83 / 88
番外編★
しおりを挟む
カーテンの隙間体差し込む朝の光、チュンチュンと可愛らしい小鳥のさえずり。
日曜日の朝、カーテンを開けると雲一つない青空を見ながらグーっと背を伸ばして朝日を浴びる……はずだったのに。
――どうしてこうなった!?
まず俺は悪魔の着信音でハッと目が覚めた。電話に出るまで鳴り止まない恐怖の電話。もちろん着信相手は姫咲だ。鳴り止まない電話の音に気づいたのか美桜も目を擦りながら「んぅ~」と言っている。控えめに言って俺の妻は可愛い。
鳴り止まない電話、反射的に通話ボタンを押してしまう自分が憎らしい。
キーーーンと耳に刺すような勢いで姫咲の声がスマートフォンから漏れた。
「遅い! 三コール以内に出なさい!」
「んな朝っぱらから無茶なこと言うなよ」
「朝? 私はまだ眠りについていないから朝は来ていないけど? それよりも招集よ。猶予を与えよう。二時間以内に来たれ」
「え、おいっ! ちょっと!」
ツーツーツーと切れた音が耳にこだまする。てか来たれって何だよ……寝てないって言ってたからテンションやばそうだな……行ったら行ったで地獄絵面、行かなきゃ行かなかったで地獄行きだろう。
「隆ちゃん! 早く準備しないと!」
「は!?」
さっきまで「んぅ~」って可愛く眠そうにしていた美桜はどこへ行った!? 既に目はパッチリと大きく見開きベットから降りている。
「美桜、聞こえてたのか?」
「もちろん! 早く準備して行こう! 二時間とは言わず一時間で行けるよ!」
行く気満々の美桜に押されて結局一時間で準備を終え姫咲のアパートへ向かった。
まだ朝の七時。夏の終わりの九月下旬、半袖だと少し朝は肌寒い。
アパートのインターホンを鳴らすとガチャリとドアが開いた。「おはようございます」とぬるっと広志さんが出てきたのに俺は驚いたが美桜は全く動じずに「おはようございます!」と体育会系の学生のような大きな声で挨拶を返していた。そっちにもかなり驚いた。
「どうぞ、お入りください」
つ、ついにこの一歩を入れてしまえばなかなか帰る事は許されないだろう。何をさせられるのか……また広志さんと絡めとか言うのだろうか。考えただけで恐ろしくて鳥肌が立つ。
「隆ちゃん、そんな所に立ってないで早く入らないとお姉さん待ってるよ?」
背中に美桜の小さくて可愛い両手がピッタリとくっつき、徐にぐいぐい押されてリビングまで来てしまった。
「おっ、一時間で来るとはお主達やるねぇ。じゃあ手始めに広志の後ろから抱きついて首元にキスするかしないかの距離で覗き込む感じでこっち向いて」
いつも通り中学のジャージにすっぴんお団子頭の姫咲。お団子は崩れかけてボロボロだし、目の下のクマが凄いことになっている。こんなに黒くてクマだと分かりやすいクマは見たことが無い。
「は、はぁ!? それは無理! 大体美桜が見てるんだぞ! 出来るわけ無いだろう」
絶対に嫌だ。なに首元にキスって? 吸血鬼の漫画でも描くのか!?
「いいわよねぇ、美桜ちゃん」
ギロリと獲物を捕らえたかのような視線は勿論美桜の元へ伸びている。
「あ、その……控えめに言って最高です」
うぉぉおおおおい!!!
「同志よ」
いやなに二人で固く握手してんの!? 夫が他の男と絡んでるの見たいのか!?
「ふ、腐女子舐めてたわ……」
ぬるっと広志さんはその為に用意されていただろう椅子に既に座ってスタンバイしている。残るは俺だけだ。
早くやれよ、と言っているギラギラした視線。
楽しみワクワク、と期待に満ち溢れた視線。
何も考えいないのか、仕事だと割り切っているのかも分からない視線。
ゴクリと生唾を飲み込み意を決して広志さんの背後に回る。
(朝の七時から俺なにやってんだよ……なんで美桜じゃないんだよ……)
「はい! そのまま腕を回して顔近づけて! そう! そうよ! それよ!」
姫咲のキンキンした声が身体全身に突き刺さる。言葉にしないでくれ……
そのままの状態で美桜に視線をやると見ちゃいけない物を見ちゃったけど見たい、みたいな感じで両手で目は押さえているけど隙間はガッツリ開いてある。
(いや、うん、まぁ可愛い仕草なんだけど……)
「実は新しい仕事を初めてね、小説の表紙とか挿絵なんだけど今回オメガバースの話だからこう首に噛みそうで噛まない所を描きたいのである」
ランランと光る眼光で俺と広志さんを凝視しながら凄い速さで右手が動いている。さすがプロだ。
「お、お、お、オメガバーーーーーースッ」
「な、なんだ!? 美桜!?」
雪崩のように崩れ座る美桜の元へ駆け寄ろうと広志さんから腕を離した途端銃弾のように鋭い「動くでない!」と姫咲からの攻撃を受けて金縛りを受けたように身体が動かない。
恐るべし姉の威力。
「高森亜弥先生の画作でオメガバース……史上最強に素敵なオメガバースになるに決まってる。絶対書います。読む用、観賞用、保管用と三冊買わせて頂きます!」
「同志よ、ありがとう。拙者は素晴らしいオメガバースの絵を書いて見せるでござる」
いやもう、会話の内容がさっぱり分からない。何で同じ本を三冊も買う必要があるんだ? 姫咲の忍者みたいな話し方はいつ直るんだ?
俺は最初のワンポーズで無事地獄から奪還したが広志さんのポーズは本当に見ていて可哀想だった。
ベットの上で丸くうずくまり服やら靴下を大事そうに抱えているポーズ。これは巣篭もりとか言うらしくてオメガ? の特性らしい。てかオメガってなに?
(まじで自分が受けの方じゃなくてよかった……広志さんごめん)
「オメガって何? って顔に出てるよ! 隆ちゃんには帰ったら私のお気に入りオメガバースを貸してあげるから勉強してね!」
胸の前で両腕を組みフンッとドヤ顔している美桜も可愛い。いや、もう腐女子全開の妻を可愛いと思ってしまう俺は重症なのかもしれない。
日曜日の朝、カーテンを開けると雲一つない青空を見ながらグーっと背を伸ばして朝日を浴びる……はずだったのに。
――どうしてこうなった!?
まず俺は悪魔の着信音でハッと目が覚めた。電話に出るまで鳴り止まない恐怖の電話。もちろん着信相手は姫咲だ。鳴り止まない電話の音に気づいたのか美桜も目を擦りながら「んぅ~」と言っている。控えめに言って俺の妻は可愛い。
鳴り止まない電話、反射的に通話ボタンを押してしまう自分が憎らしい。
キーーーンと耳に刺すような勢いで姫咲の声がスマートフォンから漏れた。
「遅い! 三コール以内に出なさい!」
「んな朝っぱらから無茶なこと言うなよ」
「朝? 私はまだ眠りについていないから朝は来ていないけど? それよりも招集よ。猶予を与えよう。二時間以内に来たれ」
「え、おいっ! ちょっと!」
ツーツーツーと切れた音が耳にこだまする。てか来たれって何だよ……寝てないって言ってたからテンションやばそうだな……行ったら行ったで地獄絵面、行かなきゃ行かなかったで地獄行きだろう。
「隆ちゃん! 早く準備しないと!」
「は!?」
さっきまで「んぅ~」って可愛く眠そうにしていた美桜はどこへ行った!? 既に目はパッチリと大きく見開きベットから降りている。
「美桜、聞こえてたのか?」
「もちろん! 早く準備して行こう! 二時間とは言わず一時間で行けるよ!」
行く気満々の美桜に押されて結局一時間で準備を終え姫咲のアパートへ向かった。
まだ朝の七時。夏の終わりの九月下旬、半袖だと少し朝は肌寒い。
アパートのインターホンを鳴らすとガチャリとドアが開いた。「おはようございます」とぬるっと広志さんが出てきたのに俺は驚いたが美桜は全く動じずに「おはようございます!」と体育会系の学生のような大きな声で挨拶を返していた。そっちにもかなり驚いた。
「どうぞ、お入りください」
つ、ついにこの一歩を入れてしまえばなかなか帰る事は許されないだろう。何をさせられるのか……また広志さんと絡めとか言うのだろうか。考えただけで恐ろしくて鳥肌が立つ。
「隆ちゃん、そんな所に立ってないで早く入らないとお姉さん待ってるよ?」
背中に美桜の小さくて可愛い両手がピッタリとくっつき、徐にぐいぐい押されてリビングまで来てしまった。
「おっ、一時間で来るとはお主達やるねぇ。じゃあ手始めに広志の後ろから抱きついて首元にキスするかしないかの距離で覗き込む感じでこっち向いて」
いつも通り中学のジャージにすっぴんお団子頭の姫咲。お団子は崩れかけてボロボロだし、目の下のクマが凄いことになっている。こんなに黒くてクマだと分かりやすいクマは見たことが無い。
「は、はぁ!? それは無理! 大体美桜が見てるんだぞ! 出来るわけ無いだろう」
絶対に嫌だ。なに首元にキスって? 吸血鬼の漫画でも描くのか!?
「いいわよねぇ、美桜ちゃん」
ギロリと獲物を捕らえたかのような視線は勿論美桜の元へ伸びている。
「あ、その……控えめに言って最高です」
うぉぉおおおおい!!!
「同志よ」
いやなに二人で固く握手してんの!? 夫が他の男と絡んでるの見たいのか!?
「ふ、腐女子舐めてたわ……」
ぬるっと広志さんはその為に用意されていただろう椅子に既に座ってスタンバイしている。残るは俺だけだ。
早くやれよ、と言っているギラギラした視線。
楽しみワクワク、と期待に満ち溢れた視線。
何も考えいないのか、仕事だと割り切っているのかも分からない視線。
ゴクリと生唾を飲み込み意を決して広志さんの背後に回る。
(朝の七時から俺なにやってんだよ……なんで美桜じゃないんだよ……)
「はい! そのまま腕を回して顔近づけて! そう! そうよ! それよ!」
姫咲のキンキンした声が身体全身に突き刺さる。言葉にしないでくれ……
そのままの状態で美桜に視線をやると見ちゃいけない物を見ちゃったけど見たい、みたいな感じで両手で目は押さえているけど隙間はガッツリ開いてある。
(いや、うん、まぁ可愛い仕草なんだけど……)
「実は新しい仕事を初めてね、小説の表紙とか挿絵なんだけど今回オメガバースの話だからこう首に噛みそうで噛まない所を描きたいのである」
ランランと光る眼光で俺と広志さんを凝視しながら凄い速さで右手が動いている。さすがプロだ。
「お、お、お、オメガバーーーーーースッ」
「な、なんだ!? 美桜!?」
雪崩のように崩れ座る美桜の元へ駆け寄ろうと広志さんから腕を離した途端銃弾のように鋭い「動くでない!」と姫咲からの攻撃を受けて金縛りを受けたように身体が動かない。
恐るべし姉の威力。
「高森亜弥先生の画作でオメガバース……史上最強に素敵なオメガバースになるに決まってる。絶対書います。読む用、観賞用、保管用と三冊買わせて頂きます!」
「同志よ、ありがとう。拙者は素晴らしいオメガバースの絵を書いて見せるでござる」
いやもう、会話の内容がさっぱり分からない。何で同じ本を三冊も買う必要があるんだ? 姫咲の忍者みたいな話し方はいつ直るんだ?
俺は最初のワンポーズで無事地獄から奪還したが広志さんのポーズは本当に見ていて可哀想だった。
ベットの上で丸くうずくまり服やら靴下を大事そうに抱えているポーズ。これは巣篭もりとか言うらしくてオメガ? の特性らしい。てかオメガってなに?
(まじで自分が受けの方じゃなくてよかった……広志さんごめん)
「オメガって何? って顔に出てるよ! 隆ちゃんには帰ったら私のお気に入りオメガバースを貸してあげるから勉強してね!」
胸の前で両腕を組みフンッとドヤ顔している美桜も可愛い。いや、もう腐女子全開の妻を可愛いと思ってしまう俺は重症なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる