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第五章・宿った大切な命
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たくさんの洗濯物が入った鞄を持って菜那は癌センタ―に来ている。仕事を辞めて二か月、つまり蒼司と結婚して二か月が経っていた。
毎日が溶けてしまいそうになるほどの蒼司からの甘い言葉に酔いしれながらも、菜那は現実と戦っている。ハローワークに通うがなかなか自分に合った職業が見つからず、その足で母の入院している病室へと足を運んでいた。
「お母さん、体調はどう?」
「全然大丈夫よ。菜那こそ、新婚なのにこんな毎日のように病院に来ちゃって。わたしなら大丈夫だから蒼司さんに尽くしなさいよ。昨日だって蒼司さんが立派な花を持ってきてきれたんだから。あんな素敵は人、滅多にいないよ」
「本当だよね。私にはもったいないくらい……。花の水、換えてくるね!」
窓の近くの棚に飾ってあった花は蒼司が母親にプレゼントしたものだ。昨日の午後から、打ち合わせで外にでた蒼司は黄色のガーベラがたくさん入った花束を持ってお見舞いに来てくれていたらしい。昨日の夜、夕飯を一緒に食べながら蒼司に聞いて驚いた。何度か蒼司は菜那に何も言わず、母親のお見舞いに行っていることがある。自分の知らないところで母親を大事にしてもらえていることがどんなに嬉しいことか。本当にこんなに優しくて完璧な人がどうして取柄もなにもない自分を好きになってくれたのか未だに分からないし、結婚したという実感もまだ夢の中にいるようだ。
「本当に立派なお花だよね」
たくさんの花が飾られた花瓶を持とうと近づいた瞬間、花の甘い香りがやけに強く感じ、吐き気を催した。
「っう……!」
胃の中のものが競りあがってくる感覚に驚いて、咄嗟に洗面所に顔を伏せた。
「菜那? 大丈夫?」
心配そうな母親の声が聞こえ、菜那は口元をぬぐって笑顔を見せる。
「ははっ、大丈夫。なんか花粉の匂いが強すぎたのかな? こんなたくさんの花の匂いなんて滅多に嗅がないから」
「菜那……もしかして……」
「ん? 何?」
「ううん、なんでもないわ。体調に気をつけなさいよ」
「分かってるって。じゃあ花瓶の水換えるね」
やっぱり匂いがきつく感じるけれど、グッと息を止めて新しい水に入れ替えた。
こんなに花の匂いダメだったっけ? なんかすごく気持ち悪い……。
花から遠ざかっても胃のムカムカした感じが治まらない。なんだか立ち眩みのような感覚を感じてきた菜那は無理矢理笑顔を作った。
「お母さん、今日は用事があるからもう帰るね。また来るから」
「そんな頻繁に来なくて本当にいいから。菜那、自分の身体を一番大事にしなさい」
「うん、わかってるよ。じゃあ帰るね」
菜那は鞄を持ち、少し急ぎ足で病院を出た。
「う~なんでこんなに気持ち悪いんだろ……」
大きな溜息が出たと同時にふと頭に一つの可能性が浮かんだ。
……あれ、もしかして。
急な吐き気に、貧血のような症状。一つ、思い当たる節がある。でも、まさか……、そう思いつつ菜那の足取りは軽くなり、ドラッグストアに向かって軽快に歩き出した。
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「本当だよね。私にはもったいないくらい……。花の水、換えてくるね!」
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「本当に立派なお花だよね」
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「っう……!」
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「菜那? 大丈夫?」
心配そうな母親の声が聞こえ、菜那は口元をぬぐって笑顔を見せる。
「ははっ、大丈夫。なんか花粉の匂いが強すぎたのかな? こんなたくさんの花の匂いなんて滅多に嗅がないから」
「菜那……もしかして……」
「ん? 何?」
「ううん、なんでもないわ。体調に気をつけなさいよ」
「分かってるって。じゃあ花瓶の水換えるね」
やっぱり匂いがきつく感じるけれど、グッと息を止めて新しい水に入れ替えた。
こんなに花の匂いダメだったっけ? なんかすごく気持ち悪い……。
花から遠ざかっても胃のムカムカした感じが治まらない。なんだか立ち眩みのような感覚を感じてきた菜那は無理矢理笑顔を作った。
「お母さん、今日は用事があるからもう帰るね。また来るから」
「そんな頻繁に来なくて本当にいいから。菜那、自分の身体を一番大事にしなさい」
「うん、わかってるよ。じゃあ帰るね」
菜那は鞄を持ち、少し急ぎ足で病院を出た。
「う~なんでこんなに気持ち悪いんだろ……」
大きな溜息が出たと同時にふと頭に一つの可能性が浮かんだ。
……あれ、もしかして。
急な吐き気に、貧血のような症状。一つ、思い当たる節がある。でも、まさか……、そう思いつつ菜那の足取りは軽くなり、ドラッグストアに向かって軽快に歩き出した。
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