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エピローグ

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「ママ~、わかなもやるのぉお!」
 お気に入りのエプロンを手に持った和香那がキッチンにトタトタと走ってきた。もう三歳になった和香那も自我が芽生え、今は何でもやりたい! 知りたい! という時期だ。今もキッチンに立ち始めた菜那を見てやりたい! の気持ちがむくむく芽生えたのだろう。
「じゃあ、一緒にお昼ご飯つくろっか」
「やるー! つくるー!」
 プリンセスの絵がプリントされたエプロンを和香奈の頭からすっぽりとかぶせた。
「よしっ、じゃあ今日はサンドイッチをつくってお庭でピクニックだ!」
「ピクニック! おにわでごはんたべるのだいすきっ」
 和香那は飛び跳ねながら目をキラキラさせて喜んでいる。
「じゃあ、はい。台の上に乗ってまずは手を洗いましょう」
「はーい」
 和香那専用の踏み台を用意し、それに乗った和香那は慣れた手つきで手を洗い始める。
 本当に、このお家に引っ越してきてまだ一ヶ月なのに、子供の順応力って凄いなぁ。
 ごしごしと手が泡まみれの和香那をみて思わず感心してしまう。
 一か月前、蒼司と菜那の二人でアイディアを出し合った夢のマイホームが完成した。特に菜那のお気に入りはこのキッチンだ。通路を広くしたことにより、大人が余裕ですれ違うことも出来る。作業スペースも広くしたおかげでこうして和香那と一緒に料理を楽しむこともでき、菜那の楽に家事ができるアイディアがたっぷり詰まったキッチン。コンセント位置も調理器具を使いやすいように調整し、収納も無駄なスペースをつくらないようバッチリだ。
「ママ、て、あらったよ!」
 両手を菜那の目の前に出し、得意げにニコッと笑っている。手を洗っただけなのに、可愛いなぁと思いつつ「わぁ、凄いっ。ピカピカだね」と全力で褒めた。
「じゃあママが茹で卵をつくっている間に和香那にはレタスを洗ってもらいます」
「あいっ!」
 やる気のこもった元気な声。もう何度かレタスは洗ったことがある和香那は手際よくレタスをむしりとり、一枚一枚丁寧に洗い始めた。
 ふふっ、レタス洗うのにあんなに真剣なんだもんなぁ。
 卵をお湯でぐつぐつと茹でながら和香那の様子を眺める。和香那がレタスを洗い終える頃にちょうど茹で卵も出来上がった。氷水でキンキンに冷やし、卵を一つ和香那に手渡した。
「卵、やる?」
「やるー! たまごむきむきするのだいすき!」
 ゆで卵の殻を剥くのが和香那は大好きだ。たまに綺麗に剥けなくて怒ったり泣いたりもするけれど、どうしても最後まで自分でやりたいらしい。ゆで卵が小さな手の中にあると、とても大きく見える。
「じゃあ、ヒビを入れてください」
「はいっ!」
 和香那は卵をバンバンとなかなかの強さで殻を叩き割った。粉々に近いヒビができ、小さな指で一生懸命剥き始める。
「ママ、みて! きれいにできた!」
 つるんっと綺麗に剥けたゆで卵が和香那の小さな手のひらのうえで寝転んでいる。
「わ~すっごく綺麗。凄いね。もう一個やる?」
「やる!」
 和香那は二個目のゆで卵も強めの力で叩いていた。
 綺麗に剥けたんだけど、今日はサンドイッチだからマヨネーズでぐちゃぐちゃにしちゃうんだけどね……。
 案の定、卵をぐちゃぐちゃに混ぜる時に少し怒ったが、混ぜている間にたのしくなったらしく機嫌もすぐに直った。
 レタスとハムのサンドイッチとタマゴのサンドイッチが三人分完成した。
「完成~。お庭に運ぶ前にパパの事呼んでこよっか」
「うんっ」
 和香那は一目散に走り出し、リビング内にある階段を勢いよく昇っていった。菜那も和香那が階段から落ちないよう後ろにピッタリとついて階段を昇っていく。
 蒼司の仕事場兼書斎は二階にあり、今まで住んでいたマンションの二倍広くなった仕事部屋だが、何故かその三分の一は和香那のオモチャで埋め尽くされているのが現状だ。なんでも、パパと一緒に遊びたいという娘の要望に負けて、仕事の合間を縫っては仕事部屋で遊んでいることも多い。仕事部屋の前に着いた和香那がトントンとドアを叩いた。
「パパ~ごはんできたよ~!」
「あぁ、今行く」
 中からすぐに蒼司の声が聞こえてきた。ガチャリとドアが開き、眼鏡姿の蒼司が現れる。
「よいしょっと、今日のお昼ご飯はなんだろう?」
 蒼司が和香那を抱き上げる。嬉しそうに和香那は蒼司に抱きつき、頬を寄せた。
「サンドイッチ! ママといっしょにつくったんだよ」
「おぉ、凄いね。二人が作ったサンドイッチなら世界一美味しいだろうな」
 大げさすぎる言葉を言いながら蒼司は頬を緩ませている。
「蒼司さん、お仕事お疲れ様です」
「菜那さんも、お昼ご飯和香那と一緒に作ってくれてありがとう」
 そっと菜那の頭を撫で、蒼司は和香那を抱っこしたまま階段を降りた。
「パパ、きょうはピクニックよ」
「そうなんだ。天気もいいしね、お外で食べたらもっと美味しいだろうな」
 和香那は庭を指さし「おそと!」とそのまま蒼司を誘導していく。菜那はキッチンに戻り、サンドイッチをトレイに乗せて外へ運んだ。
 高い塀で囲われた庭はプライベートがしっかりと守られていて、外からの視線も気になることはない。一面人工芝で、小さな花壇と砂場は和香那のお気に入りの場所だ。
 四角いガーデンテーブルにサンドイッチとお茶を並べる。蒼司と和香那が隣同士に座り、菜那は向かい側に座った。手を合わせ三人の声が綺麗に重なる。
「「「いただきます」」」
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