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まるでイルミネーションのように色とりどりの、キラキラ輝いているドレスがずらりと横に並んでいる。自分には不釣り合いな場所だと思いながらも、美しいドレスに菜那は視線を奪われていた。
「凄い……どれも可愛くて私には似合わなそう。でも可愛いなぁ」
ドレスショップに来たことがなかった菜那はドレス以上に瞳をキラキラさせている。蒼司に頼まれたパーティーに参加するためにドレスを持っていない菜那は蒼司に連れられ、ここに来た。
「菜那さんの好きなものを選んでください」
菜那の隣に立った蒼司はグリーンのカクテルドレスを手に取り、そっと菜那に合わせた。全身鏡に菜那と蒼司が映る。ダークネイビーの三揃いスーツ姿の蒼司は格好良さと色気が混ざりあい、見ているだけでもアルコールを飲んだかのようにクラクラしそうになるほど。鏡に映る菜那は頬を紅色に染めているのに蒼司は余裕そうだ。
「菜那さん、グリーンも似合いますね」
「あ、ありがとうございます。でも、本当にいのでしょうか? 買ってもらってしまって」
「いいんです。俺が無理に頼んだんだからそのくらいさせてください。パーティーが始まる夕方までまだ時間があるからゆっくり選びましょう」
「……ありがとうございます」
グリーンのドレスを元の場所に戻した蒼司は優しく微笑んだ。切れ長の瞳が柔らかく細まるその瞬間は菜那の心がぽわんと温かくなる時でもある。
わ……これ可愛い。
淡いピンクのフラワーレースが印象的なシンプルなドレスはデコルテが透け感のあるシアーレースで露出しすぎていない。フェミニンかつ、上品だ。
このドレスが着てみたいかも……。
思わず手が伸びた。そっと淡いピンクのドレスを手に取る。膝丈までのスカートも全てフラワーレースが施されていた。
「このドレスがお気に召しましたか?」
ふわっと爽やかな香りが鼻腔を擽る。菜那の肩から覗き込むようにして顔を出した蒼司の香りだ。
ち、近いっ……。
いつも思うが蒼司の距離感はやたら近いと感じる。本人は全く気にしている様子はないので、元から距離感が近い人なのだろうか。でも、緊張するだけで、近い事が嫌なわけではない。爽やかな香りも、菜那の好みだ。
「は、はい。可愛いなぁって。でも、似合うかどうかは別なんですけどね」
蒼司は菜那からドレスを優しく取り、菜那の身体に合わせた。
「うん。とても似合いますよ。ピンクも肌の白い菜那さんによく似合いますね」
話すたびに蒼司の吐息が菜那の耳朶を熱くする。まるで後ろから抱きしめられているような態勢に緊張で肩に力が入った。
「着てみてください」
コクリと頷くと、ガチガチに固まった肩を抱かれ、試着室まで誘導された。
女性スタッフの手を借りてドレスに着替える。全身鏡に映った自分を見て思わず息を呑んだ。着ているのもが違うだけでまるで別人のように感じるなんて。初めての感覚に高揚感はあるものの、やはり似合っているのかどうかは不安だ。女性スタッフはお似合いですよと褒めてくれるがそれを真に受けるほど子供ではない。お世辞とはわかっている。
でも、少しはましになって宇賀谷様の隣にいてもセーフ、なのかな……?
「菜那さん、どうですか?」
コンコンと試着室のドアが鳴り、蒼司の声が聞こえた。
「あ、今行きます」
ドクドクと心臓が動き出す。蒼司はなんて言うだろう。似合わない、とは蒼司の性格から言うはずがないと思うけれど、やっぱり不安だ。
意を決してドアを開けるとすぐに蒼司と目が合った。蒼司の瞳が一瞬、大きく見開き、視線が頭の先からつま先まで動く。そしてピタリと止まった。
や、やっぱり変だったのかも……言葉が出ないほど似合わないんだ……。
恥ずかしさで、菜那はドレスの裾をきゅっと両手でつかんだ。
「あ、あのやっぱり着替えて来ますっ!」
「ちょっと待って」
蒼司は力の入っていた菜那の腕を解くように掴み、引き寄せた。
「えっ……」
「凄く似合ってます。綺麗すぎてすぐに言葉が出てこなかったんです」
頭を掻き抱かれ、小柄な菜那はすっぽりと蒼司の中に包み込まれる。
「綺麗すぎて、誰にも見せたくないな」
全身の血液が沸騰したかのように湧き上がり、身体が熱くて溶け出してしまいそうだ。
「そ、そんな。褒めすぎ、ですよ」
喉までも熱くて、言葉を出すのが精一杯だ。とてもじゃないけれど、蒼司の身体を押し返す力も出ない。
「本当のことですから。今すぐに押し倒して抱きたいくらいだ」
「へ……?」
「なんてね」
冗談っぽい声で上品に笑っている。すっと離れた身体は菜那の身体に引かない熱を残していった。
「そうだ。今日のパーティーのことなんですけど、一つ菜那さんにお願いがあるんです」
「お願いですか? なんでしょう?」
「俺の恋人役をお願いしたいんです」
蒼司の言葉に菜那は目を大きく見開いてぱっくり開いた口元を両手で隠した。
「こ、恋人の役、ですか……?」
「そう。菜那さんにしか頼めないんです」
「そんな……恋人のふりなんて、それはさすがにできませんっ」
「そう言われるかなと思ってなかなか言い出せなかったんです。やっぱりダメ、ですかね?」
蒼司の困った表情に断ることができる……わけない。
「その、今日のパーティーはいったいどんなパーティーなんですか? 私詳しいことも聞かずに受けちゃいましたが、恋人役ってのは……?」
「今日のパーティーは父親の会社の創立記念パーティーなんです。行くつもりはなかったんですけど、恋人を連れてこないとお見合いさせるって言われてしまって。でも俺には心に決めた人がいて、その人と結婚したいと思っているんです」
電話の時に話していたことをすぐに思い出した。
やはり蒼司には好きな人がいるのだ。その人と結婚するための手助けを自分がする、ということだろうか。何度も助けてくれた蒼司の役に立てるのなら……。
「分かりました。恋人のふりをすればいいんですね」
偽の恋人役くらいどうってことない。蒼司が幸せになるための手助けになるのなら。
そう思っているはずなのに、熱くなっていた身体はまるで雨にうたれたように冷たくなっていた。
「凄い……どれも可愛くて私には似合わなそう。でも可愛いなぁ」
ドレスショップに来たことがなかった菜那はドレス以上に瞳をキラキラさせている。蒼司に頼まれたパーティーに参加するためにドレスを持っていない菜那は蒼司に連れられ、ここに来た。
「菜那さんの好きなものを選んでください」
菜那の隣に立った蒼司はグリーンのカクテルドレスを手に取り、そっと菜那に合わせた。全身鏡に菜那と蒼司が映る。ダークネイビーの三揃いスーツ姿の蒼司は格好良さと色気が混ざりあい、見ているだけでもアルコールを飲んだかのようにクラクラしそうになるほど。鏡に映る菜那は頬を紅色に染めているのに蒼司は余裕そうだ。
「菜那さん、グリーンも似合いますね」
「あ、ありがとうございます。でも、本当にいのでしょうか? 買ってもらってしまって」
「いいんです。俺が無理に頼んだんだからそのくらいさせてください。パーティーが始まる夕方までまだ時間があるからゆっくり選びましょう」
「……ありがとうございます」
グリーンのドレスを元の場所に戻した蒼司は優しく微笑んだ。切れ長の瞳が柔らかく細まるその瞬間は菜那の心がぽわんと温かくなる時でもある。
わ……これ可愛い。
淡いピンクのフラワーレースが印象的なシンプルなドレスはデコルテが透け感のあるシアーレースで露出しすぎていない。フェミニンかつ、上品だ。
このドレスが着てみたいかも……。
思わず手が伸びた。そっと淡いピンクのドレスを手に取る。膝丈までのスカートも全てフラワーレースが施されていた。
「このドレスがお気に召しましたか?」
ふわっと爽やかな香りが鼻腔を擽る。菜那の肩から覗き込むようにして顔を出した蒼司の香りだ。
ち、近いっ……。
いつも思うが蒼司の距離感はやたら近いと感じる。本人は全く気にしている様子はないので、元から距離感が近い人なのだろうか。でも、緊張するだけで、近い事が嫌なわけではない。爽やかな香りも、菜那の好みだ。
「は、はい。可愛いなぁって。でも、似合うかどうかは別なんですけどね」
蒼司は菜那からドレスを優しく取り、菜那の身体に合わせた。
「うん。とても似合いますよ。ピンクも肌の白い菜那さんによく似合いますね」
話すたびに蒼司の吐息が菜那の耳朶を熱くする。まるで後ろから抱きしめられているような態勢に緊張で肩に力が入った。
「着てみてください」
コクリと頷くと、ガチガチに固まった肩を抱かれ、試着室まで誘導された。
女性スタッフの手を借りてドレスに着替える。全身鏡に映った自分を見て思わず息を呑んだ。着ているのもが違うだけでまるで別人のように感じるなんて。初めての感覚に高揚感はあるものの、やはり似合っているのかどうかは不安だ。女性スタッフはお似合いですよと褒めてくれるがそれを真に受けるほど子供ではない。お世辞とはわかっている。
でも、少しはましになって宇賀谷様の隣にいてもセーフ、なのかな……?
「菜那さん、どうですか?」
コンコンと試着室のドアが鳴り、蒼司の声が聞こえた。
「あ、今行きます」
ドクドクと心臓が動き出す。蒼司はなんて言うだろう。似合わない、とは蒼司の性格から言うはずがないと思うけれど、やっぱり不安だ。
意を決してドアを開けるとすぐに蒼司と目が合った。蒼司の瞳が一瞬、大きく見開き、視線が頭の先からつま先まで動く。そしてピタリと止まった。
や、やっぱり変だったのかも……言葉が出ないほど似合わないんだ……。
恥ずかしさで、菜那はドレスの裾をきゅっと両手でつかんだ。
「あ、あのやっぱり着替えて来ますっ!」
「ちょっと待って」
蒼司は力の入っていた菜那の腕を解くように掴み、引き寄せた。
「えっ……」
「凄く似合ってます。綺麗すぎてすぐに言葉が出てこなかったんです」
頭を掻き抱かれ、小柄な菜那はすっぽりと蒼司の中に包み込まれる。
「綺麗すぎて、誰にも見せたくないな」
全身の血液が沸騰したかのように湧き上がり、身体が熱くて溶け出してしまいそうだ。
「そ、そんな。褒めすぎ、ですよ」
喉までも熱くて、言葉を出すのが精一杯だ。とてもじゃないけれど、蒼司の身体を押し返す力も出ない。
「本当のことですから。今すぐに押し倒して抱きたいくらいだ」
「へ……?」
「なんてね」
冗談っぽい声で上品に笑っている。すっと離れた身体は菜那の身体に引かない熱を残していった。
「そうだ。今日のパーティーのことなんですけど、一つ菜那さんにお願いがあるんです」
「お願いですか? なんでしょう?」
「俺の恋人役をお願いしたいんです」
蒼司の言葉に菜那は目を大きく見開いてぱっくり開いた口元を両手で隠した。
「こ、恋人の役、ですか……?」
「そう。菜那さんにしか頼めないんです」
「そんな……恋人のふりなんて、それはさすがにできませんっ」
「そう言われるかなと思ってなかなか言い出せなかったんです。やっぱりダメ、ですかね?」
蒼司の困った表情に断ることができる……わけない。
「その、今日のパーティーはいったいどんなパーティーなんですか? 私詳しいことも聞かずに受けちゃいましたが、恋人役ってのは……?」
「今日のパーティーは父親の会社の創立記念パーティーなんです。行くつもりはなかったんですけど、恋人を連れてこないとお見合いさせるって言われてしまって。でも俺には心に決めた人がいて、その人と結婚したいと思っているんです」
電話の時に話していたことをすぐに思い出した。
やはり蒼司には好きな人がいるのだ。その人と結婚するための手助けを自分がする、ということだろうか。何度も助けてくれた蒼司の役に立てるのなら……。
「分かりました。恋人のふりをすればいいんですね」
偽の恋人役くらいどうってことない。蒼司が幸せになるための手助けになるのなら。
そう思っているはずなのに、熱くなっていた身体はまるで雨にうたれたように冷たくなっていた。
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