずに玲司は穂乃果の頭をまた優しく撫で始めた。ゆっくりと落ちてくる瞼に抵抗する気はさらさらない。細まる瞳には玲司の優しい表情が最後まで映っていた。
「はい、あーん」
白い湯気をゆらゆらさせながらスプーンで掬ってふーふーと食べやすいように冷ましてくれている。その光景を見ながら穂乃果はなんだか少し泣きそうになった。こんな風に誰かに優しく心配してもらったのは久しぶりだ。
「や……、それはちょっと、自分で食べられます」
さすがにあーんは恥ずかしい。
「だめ。僕が穂乃果に食べさせてあげたいんだよ。病人なんだからこういう時こそ甘えないと」
「……」
なんだか昨日から甘やかされているだけのような気がする。でもきっと玲司は言っても折れなそうだ。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
昨日追加された定型文のお言葉に甘えて、かなりの使用頻度な気がする。
「はい、あーん」
しぶしぶ小さく口を開き、口元に運ばれてきたお粥を食べる。熱すぎず丁度いい。味もシンプルな塩のみなのになぜか凄く美味しく感じた。
「……美味しいです」
あ、思わず美味しいって言っちゃった……。
「よかった」
安心したようにふわっとした優しい笑顔を玲司は見せた。そして「はい、あーん」とまた口に丁度いい熱さのお粥を運んでくれる。美味しいとちゃんと伝えたから嬉しそうに頬を緩ませているのだろうか? 優しくじぃっと見つめられながら食べるのはなんだか恥ずかしい。
「あの、あまり見ないでもらえませんか……食べづらいです」
「あ、ごめん。可愛くてつい見惚れちゃってたな」
「なっ……」
勢いよく息を吸ってしまい、むせそうになるのをゴクンと飲み込んだ。
「ひな鳥みたいで」
……そういうことですか。
そっと両手を布団の上に揃えて起き、じろりと玲司を見た。
「もうお腹いっぱいになりました。薬を頂けますか?」
「もういいのかい? じゃあ薬を飲もうか」
コップに入った水と錠剤を受け取り穂乃果はさっと飲み干した。
「飲み終わりましたので、寝ます。ご心配おかけしました」
「ん? なんだかご機嫌斜めかな?」
「いえ、別に」
別にひな鳥みたいって言われたくらいで怒っていない。……多分。
「そう、ならいいけれど。じゃあ今日はゆっくり休みなさい、また飲み物とか後でもってくるからね」
玲司は穂乃果の髪を梳きながら優しく後頭部を撫でる。その大きな手がなんだかすごく安心感を与えてくれたのか、急に睡魔が襲ってきた。
ん……なんだか凄く、眠い……。
瞼に重りを付けられたように段々と下がり始める。
「穂乃果、なにか辛いことがあったらすぐに電話すること。些細なことでもいい、水くださいでも僕はすぐに飛んで
くるからね」
「はい……」
人に優しく介抱されるなんて、何年ぶりだろう。父も桃果が産まれてからは身体の弱い桃果ばかりを心配し、自分が熱を出しても一人部屋に放って置かれていたことを思いだした。穂乃果はいつしか具合が悪くても人に頼ることをしなくなったのだ。頼って一人にされたらもっと寂しいから。なのに、嫌なはずなのに、憎んでいるはずなのに、今日は玲司の手が心地よい。
「眠そうだ。横になりなさい」
ぼやぼやした意識の中、穂乃果はベッドに横になった。玲司が綺麗に布団を掛け直し、やわらかな布団に包み込まれる。じわじわ後頭部から伝わってくる冷たさが気持ちいい。
「穂乃果、おやすみ」
部屋から出ていかずに玲司は穂乃果の頭をまた優しく撫で始めた。ゆっくりと落ちてくる瞼に抵抗する気はさらさらない。細まる瞳には玲司の優しい表情が最後まで映っていた。
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