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第六章・嫌な過去と誰にも負けないこの気持ち
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朝、シャッと勢いよくリビングの遮光カーテンを開くとまだ朝の八時だというのに陽はじりじりと照りつけていた。
「いい天気でよかった」
菜那は少しだけ膨れたお腹をそっと触る。あっという間に冬から夏に季節は変わり、菜那も安定期を迎えていた。
悪阻なんかに負けないぞ、と思っていても、思ったように料理が出来なかったり、家事が出来なかったりと悪阻には相当悩まされた。何度も自分の不甲斐なさに涙を流したがその度に蒼司の優しさに包み込まれた。
悪阻が終わった今も蒼司は相変わらず優しく、菜那を労り、家事も料理も積極的に手伝ってくれている。感謝しきれないほどの毎日だ。
ピーピーと予約してあった炊飯器の音が鳴った。
「さぁ、朝ごはんの準備をしようかな」
炊飯器の蓋を開けても匂いに負けることはもうない。しゃもじで炊きあがったお米をかき混ぜることもちゃんとできる。妊娠初期の悪阻が辛かった時期の何も出来ない自分が嘘のようだ。
出会った時から自分のことを支えてくれた大切な人との間にできた愛おしい赤ちゃん。
「早く会いたいなぁ」
ふふっと微笑みながら菜那は蒼司の好きな塩鮭を焼く。ネギと豆腐の味噌汁を用意していると蒼司が起きたようで寝室から目をこすりながら起きてきた。
「あ、蒼司さんおはようございます」
「菜那さんおはようございます。お味噌汁のいい匂いだ」
キッチンに立つ菜那の背後に回った蒼司はそっと後ろから菜那を抱きしめる。
「体調はどう? 大丈夫ですか?」
蒼司の手がそっとお腹に触れた。
「本当にもう大丈夫ですよ」
お腹に触れている蒼司の手の上に菜那もそっと手を重ねる。
「そうだったね。つい毎日聞いてしまって。でもよかった、今日のパーティーに菜那さんも参加出来そうですね」
「はい、凄く楽しみにしていました。蒼司さんの手がけたホテルのオープニングパーティーですもん、絶対に参加したいです」
「俺もです。今夜はホテルの部屋を取ってあるのでゆっくりしましょうね」
ぱぁっと目を大きく見開き、菜那は顔を上げて蒼司を見上げた。
「ええっ、そうなんですか? それは凄く楽しみです!」
「ははっ、だって菜那さんと約束したんですから当たり前ですよ。完成したら菜那さんを招待するって」
「あっ……」
まだ蒼司と出会ってすぐのころ、蒼司の手がけたホテルの設計図を見た時に話したことを覚えていてくれたなんて。
嬉しくて、くるりと蒼司の腕の中で回り、ぎゅっと抱きついた。
「蒼司さん、いつもありがとうございます」
「菜那さん……俺の方こそ、身体が辛いのに毎日家の事をしてくれてありがとうございます」
磁石が引き合うように自然と唇が重なる。唇の柔らかさに酔いしれているとぐぅ~とお腹の音が聞こえた。
「……あ、聞こえちゃいましたか?」
「聞こえました。菜那さんのお腹の音はもう何度も聞いていますからすぐに分かりますよ」
「なんか私食いしん坊みたいじゃないですか……。でもお腹すきました。朝ごはん食べましょう!」
ダイニングテーブルに朝食を並べ蒼司と向かい合って手を合わせた。
食べ終えたお皿を蒼司が洗い、菜那は先にドレスに着替える。初めて蒼司に買ってもらったピンク色のドレスはお腹が少し膨れているのでもう入らない。蒼司が菜那の為に新しく用意してくれたドレスはマタニティ用の締めつけ感が少ないもの。ライトグリーンのドレスはデコルテと袖の花柄レースになっており、菜那の好きなデザインだ。鏡に映るドレスに身を包んだ自分の姿に思わず笑みがこぼれた。
「菜那さん、準備はどうですか?」
扉越しに蒼司の声が聞こえ、振り返る。
「準備できました……ッッ」
扉を開けて目に飛び込んできた蒼司はスーツ姿だ。ネイビーの三つ揃いのスーツを着こなした蒼司はいつもカッコいいけれど大人の色気が追加され、ますますカッコいい。思わず息が止まるほど。
「菜那さん、とてもよくお似合いです。凄く綺麗だ」
「蒼司さん、も、カッコいいです」
「ふふっ、ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」
「はいっ」
差し出された手にそっと手を乗せ、部屋を出た。
「いい天気でよかった」
菜那は少しだけ膨れたお腹をそっと触る。あっという間に冬から夏に季節は変わり、菜那も安定期を迎えていた。
悪阻なんかに負けないぞ、と思っていても、思ったように料理が出来なかったり、家事が出来なかったりと悪阻には相当悩まされた。何度も自分の不甲斐なさに涙を流したがその度に蒼司の優しさに包み込まれた。
悪阻が終わった今も蒼司は相変わらず優しく、菜那を労り、家事も料理も積極的に手伝ってくれている。感謝しきれないほどの毎日だ。
ピーピーと予約してあった炊飯器の音が鳴った。
「さぁ、朝ごはんの準備をしようかな」
炊飯器の蓋を開けても匂いに負けることはもうない。しゃもじで炊きあがったお米をかき混ぜることもちゃんとできる。妊娠初期の悪阻が辛かった時期の何も出来ない自分が嘘のようだ。
出会った時から自分のことを支えてくれた大切な人との間にできた愛おしい赤ちゃん。
「早く会いたいなぁ」
ふふっと微笑みながら菜那は蒼司の好きな塩鮭を焼く。ネギと豆腐の味噌汁を用意していると蒼司が起きたようで寝室から目をこすりながら起きてきた。
「あ、蒼司さんおはようございます」
「菜那さんおはようございます。お味噌汁のいい匂いだ」
キッチンに立つ菜那の背後に回った蒼司はそっと後ろから菜那を抱きしめる。
「体調はどう? 大丈夫ですか?」
蒼司の手がそっとお腹に触れた。
「本当にもう大丈夫ですよ」
お腹に触れている蒼司の手の上に菜那もそっと手を重ねる。
「そうだったね。つい毎日聞いてしまって。でもよかった、今日のパーティーに菜那さんも参加出来そうですね」
「はい、凄く楽しみにしていました。蒼司さんの手がけたホテルのオープニングパーティーですもん、絶対に参加したいです」
「俺もです。今夜はホテルの部屋を取ってあるのでゆっくりしましょうね」
ぱぁっと目を大きく見開き、菜那は顔を上げて蒼司を見上げた。
「ええっ、そうなんですか? それは凄く楽しみです!」
「ははっ、だって菜那さんと約束したんですから当たり前ですよ。完成したら菜那さんを招待するって」
「あっ……」
まだ蒼司と出会ってすぐのころ、蒼司の手がけたホテルの設計図を見た時に話したことを覚えていてくれたなんて。
嬉しくて、くるりと蒼司の腕の中で回り、ぎゅっと抱きついた。
「蒼司さん、いつもありがとうございます」
「菜那さん……俺の方こそ、身体が辛いのに毎日家の事をしてくれてありがとうございます」
磁石が引き合うように自然と唇が重なる。唇の柔らかさに酔いしれているとぐぅ~とお腹の音が聞こえた。
「……あ、聞こえちゃいましたか?」
「聞こえました。菜那さんのお腹の音はもう何度も聞いていますからすぐに分かりますよ」
「なんか私食いしん坊みたいじゃないですか……。でもお腹すきました。朝ごはん食べましょう!」
ダイニングテーブルに朝食を並べ蒼司と向かい合って手を合わせた。
食べ終えたお皿を蒼司が洗い、菜那は先にドレスに着替える。初めて蒼司に買ってもらったピンク色のドレスはお腹が少し膨れているのでもう入らない。蒼司が菜那の為に新しく用意してくれたドレスはマタニティ用の締めつけ感が少ないもの。ライトグリーンのドレスはデコルテと袖の花柄レースになっており、菜那の好きなデザインだ。鏡に映るドレスに身を包んだ自分の姿に思わず笑みがこぼれた。
「菜那さん、準備はどうですか?」
扉越しに蒼司の声が聞こえ、振り返る。
「準備できました……ッッ」
扉を開けて目に飛び込んできた蒼司はスーツ姿だ。ネイビーの三つ揃いのスーツを着こなした蒼司はいつもカッコいいけれど大人の色気が追加され、ますますカッコいい。思わず息が止まるほど。
「菜那さん、とてもよくお似合いです。凄く綺麗だ」
「蒼司さん、も、カッコいいです」
「ふふっ、ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」
「はいっ」
差し出された手にそっと手を乗せ、部屋を出た。
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