高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい

森本イチカ

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胸が痛むのはどうしてだろう3

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 その日の夕方、尊臣が203号室の佐藤に華の腕は確かで、とても優秀な先生だと佐藤をなだめてくれたと華は風の噂で聞いた。


 現に佐藤の病室に様子を見に行くと佐藤は手のひらを返したかのように華に対しての態度が変わっていた。これほど佐藤の態度がかわるなんてどんなことを尊臣は言ったのだろう。凄く気になり、色々なお礼を兼ねてのコーヒーを自動販売機で購入した華は尊臣を探すため、病院内をうろちょろ歩き回った。


(どこに行ったのかしら。急患とかもいないはずだし)


 しばらく歩いても見つけられなかったので諦めて医局に戻ることにした。


「――高地先生っ」


 ん? 


 明らかに尊臣の名前を呼んだ女性の声がした。尊臣が近くにいるらしい。どうせならこの手に持っているコーヒーだけでも渡そうと華は声のもとに歩き進めた。


(こっちから聞こえた気がしたけど)


 廊下に面して三つ並んだ患者用の衣類や、シーツ類を収納してある部屋の一つの扉が開いている。普段はきちんと閉まっているはずなのに、どうしてだろうと不思議に思った華は扉に近づいた。


 閉めておこうと扉に手を伸ばした瞬間、中に人影が見えた。


(えっ……)


 思わず身体がピシリと固まる。扉の奥に見えたのは亜香里に抱きつかれている尊臣だ。


「私、高地先生が好きなんです」
「早見さん」


 尊臣は抱きつく亜香里を離そうと亜香里の肩に手を置くが、亜香里はめげずに力一杯尊臣に抱きつく。


「先生のためなら私なんだってしますから。好きなんです。私じゃダメですか?」
「早見さん」


 尊臣は堅い声で亜香里の名前を呼び、身体を自分から離す。


「ごめん。俺、好きな人がいるって言ってあったよね? だから早見さんの気持ちには応えられないんだ」
「知ってます! それでも、それでも好きなんです。二番目でもいいです。付き合ってくれませんか?」


 うるうると瞳を潤ませ、恋に必死な女の子は同性の華にも凄く可愛く見えた。


「早見さん、俺はその人のことしか見てないから、ごめん」


 亜香里の瞳からはポロポロと涙が零れ落ちる。


「私を振ったこと後悔しますからね!」


 泣きながら笑った亜香里は小走りで扉へ向かってくる。あ、まずい、と思ったときにはもう遅く、勢いよく出てきた亜香里と肩がぶつかった。


「あっ……えっと……」
 

 なんて言えばいいのかわからず口籠ると亜香里はフンッと華を睨み、小走りで駆けていく。その背中を見つめながら華も歩き出した。


(尊臣くんに好きな人がいるのは私も知ってたけど、あんなに可愛い子を振っちゃうほどその子のことが好きなのね……)


 なぜかチクリと胸が痛み、手に持っていたコーヒーの缶を華は両手でぎゅっと握りしめた。冷たいコーヒーは華の手をどんどん冷たくしていく。そのままこの胸の痛みも冷たさで麻痺してしまえばいいのに。
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