エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

第四章・甘い新婚生活

　菜那は少し口籠らせながら恥ずかしそうに言った。
「私、その、宇賀谷様と結婚することになりました」
「ええ！？」
　カジハンドの事務所に大きな声が響いた。驚く沙幸に対して社長は「ついにね！」と喜んであまり驚いてはいないよう。
　昨日、善は急げと蒼司が言い出した。夜遅くに婚姻届けをダウンロードし、役所に出しに行ったのだ。嵐のようにあっという間に展開が進んで行き、自分にこんなにも行動力があったことに驚いている。今日も日中は引っ越し作業に勤しんできたところだ。
　 カジハンドの社長と沙幸に結婚の報告をすると、二人とも両手を盛大に叩いて喜んでくれた。
「よかったじゃないの！　でもまぁ私はそうなるんじゃないかって思ってたんだけどね」
　社長はニヤニヤしながら菜那を肘でつついた。
「そうなんですか！？」
「だって宇賀谷様、最初に予約してきたとき私に言ったのよ。堀川さんの事が気になっていて少しでも近づきたいって、変なことはしませんって名刺を持って頭下げに来たの。本当だったらそんな変な人お断りなんだけど、あまりにも真剣な目だったから。泣いてた貴女を守りたいって、私の男を見る目は正しかったってわけだ」
「知りませんでした……そうだったんですね」
　蒼司の気づかいになんだか彼らしいと思わず笑ってしまった。
「菜那ちゃんも寿退社だから安心だね！　私は社長の紹介で違う家事代行業者を紹介してもらったけど、菜那ちゃんは次の就職先は決めてないんでしょう？」
　沙幸は嬉しそうに目を細めて笑っている。
「はい。何か違うことに挑戦するのもありなのかなって思って。でも私この仕事以外したことないから何が出来るかは分からないんですけどね」
「菜那ちゃんなら何でもできるようになるわよ。応援してる」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行こうか。今日は皆でお別れ会に菜那ちゃんのお祝い会にもなったわね！　お店に着いたら他の皆にも発表しなきゃね！」
　沙幸がバンっと菜那の腰を叩き三人で笑った。
　この会社で、カジハンドで働けて良かった。きっとここで学んだことはいつか自分の強みになってくれるだろう。二人の弾けるような笑顔を見て菜那はそう思った。