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第一章、夢の中の男
2、あの男のせい
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地球温暖化が進んでいるせいか年を重ねる毎に十一月の気候が暖かくなっている気がする。去年の今頃はもうコートを羽織っていたのに今夜はまだ薄手のカーディガンで十分な寒さだ。
今日は久しぶりに付き合って三ヶ月が経つ彼氏、商社勤務の田中太郎(たなか たろう)とのデートの日だ。仕事終わり、待ち合わせの喫茶店までの歩道にはパラパラと枯れた落ち葉が舞い落ちていた。シャクっと踏むと良い音を鳴らす落ち葉の音についまた踏みたくなってしまう。日和は楽しくなってきて待ち合わせの喫茶店までの道のりをシャクシャクと音を鳴らしながら歩いた。
カランカランと昔ながらのドアが開いた時のチャイム音。クラシックが流れる店内はシックで落ち着いた雰囲気だ。
「太郎、お待たせ」
「ああ」
席に座る。既に太郎はホットコーヒーを頼んでいたようで既にカップの中は半分くらい減っていた。
すいません、と店員に同じホットコーヒーを頼み着ていたカーディガンを脱ぎ膝の上に乗せる。
「二週間ぶりだね。元気だった?」
「ああ」
「どうかした?」
なんだか気怠そうな返事に日和は不安感を抱いた。いつもと同じパターン。これは――くる。
「別れてくれ。もうお前とは付き合えないわ」
やっぱり。
「どうして?」
いちよう聞いてみる。
「お前と一緒にしてもつまらないんだよ。それに今どきマグロ女って、ははっ、身体の相性も悪いし。そう言う事だからじゃあな」
日和の頼んだホットコーヒーが運ばれて来るよりも先にカランカランとドアの音が店内に鳴った。
(マグロ女か……仕方ないじゃない。気持ち良くないんだから)
日和はまたか、と思いながらテーブルの上に置かれた千円札をボーッと眺めた。
「美味しいなぁ」
白い湯気を靡かせながら届いたコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れる。日和は甘党だ。甘くて温かいコーヒーが身体に染み渡る。
振られたと言う事実は悲しくも無ければ涙も出ない。むしろなんだか少しスッキリしている。
日和はマグロ女……不感症だ。どうしてもセックスが気持ち良いと感じた事が一度もない。恋人なのに、身体を触れらると気持ち悪くて鳥肌が立つ。濡れていないのに挿れられて痛くて、セックスをしている時間は私にとって苦痛の時間でしかなかった。
どうして男は付き合うとすぐにセックスをしたがるんだろう? 断ると不機嫌になるし、喘がないと雰囲気盛り下がるとか言われて、日和はいつからか相手の男に合わせて喘ぐ演技をするようになっていた。
(もうセックスしなくて良いと思うと気が楽だなぁ~)
だが同時に悲しくもなった。振られたから悲しいのでは無い。付き合った当初から好きとかそう言う恋愛感情が太郎になかったのはもう分かっていた。結婚適齢期と周りに言われて流されるように付き合って、振られて、自分が女として終わっているような気がして悲しくなったのだ。
心臓をギュッと握り潰されてしまうような、好きで好きで苦しくなるような恋を日和はまだ知らない。
(そもそも、原因はあの夢の男のせいよ!)
ガチャンと勢いよくカップを置き、頭を抱えた。
二十歳になってから日和はある特定の夢をよく見るようになっていた。
いつも同じ男が夢に出てくる。顔は何故か霧がかかったようによく見えない、ハッキリと分かるのは身長百六十センチある日和が見上げるほど背が高くて、綺麗で明るいブラウンの髪。前髪を下ろしている時もあればビシッとまとめ上げている時もある。その前髪の奥の瞳は夢だからか、見たいのにどうしても見る事ができない。
低くて耳の奥までよく響く妖艶な声。薄くてスッキリとした唇から「日和」と優しく夢の中で名前を呼ばれ、骨の髄まで蕩けそうになる。
夢の中だけに存在する謎の男に日和の身体は何故か熱く燃えるように反応し、濡れる。
男の指はゴツゴツしすぎずスラリと長い。その指に翻弄され演技でも無い、本当に気持ち良いと感じて甘い声が漏れ出してしまう。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら残りのコーヒーを飲み干した。
(ああ! 絶対この夢の男のせいでリアルの男に感じられないんだわ!)
有り難くテーブルの上に置かれていた千円札を支払いに使わせて頂き、日和は帰り道もシャクシャクと落ち葉を踏んで帰った。ちょっと強めに踏んで帰った。
今日は久しぶりに付き合って三ヶ月が経つ彼氏、商社勤務の田中太郎(たなか たろう)とのデートの日だ。仕事終わり、待ち合わせの喫茶店までの歩道にはパラパラと枯れた落ち葉が舞い落ちていた。シャクっと踏むと良い音を鳴らす落ち葉の音についまた踏みたくなってしまう。日和は楽しくなってきて待ち合わせの喫茶店までの道のりをシャクシャクと音を鳴らしながら歩いた。
カランカランと昔ながらのドアが開いた時のチャイム音。クラシックが流れる店内はシックで落ち着いた雰囲気だ。
「太郎、お待たせ」
「ああ」
席に座る。既に太郎はホットコーヒーを頼んでいたようで既にカップの中は半分くらい減っていた。
すいません、と店員に同じホットコーヒーを頼み着ていたカーディガンを脱ぎ膝の上に乗せる。
「二週間ぶりだね。元気だった?」
「ああ」
「どうかした?」
なんだか気怠そうな返事に日和は不安感を抱いた。いつもと同じパターン。これは――くる。
「別れてくれ。もうお前とは付き合えないわ」
やっぱり。
「どうして?」
いちよう聞いてみる。
「お前と一緒にしてもつまらないんだよ。それに今どきマグロ女って、ははっ、身体の相性も悪いし。そう言う事だからじゃあな」
日和の頼んだホットコーヒーが運ばれて来るよりも先にカランカランとドアの音が店内に鳴った。
(マグロ女か……仕方ないじゃない。気持ち良くないんだから)
日和はまたか、と思いながらテーブルの上に置かれた千円札をボーッと眺めた。
「美味しいなぁ」
白い湯気を靡かせながら届いたコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れる。日和は甘党だ。甘くて温かいコーヒーが身体に染み渡る。
振られたと言う事実は悲しくも無ければ涙も出ない。むしろなんだか少しスッキリしている。
日和はマグロ女……不感症だ。どうしてもセックスが気持ち良いと感じた事が一度もない。恋人なのに、身体を触れらると気持ち悪くて鳥肌が立つ。濡れていないのに挿れられて痛くて、セックスをしている時間は私にとって苦痛の時間でしかなかった。
どうして男は付き合うとすぐにセックスをしたがるんだろう? 断ると不機嫌になるし、喘がないと雰囲気盛り下がるとか言われて、日和はいつからか相手の男に合わせて喘ぐ演技をするようになっていた。
(もうセックスしなくて良いと思うと気が楽だなぁ~)
だが同時に悲しくもなった。振られたから悲しいのでは無い。付き合った当初から好きとかそう言う恋愛感情が太郎になかったのはもう分かっていた。結婚適齢期と周りに言われて流されるように付き合って、振られて、自分が女として終わっているような気がして悲しくなったのだ。
心臓をギュッと握り潰されてしまうような、好きで好きで苦しくなるような恋を日和はまだ知らない。
(そもそも、原因はあの夢の男のせいよ!)
ガチャンと勢いよくカップを置き、頭を抱えた。
二十歳になってから日和はある特定の夢をよく見るようになっていた。
いつも同じ男が夢に出てくる。顔は何故か霧がかかったようによく見えない、ハッキリと分かるのは身長百六十センチある日和が見上げるほど背が高くて、綺麗で明るいブラウンの髪。前髪を下ろしている時もあればビシッとまとめ上げている時もある。その前髪の奥の瞳は夢だからか、見たいのにどうしても見る事ができない。
低くて耳の奥までよく響く妖艶な声。薄くてスッキリとした唇から「日和」と優しく夢の中で名前を呼ばれ、骨の髄まで蕩けそうになる。
夢の中だけに存在する謎の男に日和の身体は何故か熱く燃えるように反応し、濡れる。
男の指はゴツゴツしすぎずスラリと長い。その指に翻弄され演技でも無い、本当に気持ち良いと感じて甘い声が漏れ出してしまう。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら残りのコーヒーを飲み干した。
(ああ! 絶対この夢の男のせいでリアルの男に感じられないんだわ!)
有り難くテーブルの上に置かれていた千円札を支払いに使わせて頂き、日和は帰り道もシャクシャクと落ち葉を踏んで帰った。ちょっと強めに踏んで帰った。
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