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第八章・愛を感じる腕の中ーーー蒼司side
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煌びやかなシャンデリアの光が二色の大理石で施された幾何学パターンの床をキラキラと反射させている。モールディングを施した白い壁に大きなガラス窓で奥行きがあり、かつ解放感も感じられるロビーラウンジだ。
自身が手がけたホテルのラウンジにいる蒼司はノートパソコンを広げて、打ち合わせが終わったクライアントの要望をしっかりとまとめていた。
……全部の要望を入れるのは大変そうだな。
ミントグリーンのストライプデザインがお洒落なカップに口をつけ、ブラックコーヒーを一口飲む。
このホテルのオーナーの息子夫婦がマイホームを建てたいとのことで設計を頼まれたのだ。蒼司は大学を卒業し、大手の建築事務所に就職したがそこの会社でもビルなどの大きな建築物を作る会社だったので個人の家の設計は大学の課題くらいでしか設計したことがない。会社を辞め、独立したのは会社の規則に縛られた設計をすることに嫌気がさしてしまったからだ。自分のもっている力や感性、すべてを出し切った建築物を世に送り出したい、その思いから独立して立ち上げたUGY設計事務所。過去の実績やコンテスト受賞歴のおかげで独立後の出だしは好調、ついに大きなホテルまで手掛けることが出来た。
早く帰って作業に取り掛かろう。
立ち上がり、コートを羽織ってホテルの外に出ると木枯らしが吹いていた。タクシーを拾い、寄り道をせずに我が家へ向かう。その道中でスマホにメッセージが届いた。
『今日の夕飯はシチューです』の一文とともにお疲れ様ですと可愛いうさぎのキャラクターのスタンプが送られてきた。思わず頬が緩む。
マンションにつき、蒼司は速足で部屋まで向かった。
「菜那さん、ただいま」
「蒼司さんっ、お帰りなさい」
菜那は大きなお腹を抱えて玄関まで迎えに来てくれた。菜那と一緒にふわふわとシチューのいい匂いが漂ってくる。
「お疲れ様です。寒かったですよね、ちょうどシチューが出来上がったところです。食べましょう!」
リビングに入り、菜那のよそったシチューをダイニングに並べた。一緒に向かい合って食べる料理は最高に美味しい。
「菜那さんの作る料理は全部俺好みの味なんですよねぇ」
スプーンを持った蒼司はしみじみと呟いた。
「ふふっ、それ、出会った頃も言ってましたね」
「あの時は仕事だったからこうして向き合って食べれなかったけどね」
「そうでした。一緒に食べれるって幸せですね」
一言、一言が素直で可愛い。出会った時からずっと変わらない、菜那の素直なところが蒼司の心を癒してくれる。
「俺が洗うから、菜那さんは座ってて」
ワイシャツを捲り、蒼司はスポンジを握った。
「いつもありがとうございます」
ソファーに座った菜那をキッチン越しに見る。
菜那は小柄だからか外に出ると出先の先々で「双子ですか?」と言われるくらいお腹が大きい。食器を洗うにも、風呂を洗うにもとにかく大変なのは父親学級に参加した時、擬似妊婦体験をしたので実感済みだ。家事が苦手な蒼司も菜那のため、子供のためと思えば率先して家事をしたくなる。
「蒼司さん、先にお風呂どうぞ」
シンクに立っていた蒼司の横に菜那はちょこんと立った。食器を洗い終えた蒼司は濡れた手を拭き、ぽんっと菜那の頭に触れる。
「先に菜那さんが入ってください。俺はまだ仕事が残ってるから」
「そうなんですか。大変そうですね……じゃあ先に入っちゃいます」
「ゆっくり身体を温めておいで」
こくんと頷いた菜那はお風呂場に向かった。後ろ姿も妊娠前にくらべるとかなり丸みを帯びている。でも、その姿も全て愛おしい。出会った時から気持ちは一ミリたりとも減ったことはない。むしろ日々愛しさが増すばかりだ。
「さてと。早く仕事を終わらせないとな」
菜那と同じ時間に布団に入って眠りたい。
蒼司はソファーに座りパソコンを開いた。
自身が手がけたホテルのラウンジにいる蒼司はノートパソコンを広げて、打ち合わせが終わったクライアントの要望をしっかりとまとめていた。
……全部の要望を入れるのは大変そうだな。
ミントグリーンのストライプデザインがお洒落なカップに口をつけ、ブラックコーヒーを一口飲む。
このホテルのオーナーの息子夫婦がマイホームを建てたいとのことで設計を頼まれたのだ。蒼司は大学を卒業し、大手の建築事務所に就職したがそこの会社でもビルなどの大きな建築物を作る会社だったので個人の家の設計は大学の課題くらいでしか設計したことがない。会社を辞め、独立したのは会社の規則に縛られた設計をすることに嫌気がさしてしまったからだ。自分のもっている力や感性、すべてを出し切った建築物を世に送り出したい、その思いから独立して立ち上げたUGY設計事務所。過去の実績やコンテスト受賞歴のおかげで独立後の出だしは好調、ついに大きなホテルまで手掛けることが出来た。
早く帰って作業に取り掛かろう。
立ち上がり、コートを羽織ってホテルの外に出ると木枯らしが吹いていた。タクシーを拾い、寄り道をせずに我が家へ向かう。その道中でスマホにメッセージが届いた。
『今日の夕飯はシチューです』の一文とともにお疲れ様ですと可愛いうさぎのキャラクターのスタンプが送られてきた。思わず頬が緩む。
マンションにつき、蒼司は速足で部屋まで向かった。
「菜那さん、ただいま」
「蒼司さんっ、お帰りなさい」
菜那は大きなお腹を抱えて玄関まで迎えに来てくれた。菜那と一緒にふわふわとシチューのいい匂いが漂ってくる。
「お疲れ様です。寒かったですよね、ちょうどシチューが出来上がったところです。食べましょう!」
リビングに入り、菜那のよそったシチューをダイニングに並べた。一緒に向かい合って食べる料理は最高に美味しい。
「菜那さんの作る料理は全部俺好みの味なんですよねぇ」
スプーンを持った蒼司はしみじみと呟いた。
「ふふっ、それ、出会った頃も言ってましたね」
「あの時は仕事だったからこうして向き合って食べれなかったけどね」
「そうでした。一緒に食べれるって幸せですね」
一言、一言が素直で可愛い。出会った時からずっと変わらない、菜那の素直なところが蒼司の心を癒してくれる。
「俺が洗うから、菜那さんは座ってて」
ワイシャツを捲り、蒼司はスポンジを握った。
「いつもありがとうございます」
ソファーに座った菜那をキッチン越しに見る。
菜那は小柄だからか外に出ると出先の先々で「双子ですか?」と言われるくらいお腹が大きい。食器を洗うにも、風呂を洗うにもとにかく大変なのは父親学級に参加した時、擬似妊婦体験をしたので実感済みだ。家事が苦手な蒼司も菜那のため、子供のためと思えば率先して家事をしたくなる。
「蒼司さん、先にお風呂どうぞ」
シンクに立っていた蒼司の横に菜那はちょこんと立った。食器を洗い終えた蒼司は濡れた手を拭き、ぽんっと菜那の頭に触れる。
「先に菜那さんが入ってください。俺はまだ仕事が残ってるから」
「そうなんですか。大変そうですね……じゃあ先に入っちゃいます」
「ゆっくり身体を温めておいで」
こくんと頷いた菜那はお風呂場に向かった。後ろ姿も妊娠前にくらべるとかなり丸みを帯びている。でも、その姿も全て愛おしい。出会った時から気持ちは一ミリたりとも減ったことはない。むしろ日々愛しさが増すばかりだ。
「さてと。早く仕事を終わらせないとな」
菜那と同じ時間に布団に入って眠りたい。
蒼司はソファーに座りパソコンを開いた。
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