俺の妻は腐女子ですがなんら問題ありません。交際0日婚で腐女子の私は甘々に溺愛されています

森本イチカ

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番外編★

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 カーテンの隙間体差し込む朝の光、チュンチュンと可愛らしい小鳥のさえずり。
 日曜日の朝、カーテンを開けると雲一つない青空を見ながらグーっと背を伸ばして朝日を浴びる……はずだったのに。



 ――どうしてこうなった!?



 まず俺は悪魔の着信音でハッと目が覚めた。電話に出るまで鳴り止まない恐怖の電話。もちろん着信相手は姫咲だ。鳴り止まない電話の音に気づいたのか美桜も目を擦りながら「んぅ~」と言っている。控えめに言って俺の妻は可愛い。
 鳴り止まない電話、反射的に通話ボタンを押してしまう自分が憎らしい。
 キーーーンと耳に刺すような勢いで姫咲の声がスマートフォンから漏れた。


「遅い! 三コール以内に出なさい!」


「んな朝っぱらから無茶なこと言うなよ」


「朝? 私はまだ眠りについていないから朝は来ていないけど? それよりも招集よ。猶予を与えよう。二時間以内に来たれ」
 

「え、おいっ! ちょっと!」


 ツーツーツーと切れた音が耳にこだまする。てか来たれって何だよ……寝てないって言ってたからテンションやばそうだな……行ったら行ったで地獄絵面、行かなきゃ行かなかったで地獄行きだろう。 


「隆ちゃん! 早く準備しないと!」


「は!?」


 さっきまで「んぅ~」って可愛く眠そうにしていた美桜はどこへ行った!? 既に目はパッチリと大きく見開きベットから降りている。


「美桜、聞こえてたのか?」


「もちろん! 早く準備して行こう! 二時間とは言わず一時間で行けるよ!」


 行く気満々の美桜に押されて結局一時間で準備を終え姫咲のアパートへ向かった。


 まだ朝の七時。夏の終わりの九月下旬、半袖だと少し朝は肌寒い。


 アパートのインターホンを鳴らすとガチャリとドアが開いた。「おはようございます」とぬるっと広志さんが出てきたのに俺は驚いたが美桜は全く動じずに「おはようございます!」と体育会系の学生のような大きな声で挨拶を返していた。そっちにもかなり驚いた。


「どうぞ、お入りください」
 

 つ、ついにこの一歩を入れてしまえばなかなか帰る事は許されないだろう。何をさせられるのか……また広志さんと絡めとか言うのだろうか。考えただけで恐ろしくて鳥肌が立つ。


「隆ちゃん、そんな所に立ってないで早く入らないとお姉さん待ってるよ?」


 背中に美桜の小さくて可愛い両手がピッタリとくっつき、徐にぐいぐい押されてリビングまで来てしまった。


「おっ、一時間で来るとはお主達やるねぇ。じゃあ手始めに広志の後ろから抱きついて首元にキスするかしないかの距離で覗き込む感じでこっち向いて」


 いつも通り中学のジャージにすっぴんお団子頭の姫咲。お団子は崩れかけてボロボロだし、目の下のクマが凄いことになっている。こんなに黒くてクマだと分かりやすいクマは見たことが無い。


「は、はぁ!? それは無理! 大体美桜が見てるんだぞ! 出来るわけ無いだろう」


 絶対に嫌だ。なに首元にキスって? 吸血鬼の漫画でも描くのか!?


「いいわよねぇ、美桜ちゃん」


 ギロリと獲物を捕らえたかのような視線は勿論美桜の元へ伸びている。


「あ、その……控えめに言って最高です」


 うぉぉおおおおい!!!


「同志よ」


 いやなに二人で固く握手してんの!? 夫が他の男と絡んでるの見たいのか!? 


「ふ、腐女子舐めてたわ……」


 ぬるっと広志さんはその為に用意されていただろう椅子に既に座ってスタンバイしている。残るは俺だけだ。


 早くやれよ、と言っているギラギラした視線。
 楽しみワクワク、と期待に満ち溢れた視線。
 何も考えいないのか、仕事だと割り切っているのかも分からない視線。


 ゴクリと生唾を飲み込み意を決して広志さんの背後に回る。


(朝の七時から俺なにやってんだよ……なんで美桜じゃないんだよ……)


「はい! そのまま腕を回して顔近づけて! そう! そうよ! それよ!」


 姫咲のキンキンした声が身体全身に突き刺さる。言葉にしないでくれ……
 そのままの状態で美桜に視線をやると見ちゃいけない物を見ちゃったけど見たい、みたいな感じで両手で目は押さえているけど隙間はガッツリ開いてある。


(いや、うん、まぁ可愛い仕草なんだけど……)


「実は新しい仕事を初めてね、小説の表紙とか挿絵なんだけど今回オメガバースの話だからこう首に噛みそうで噛まない所を描きたいのである」


 ランランと光る眼光で俺と広志さんを凝視しながら凄い速さで右手が動いている。さすがプロだ。


「お、お、お、オメガバーーーーーースッ」
 

「な、なんだ!? 美桜!?」


 雪崩のように崩れ座る美桜の元へ駆け寄ろうと広志さんから腕を離した途端銃弾のように鋭い「動くでない!」と姫咲からの攻撃を受けて金縛りを受けたように身体が動かない。


 恐るべし姉の威力。


「高森亜弥先生の画作でオメガバース……史上最強に素敵なオメガバースになるに決まってる。絶対書います。読む用、観賞用、保管用と三冊買わせて頂きます!」


「同志よ、ありがとう。拙者は素晴らしいオメガバースの絵を書いて見せるでござる」


 いやもう、会話の内容がさっぱり分からない。何で同じ本を三冊も買う必要があるんだ? 姫咲の忍者みたいな話し方はいつ直るんだ?


 俺は最初のワンポーズで無事地獄から奪還したが広志さんのポーズは本当に見ていて可哀想だった。


 ベットの上で丸くうずくまり服やら靴下を大事そうに抱えているポーズ。これは巣篭もりとか言うらしくてオメガ? の特性らしい。てかオメガってなに?

 
(まじで自分が受けの方じゃなくてよかった……広志さんごめん)


「オメガって何? って顔に出てるよ! 隆ちゃんには帰ったら私のお気に入りオメガバースを貸してあげるから勉強してね!」


 胸の前で両腕を組みフンッとドヤ顔している美桜も可愛い。いや、もう腐女子全開の妻を可愛いと思ってしまう俺は重症なのかもしれない。
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