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一か月の新生児の時期もあっという間に過ぎ、無事一か月検診を終えた。
「和香那、よく頑張りました」
「本当にうちの娘はいい子過ぎる」
身長や体重などを測るために一度脱がせた服を着せながら菜那は和香那に向けて笑顔を見せる。もちろんその隣には菜那以上にデレた顔の蒼司がいた。
娘の名前は宇賀谷和香那(うがやわかな)。蒼司が菜那のように優しい人になって欲しいからと那の字を取り、周りを和ませ、心が美しい子になって欲しいと願いを込めてつけた名前だ。
「今日の検診は終わりです。時に問題はなかったですね。また次の検診までに何かきになることがあったら遠慮なく受診してくださいね」
優しい産婦人科の先生の言葉に感謝しながら、三人は病院を出た。
和香那を新生児用のチャイルドシートにのせ、向かう先は菜那の母親が入院している癌センター。しばらく車を走らせているとさっきまで起きていた和香那はすやすやと夢の中ようだ。
「ふふっ、もう寝ちゃいました。早いですね」
「きっと検診で疲れたんですよ。でも、特に問題なくてよかった。それに菜那も、産後一か月経ったからって無茶しないこと。俺がいるんだから頼ってくださいね」
「わかってますよ。……ふふっ」
菜那は両手で口元を押さえながら蒼司を見る。
「なに? どうしました?」
バックミラーに不思議がる蒼司の顔が映っている。
「いえ、まだ蒼司さんに菜那って呼び捨てにされるのが慣れなくて。なんかくすぐったい気持ちになっちゃいます」
「実は俺もです……敬語でも話しちゃうし、癖ですね」
「でも和香那を産む時、私のこと菜那って呼んでくれてましたもんね。その時は痛すぎて考えてられなかったけど後々思い出して、すごく嬉しかったです」
信号が赤に変わり、車が止まった。
「菜那」
何度呼ばれても、とくんと心が喜んで反応する。振り向くと蒼司の左手が菜那の頬を包み込んだ。
「本当に俺と出会ってくれてありがとう」
「私もです。こんな私を見つけてくれてありがとうございました」
「菜那、あのさ――」
「……ぎゃぁ、おんぎゃぁ」
すぐに和香那を見ると両手をグーにして泣いている。
「あらら、起きちゃったんですね。すぐに抱っこしてあげたいけどあと少しで着くから、和香那、待っててね」
「和香那~、もう着くぞ~」
「それで、蒼司さん、話の続きはなんですか?」
首を傾げて蒼司を見るとくすくすと笑っている。和香那が産まれてからこうして会話が途切れることが多いけれどお互い全く気にしていない。現に今だって蒼司は嬉しそうに笑っている。
「話の続きはまた今度でいいです。さぁ病院に着きますね。和香那~もう着くから泣かなくていいんだよ~」
病院に着き、車を駐車場に停めると菜那も蒼司も急いで車から降りて後部座席のドアを開けた。するとさっきまで泣いていた和香那がまたすやすやと眠っている。菜那がつん、と頬を優しくつついてみるが起きる気配がない。
「ふふっ、さっきまで泣いてたのに寝ちゃいましたね。本当赤ちゃんって忙しいし、見てて飽きませんね」
「本当ですね。でもお義母さんのところに行きたいからかわいそうだけどクーファンに入ってもらおうか」
蒼司はそっと両手を伸ばし、和香那をチャイルドシートから持ち上げ、クーファンにそっと降ろした。この赤ちゃんを入れて持ち運べるカゴのクーファンは首の座っていない時期には大活躍しそうなベビー用品だ。寝心地もいいのか、移されたことに気が付いて居らす相変わらず可愛い寝顔ですやすやと眠っている。
「じゃあ、行きましょうか」
蒼司が大事な宝物をしっかりと持ち上げ、三人で菜那の母親が入院している病室に向かった。
「和香那、よく頑張りました」
「本当にうちの娘はいい子過ぎる」
身長や体重などを測るために一度脱がせた服を着せながら菜那は和香那に向けて笑顔を見せる。もちろんその隣には菜那以上にデレた顔の蒼司がいた。
娘の名前は宇賀谷和香那(うがやわかな)。蒼司が菜那のように優しい人になって欲しいからと那の字を取り、周りを和ませ、心が美しい子になって欲しいと願いを込めてつけた名前だ。
「今日の検診は終わりです。時に問題はなかったですね。また次の検診までに何かきになることがあったら遠慮なく受診してくださいね」
優しい産婦人科の先生の言葉に感謝しながら、三人は病院を出た。
和香那を新生児用のチャイルドシートにのせ、向かう先は菜那の母親が入院している癌センター。しばらく車を走らせているとさっきまで起きていた和香那はすやすやと夢の中ようだ。
「ふふっ、もう寝ちゃいました。早いですね」
「きっと検診で疲れたんですよ。でも、特に問題なくてよかった。それに菜那も、産後一か月経ったからって無茶しないこと。俺がいるんだから頼ってくださいね」
「わかってますよ。……ふふっ」
菜那は両手で口元を押さえながら蒼司を見る。
「なに? どうしました?」
バックミラーに不思議がる蒼司の顔が映っている。
「いえ、まだ蒼司さんに菜那って呼び捨てにされるのが慣れなくて。なんかくすぐったい気持ちになっちゃいます」
「実は俺もです……敬語でも話しちゃうし、癖ですね」
「でも和香那を産む時、私のこと菜那って呼んでくれてましたもんね。その時は痛すぎて考えてられなかったけど後々思い出して、すごく嬉しかったです」
信号が赤に変わり、車が止まった。
「菜那」
何度呼ばれても、とくんと心が喜んで反応する。振り向くと蒼司の左手が菜那の頬を包み込んだ。
「本当に俺と出会ってくれてありがとう」
「私もです。こんな私を見つけてくれてありがとうございました」
「菜那、あのさ――」
「……ぎゃぁ、おんぎゃぁ」
すぐに和香那を見ると両手をグーにして泣いている。
「あらら、起きちゃったんですね。すぐに抱っこしてあげたいけどあと少しで着くから、和香那、待っててね」
「和香那~、もう着くぞ~」
「それで、蒼司さん、話の続きはなんですか?」
首を傾げて蒼司を見るとくすくすと笑っている。和香那が産まれてからこうして会話が途切れることが多いけれどお互い全く気にしていない。現に今だって蒼司は嬉しそうに笑っている。
「話の続きはまた今度でいいです。さぁ病院に着きますね。和香那~もう着くから泣かなくていいんだよ~」
病院に着き、車を駐車場に停めると菜那も蒼司も急いで車から降りて後部座席のドアを開けた。するとさっきまで泣いていた和香那がまたすやすやと眠っている。菜那がつん、と頬を優しくつついてみるが起きる気配がない。
「ふふっ、さっきまで泣いてたのに寝ちゃいましたね。本当赤ちゃんって忙しいし、見てて飽きませんね」
「本当ですね。でもお義母さんのところに行きたいからかわいそうだけどクーファンに入ってもらおうか」
蒼司はそっと両手を伸ばし、和香那をチャイルドシートから持ち上げ、クーファンにそっと降ろした。この赤ちゃんを入れて持ち運べるカゴのクーファンは首の座っていない時期には大活躍しそうなベビー用品だ。寝心地もいいのか、移されたことに気が付いて居らす相変わらず可愛い寝顔ですやすやと眠っている。
「じゃあ、行きましょうか」
蒼司が大事な宝物をしっかりと持ち上げ、三人で菜那の母親が入院している病室に向かった。
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