12 / 57
第一章、夢の中の男
12、シュガーベール
しおりを挟む
午前七時、ガシャガシャと荒いクリームを泡立てる音。日和はパティシエとして勤めている【シュガーベール】で店の開店準備をしていた。
(何が淫魔よ! 何が婚約者よ! あのヤリチンめ!)
昨日の出来事を考えれば考えるほどイラついて、考えれば考えるほど熱く身体が疼く。
――真田洸夜。
あの後すぐに洸夜について調べた。調べたと言ってもハピフルのサイトを見ただけだが、かなりやり手の社長らしい。五年前に洸夜が社長に就任してから業績は鰻登り、ハピフルに登録している会員数も結婚相談所トップレベル。容姿端麗、周囲からの信頼も厚く、なんでそんな完璧な人が自分の事を好きと言っているのか理解できない。
(なんであいつとのエッチはあんなに気持ちいいのよ……私不感症だったはずなのに……本当に淫魔なのかな……淫魔なんて本当に存在するの?)
クリームを泡立てる手は激しさを増す。
「おいおい、そんな乱暴に泡立てたらクリームが泣くぞ~」
「あ、店長すいません。つい考え事してたら」
シュガーベールの店長、西田健(にしだ たける)日和より二歳年上の三十二歳独身。日和の通っていた製菓学校での先輩だ。健にスカウトされ日和はシュガーベールにパティシエとして就職した。
「なんだ~この前男に振られた事引きずってんのか~?」
「あ、そう言えば私って振られたんだった」
洸夜との出会いがインパクトありすぎてすっかり振られた事を忘れていた。
「なんだそりゃ、本当お前の男への関心の無さ、そりゃ男も逃げるわな~」
「うぅ、ぐうの音も出ないっ!」
「ははっ、まぁさっさと次の恋でも見つけな~。俺はタルト生地焼くからお前はスポンジ宜しくな」
「もう焼いてます!」
「はい、流石です~、んじゃ開店に向けて作るぞ~」
香ばしいケーキの焼き上がる匂いが厨房に充満する。クリームの甘い匂いや色鮮やかなフルーツをカットしフレッシュな酸味のある匂いも香ばしい匂いの中に混ざった。
焼き上がったスポンジは明日用に寝かし、昨日健が作ってくれていたスポンジを三枚にカットする。クリームを塗り一センチほどにスライスした苺を満遍なくのせもう一度クリームで蓋をする。ケーキホール全体にクリームを塗りナッペするのだが日和はこの工程が一番ケーキ作りの中で大好きだ。真っ白な一つも足跡のない雪景色のように綺麗なナッペが出来た時はケーキを焼くようになって何年も経った今でも変わらず嬉しくてニヤけてしまう。
ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、モンブラン、ミルフィーユ、フルーツタルト、まだまだ沢山の種類のケーキをガラスのショーケースに並べた。艶々輝いていてまるで宝石が並んでいるように綺麗でうっとりしてしまう。
「うんっ、今日も素敵な子達が出来上がり!」
「俺の作った苺のタルトなんてツヤッツヤ~」
十時の開店時間まであと十五分。
「はいはい、お兄ちゃんのタルトは艶々なのは分かったからさっさと洗い物してください」
店の外の掃除から西田綾乃(にしだ あやの)が戻ってきた。渋々と健は「はーい」と厨房へ戻っていった。健と綾乃は兄妹、つまり西田家のケーキ屋に日和が一緒に働いている感じだ。
綾乃はパティシエではないので売り場専門、レジ打ちから接客まで全てをこなしてくれている。
「じゃあ私も後片付けしてくるから綾乃、宜しくお願いします」
「こちらこそ、今日も宜しくお願いします」
親しき仲にも礼儀あり、お互いに深々とお辞儀をして持ち場に戻る。綾乃とは高校の時からの友人だ。
(何が淫魔よ! 何が婚約者よ! あのヤリチンめ!)
昨日の出来事を考えれば考えるほどイラついて、考えれば考えるほど熱く身体が疼く。
――真田洸夜。
あの後すぐに洸夜について調べた。調べたと言ってもハピフルのサイトを見ただけだが、かなりやり手の社長らしい。五年前に洸夜が社長に就任してから業績は鰻登り、ハピフルに登録している会員数も結婚相談所トップレベル。容姿端麗、周囲からの信頼も厚く、なんでそんな完璧な人が自分の事を好きと言っているのか理解できない。
(なんであいつとのエッチはあんなに気持ちいいのよ……私不感症だったはずなのに……本当に淫魔なのかな……淫魔なんて本当に存在するの?)
クリームを泡立てる手は激しさを増す。
「おいおい、そんな乱暴に泡立てたらクリームが泣くぞ~」
「あ、店長すいません。つい考え事してたら」
シュガーベールの店長、西田健(にしだ たける)日和より二歳年上の三十二歳独身。日和の通っていた製菓学校での先輩だ。健にスカウトされ日和はシュガーベールにパティシエとして就職した。
「なんだ~この前男に振られた事引きずってんのか~?」
「あ、そう言えば私って振られたんだった」
洸夜との出会いがインパクトありすぎてすっかり振られた事を忘れていた。
「なんだそりゃ、本当お前の男への関心の無さ、そりゃ男も逃げるわな~」
「うぅ、ぐうの音も出ないっ!」
「ははっ、まぁさっさと次の恋でも見つけな~。俺はタルト生地焼くからお前はスポンジ宜しくな」
「もう焼いてます!」
「はい、流石です~、んじゃ開店に向けて作るぞ~」
香ばしいケーキの焼き上がる匂いが厨房に充満する。クリームの甘い匂いや色鮮やかなフルーツをカットしフレッシュな酸味のある匂いも香ばしい匂いの中に混ざった。
焼き上がったスポンジは明日用に寝かし、昨日健が作ってくれていたスポンジを三枚にカットする。クリームを塗り一センチほどにスライスした苺を満遍なくのせもう一度クリームで蓋をする。ケーキホール全体にクリームを塗りナッペするのだが日和はこの工程が一番ケーキ作りの中で大好きだ。真っ白な一つも足跡のない雪景色のように綺麗なナッペが出来た時はケーキを焼くようになって何年も経った今でも変わらず嬉しくてニヤけてしまう。
ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、モンブラン、ミルフィーユ、フルーツタルト、まだまだ沢山の種類のケーキをガラスのショーケースに並べた。艶々輝いていてまるで宝石が並んでいるように綺麗でうっとりしてしまう。
「うんっ、今日も素敵な子達が出来上がり!」
「俺の作った苺のタルトなんてツヤッツヤ~」
十時の開店時間まであと十五分。
「はいはい、お兄ちゃんのタルトは艶々なのは分かったからさっさと洗い物してください」
店の外の掃除から西田綾乃(にしだ あやの)が戻ってきた。渋々と健は「はーい」と厨房へ戻っていった。健と綾乃は兄妹、つまり西田家のケーキ屋に日和が一緒に働いている感じだ。
綾乃はパティシエではないので売り場専門、レジ打ちから接客まで全てをこなしてくれている。
「じゃあ私も後片付けしてくるから綾乃、宜しくお願いします」
「こちらこそ、今日も宜しくお願いします」
親しき仲にも礼儀あり、お互いに深々とお辞儀をして持ち場に戻る。綾乃とは高校の時からの友人だ。
10
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる