エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

森本イチカ

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 肌寒さを感じ、深い眠りからだんだんと意識が戻ってくる。
 あぁ、そうだ……昨日ベッドに入って……。
 ハッと目が覚め、瞳をパチッと開く。隣には蒼司がまだ眠っていた。お互い裸で寝てしまったので肌と肌が触れていない場所がひんやりと冷たい。
 風邪ひいちゃうかも。
 布団を綺麗に蒼司に掛けなおす。起こさないようにベッドから出て、服を着ようと足を動かした瞬間、パシッと腕を取られた。
「どこに行くんですか?」
 寝起きの蒼司が少し眩しそうに目を細めて菜那を見る。
「どこも行きませんよ。寒いので服を着ようと……」
「もう少し、一緒にいましょう。菜那さんの身体温かくて気持ちいいんですよね」
 蒼司の両手が菜那の腰を捉え、また元の場所に寝転んだ。
「ふふっ、二度寝なんて贅沢ですねぇ」
 蒼司の腕の中に包まれて、頬が緩む。
「そうだ。菜那さん、今夜は外食でもいいですか? 菜那さんと一緒に行きたいお店があるんです」
「外食ですか? 私は大丈夫ですよ。どこのお店ですか?」
「行ってからのお楽しみですよ」
「気になりますね」
 くすっと笑いながら、キスで誤魔化された。
 蒼司は仕事、菜那は家事をしながら一日が過ぎた。そして夕方になり、蒼司に引き連れられ菜那は高級ホテルのラウンジに来ていた。
「あ、あの、私こんな普通の格好なんですけど、もしかして外食ってここですか?」
 蒼司の服の袖を掴み、菜那は気まずそうに肩をすぼめる。蒼司もスーツではなく、カジュアルなジャケット姿だったので完全に安心しきっていた。
「はい。でも、大丈夫ですよ。ちゃんと菜那さんのドレスを用意してありますから」
「ええ!? ドレス!?」
「はい。俺が菜那さんに似合うと思ったものを勝手ながら用意させてもらいました」
 嬉しそうにニコッと笑う蒼司を見て、菜那は開いた口が塞がらない。
 蒼司にエスコートされながらエレベーターに乗る。ぐいぐいと昇っていき、着いたのは最上階だ。まさか……と思った予想は見事的中した。スイートルームの扉を慣れた手つきで蒼司は開ける。
「菜那さん、どうぞ」
「お、お邪魔します」
 中に入ると見たこともない景色が広がっていた。
「うわぁ……」
 想像を絶するラグジュアリーな空間に思わず身体が固まってしまった。そして目の前には真っ赤なドレスがある。
「これ、菜那さんに似合うと思って。着てみてください」
 蒼司はドレスを手に取り、立ち固まっている菜那の身体にあてた。
「うん、やっぱり赤も似合う」
「あ……えっと、こんな素敵なドレス、いいんですか?」
「菜那さんの為に用意したんです。アクセサリー類も用意してありますから、こちらの部屋で着替えてください」
 蒼司に流されるまま、ベッドルームで着替え、髪も自分で軽く整えた。用意されていたアクセサリーが菜那の簡単なヘアアレンジでも華やかにしてくれる。
 これで、大丈夫かな?
 用意された物を全て身に着けた菜那はベッドルームを出た。
「あの、蒼司さん――っ」
 扉を開けるとダークブルーのスーツを着た蒼司が立っている。余りの格好良さに思わず言葉が止まってしまった。着替えを終えた菜那にすぐに気が付いた蒼司が近づいて来る。そしてピタリと目の前に止まった。
「菜那さん、とてもお似合いです。凄く綺麗だ」
 瞳を細ませ、蒼司がうっとりとした表情で菜那を見る。
「この白い肌には何色でも似合ってしまいますね。今度はブルーのドレスもいいかもしれないな」
「なっ……本当に褒めすぎですっ。このドレスがとても素敵なのでそう見えるだけですよ」
「着ている人が素敵な人ほど、服が輝いて見えるものです。では、行きましょうか」
 すっと手をさしだされ、おずおずとその手に自分の手を重ねる。柔らかに握り取られ、スイートルームを出た。
「え、どういうことですか?」
 てっきりレストランに行くのかと思いきや、蒼司は何故か隣の部屋の扉の前で立ち止まった。
「ここですよ。さぁ入りましょう」
「へっ!?」
 ピッとカードキーで開けられた扉に訳も分からないまま蒼司にエスコートされ、流される。すると、目の前に飛び込んできた光景に思わず息を呑んだ。
「なに、これ……」
 あたり一面柔らかなキャンドルの灯。まるでどこか別世界へ来たかのような幻想的な空間の奥には大きな窓ガラスから見える夜景が映し出されている。驚きで声も出ない菜那の手を引きながら蒼司は中へ中へとゆっくり歩き進めた。
「わ……」
 メインルームに用意されている豪華な食事と、バラの花束のようなケーキが目に入った。
「えっ……あの、これって……」
 どういうことですか? と聞こうと思った途中で鈍感な菜那でも「もしかして」と気が付いた。
「菜那さん」
 落ち着いた声で名前を呼ばれ、蒼司としっかり目が合う。この吸い込まれてしまいそうな真剣な瞳は見たことがある。
「もういくら鈍感な菜那さんでも気が付いたと思いますけど……」
 そう言いながら蒼司は菜那の目の前で片膝を床に着け、ポケットから小さな箱を取り出した。
「っ……!」
 ドラマでしか見たことない光景に目を大きく見開き、驚きを隠せずにいる。それでも蒼司は菜那を見つめ続け、ぱかっと小さな箱が開けられた。今日の星空のようにキラキラ光る大粒のダイヤモンドの存在感が凄く、驚きの余りパチクリと何度も見直してしまった。
「菜那さん、俺と結婚してください」
「っ……」
 既に一度聞いたはずの言葉なのに、真新しさを感じた。言葉が身体中を駆け巡り、嬉しさと感動で瞳が潤いだす。
「これは、プロポーズですよね?」
「そうですよ。ちゃんとロマンチックなプロポーズを菜那さんにしたかったっていう俺の自己満足なんですけどね。俺と結婚してくれますか?」
 ははっと少し照れたように笑った蒼司に胸を打れた。
 どうしようもなく、蒼司さんの事が愛おしい。
 菜那も蒼司に勢いよく抱きついた。
「えっ? 菜那さん?」
 自分から抱きつく事を恥ずかしがり、滅多にしないからか、蒼司が驚いていることが声で分かる。
「よろこんでお受けしますっ」
「よかった……」
 蒼司がホッとしたように呟き、ゆっくりと身体が離れる。立ち上がった蒼司に左手を取られ、菜那は指を伸ばした。緊張で少し指先が震えているのがバレていないだろうか。
 あ……。
 少しヒヤッと左手の薬指に感じ、キラリ輝く指輪がはめられた。左手を裏返しながら何度も指輪の存在を目でしっかりと確認する。自分の指にはめられた指輪を見て更に実感が湧いた。自分は結婚したのだと。とても優しく、いつもその包容力に助けられてきた。尊敬もしていて大好きな人との結婚……。
 潤んでいた瞳からツーっと涙がこぼれた。
「一生、大事にする」
「私も、一生大事にします」
 重なるのが当たり前のように、身体が引き合い唇が重なる。何度も何度も、お互いにドレスがくしゃくしゃになるのを気にせず力いっぱい抱き合い、今の思いを全て乗せたキスを繰り返した。
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