高嶺の花と呼ばれた君を僕の腕の中で包みたい

森本イチカ

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歓迎会は色々とドキドキの連続2

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「華っ、ちょっと待ってよ」


 パシンと腕を捕まれ、華の足がピタリと止まった。


「っ! びょ、病院では名前で呼ばないでください」
「あ、悪い。つい昔の癖で。そうだよな、職場だし名字のほうがいいよな」
「腕……離してください」


 華は掴まれた腕に視線を向けると尊臣は「ごめん」とすぐに腕を離した。


「日本に戻ってきたばっかりで知り合いもいないし、桜庭先生に色々教えてもらいたくてさ。いい?」


 下を向いていた華の顔を覗き込むように尊臣は身体を少し屈めた。華も決して身長は低くないほうだ。百六十五センチあるので女性にしたらまぁまぁ高い方だと思う。それでも尊臣には低いようで覗き込まれた尊臣の瞳は真っ直ぐで艷やかに煌めいて見えた。


「……分かったから。あんまり見ないで」


 華は輝く瞳からパッと目を反らす。高嶺の花と呼ばれ続けてしまった華はボッチを極めていたため、人気者の輝いている瞳は華には眩しすぎた。


「は……じゃなくて桜庭さん、今夜なんだけど――」
「高地先生~~~っ」


 尊臣の声を遮るように甲高い声が華の背中に突き刺さる。ふと声の方を見ると、外科で看護師をしている早見亜香里(はやみあかり)がパタパタとで小走りでこちらに向かってきていた。ミディアムヘアーを揺らしながら、小柄な亜香里は少し頬を赤く染めている。


「もぉっ、高地先生って背が高いから足も速いんですね~。先生今日の夜ってお暇ですか? 今日先生の歓迎会を開こうって話になりまして、どうですか?」


 きゅるんと可愛らしく上目遣いで尊臣を見る。華には亜香里の後ろに狙った獲物は逃さないとチーターが見えたような気がした。


「あ~、そんな俺に気を使わないでください」


 丁寧に断る尊臣に亜香里は畳み掛ける。


「今日は夜勤のひと以外は参加できるみたいなんですよ。ね、先生いいですよね? 皆先生との距離を縮めたいんですよ」
「そ、そうなんですね。うん、じゃあ、わざわざありがとうございます」
「わ~よかった。……桜庭先生は、来ますか?」


 亜香里はその場に居た華のことも一応誘っておくか、と言うようなトーンで聞いてきた。


「私は遠慮しておくわ。皆で楽しんできてください」
「ですよね! 桜庭先生は飲み会とかめったに参加されないですもんね。本当美人で高嶺の花って感じで憧れちゃいますぅ」


 パチンと両手を合わせて笑顔を見せる亜香里に華は雰囲気を壊さないように必死で口角を上げた。


「じゃあ、場所と時間が決まり次第またお伝えしますね!」


 また、パタパタと小走りで去っていく亜香里を見て、華も歩き出した。


「なんで、ついてくるんですか?」


 なぜか尊臣も華の横を歩いてついてくる。


「桜庭先生は来てくれないの? 俺の歓迎会」
「行きません。私が行っても場違いだし」
「じゃあ俺もいかない」


 尊臣は両腕を組んだ。


「俺もって、主役が行かなきゃ意味ないじゃない」


 組んでいた腕をすっと下ろし、尊臣は華の腕をそっと握った。


「華がいないなら行く意味がない」


 真剣な、落ち着いた声。それでも華にはつかまれた腕のほうが気になって、尊臣と分かっていてもこれ以触れられていたら震えだしそうだ。


「……離してください」
「じゃあ行く?」
「行きません」
「じゃあ、俺も行かない」
「だから、主役が行かなきゃ意味ないでしょう?」


 何を子供みたいなことを言っているんだと呆れた顔で華は尊臣を見る。


「だから、華も来てくれるよね?」


 じぃーっと見つめられ華は思わずパッと視線を逸らした。男性にずっと見つめられるのは苦手だ。それがたとえ患者さんでも、今だに克服出来ないでいる。ずっと会いたいと思っていた唯一の友達でさえ見つめる事が出来ない。 


「華」
「……わかったわよ。行くから名前で呼ばないでください」
「嬉しいな」


 ニコニコと全面に嬉しいを表現できるのはフランクなアメリカからやって来たからに違いない。やっと開放された腕には尊臣の熱が残っている。残っているのに、華の手が震えだすことはなかった。
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