45 / 57
聖なる翼に愛を捧げる
3、コスプレ
しおりを挟む
「あのさぁ、俺から頼みがあるんだけど~」
休憩から戻ってきた健の手元には大きな紙袋を抱えている。
「お兄ちゃん、何?」
「はい、コレ! 二人に似合うと思うから買っておいた。これ着て今年は路上販売よろしく~今年はガンガン売り上げ伸ばして来年に繋げるよ~」
有無を言わせない、と強引に押し付けられた紙袋の中にはアラサーには恐ろしい真っ赤な服がチラリと見えた。
「ま、まさか……」
「そう、そのまさかのまさか。二人ともまだまだ若いから大丈夫! 頼むよ~」
「ぜーーーったいに嫌!!! こんなサンタのコスプレなんて着れるわけないじゃない! 三十よ!? 三十の独身女がコスプレって痛すぎるでしょ!? そうよね!? 綾乃!」
「え? そう? 私は全然イケるけど。むしろこれ着て運命の出会いとか訪れないかなぁ~日和もサンタコスして社長にせまっちゃえば? 今夜は燃えるわよ~」
「あんた達二人して……あ~~~もうっ! 着るわよ!」
兄妹そろってコスプレになんの抵抗もなし。二対一の多数決で完全なる敗北。
泣く泣く夕方になりサンタのコスプレ服に袖を通した。久しぶりに履く膝上のスカート。上は長袖がだ首元がガッツリとオフィショルで鎖骨が見えてしまう。恥ずかしいけど、着るしか無いともう諦めた。サンタの帽子を被って、いざ綾乃と一緒に外に出るが――極寒の寒さだ。一気に身体に鳥肌が湧き上がった。
「さ、寒すぎぃぃぃぃ~!」
「た、確かにコレはめっちゃ寒いわね。でも大丈夫、ここでお助けアイテムホッカイロと足元用ヒーターを準備したわ。お兄ちゃんの私物よ!」
業務用テーブルに赤い布を掛け、その下にお客さん側からは見えないように小さなヒーターが設置されている。カチッとスイッチを入れるとブオーっとゆっくり温かい風が出てきた。
「あ~小さいけど結構あったかい。コレなかったら泣いてたわ」
「じゃあ、私の素敵な男との出会いのために路上販売頑張るわよ~!」
あ、そうでしたか。だからコスプレにも気合が入ってるってわけだと納得。
けれどサンタのコスプレのお陰なのか? 例年より売れるペースが早く、小さな子どもなんかはサンタの格好をした二人を見て「可愛いサンタさんだ」なんて無邪気に喜んでくれるものだから、毒気を抜かれた気分だ。
(店長、あんなに嫌がってごめんなさい)
夕方とはいえ外はもうすっかり闇に包まれている。だが今日はクリスマス、街のイルミネーションの明るさが暗さを全く感じさせない。赤、黄、青、緑、白、キラキラ光る電飾たちは店の前を歩く人々の顔を明るく照らす。もちろん笑顔じゃない人だっている。そんな人達にこそシュガーベールのケーキを食べて笑顔になってほしい。「クリスマスケーキいかがですかー?」と大きな声を張り上げた。
時刻は夜の七時、あと十個のホールケーキが残っている。これが売り切れれば今日の仕事は無事に終わりだが、売れなければ売れるまで終わらない。いくらヒーターがあるとはいえ寒くて地獄のような時間だ。
「寒いっ! 早く終わりにしたい! もうイケメンも運命の出会いも何も無いじゃない。前を歩く幸せそうなカップル……滅亡してしまえばいい……」
「あ、綾乃……」
寒さで思考回路まで凍結されつつあるようだ。でも、言ってる気持はよく分かる。今日洸夜と会うはずなのだがいつも通りなんの連絡もない。日和は自分から連絡しようか悩み、一度はスマホを手に取ったが一旦止めた。
(仕事が終わってから連絡してみよう……)
休憩から戻ってきた健の手元には大きな紙袋を抱えている。
「お兄ちゃん、何?」
「はい、コレ! 二人に似合うと思うから買っておいた。これ着て今年は路上販売よろしく~今年はガンガン売り上げ伸ばして来年に繋げるよ~」
有無を言わせない、と強引に押し付けられた紙袋の中にはアラサーには恐ろしい真っ赤な服がチラリと見えた。
「ま、まさか……」
「そう、そのまさかのまさか。二人ともまだまだ若いから大丈夫! 頼むよ~」
「ぜーーーったいに嫌!!! こんなサンタのコスプレなんて着れるわけないじゃない! 三十よ!? 三十の独身女がコスプレって痛すぎるでしょ!? そうよね!? 綾乃!」
「え? そう? 私は全然イケるけど。むしろこれ着て運命の出会いとか訪れないかなぁ~日和もサンタコスして社長にせまっちゃえば? 今夜は燃えるわよ~」
「あんた達二人して……あ~~~もうっ! 着るわよ!」
兄妹そろってコスプレになんの抵抗もなし。二対一の多数決で完全なる敗北。
泣く泣く夕方になりサンタのコスプレ服に袖を通した。久しぶりに履く膝上のスカート。上は長袖がだ首元がガッツリとオフィショルで鎖骨が見えてしまう。恥ずかしいけど、着るしか無いともう諦めた。サンタの帽子を被って、いざ綾乃と一緒に外に出るが――極寒の寒さだ。一気に身体に鳥肌が湧き上がった。
「さ、寒すぎぃぃぃぃ~!」
「た、確かにコレはめっちゃ寒いわね。でも大丈夫、ここでお助けアイテムホッカイロと足元用ヒーターを準備したわ。お兄ちゃんの私物よ!」
業務用テーブルに赤い布を掛け、その下にお客さん側からは見えないように小さなヒーターが設置されている。カチッとスイッチを入れるとブオーっとゆっくり温かい風が出てきた。
「あ~小さいけど結構あったかい。コレなかったら泣いてたわ」
「じゃあ、私の素敵な男との出会いのために路上販売頑張るわよ~!」
あ、そうでしたか。だからコスプレにも気合が入ってるってわけだと納得。
けれどサンタのコスプレのお陰なのか? 例年より売れるペースが早く、小さな子どもなんかはサンタの格好をした二人を見て「可愛いサンタさんだ」なんて無邪気に喜んでくれるものだから、毒気を抜かれた気分だ。
(店長、あんなに嫌がってごめんなさい)
夕方とはいえ外はもうすっかり闇に包まれている。だが今日はクリスマス、街のイルミネーションの明るさが暗さを全く感じさせない。赤、黄、青、緑、白、キラキラ光る電飾たちは店の前を歩く人々の顔を明るく照らす。もちろん笑顔じゃない人だっている。そんな人達にこそシュガーベールのケーキを食べて笑顔になってほしい。「クリスマスケーキいかがですかー?」と大きな声を張り上げた。
時刻は夜の七時、あと十個のホールケーキが残っている。これが売り切れれば今日の仕事は無事に終わりだが、売れなければ売れるまで終わらない。いくらヒーターがあるとはいえ寒くて地獄のような時間だ。
「寒いっ! 早く終わりにしたい! もうイケメンも運命の出会いも何も無いじゃない。前を歩く幸せそうなカップル……滅亡してしまえばいい……」
「あ、綾乃……」
寒さで思考回路まで凍結されつつあるようだ。でも、言ってる気持はよく分かる。今日洸夜と会うはずなのだがいつも通りなんの連絡もない。日和は自分から連絡しようか悩み、一度はスマホを手に取ったが一旦止めた。
(仕事が終わってから連絡してみよう……)
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる