俺の妻は腐女子ですがなんら問題ありません。交際0日婚で腐女子の私は甘々に溺愛されています

森本イチカ

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「うわ、めっちゃ痛いんすけど。愛する夫の登場ってやつですか。すいません、ちょっとまだ美桜さんと話し終わってないんすよ~ちょっと待っててもらえません?」


 いやいやいやいや、おかしいですよね? 隆ちゃんの目がもう血走ってますよ? 怒りに満ち溢れてますよ? まずその言葉遣いがやばいよ? 私は何にも話はないよ?


「いや、私は池澤くんと話す事ないんて無いよ」


「だってよ。じゃあ俺と美桜は帰るから。もうこんな事するなよ、美桜は俺の妻なんだから」 


「へぇ、高林さんって案外余裕ない感じなんすね」


 おいおいおいおい、何でそんなに上目線から隆ちゃんに対して話すのよ! 見てよほら! もう猛獣のような目つきで池澤くんの事睨みつけてるよ!? なんで池澤くんはそんなにヘラヘラしてるの!?


 湿気の多い梅雨独特のじめついた空気に張り巡らされるピリついた二人のオーラが肌に刺さるように痛い。何故こんな展開になってしまったのか頭も心もついていかない。一人あわあわしている私。


「そりゃ余裕ないよ。誰にも美桜の事取られたくなくないからな。でも……お前に取られる心配なんてしてないけどな」


「っつ……んんっ……」


 隆ちゃんに全身を抱きしめられると、瞬時に顎をクイッとあげられ唇が重なる。


(ちょっ、池澤くんが見てるのに!? でも……気持ちいい……)


 人に見られているのに、会社の人に見られるかもしれないのに、舌を絡ませ唾液を飲み干し、官能的なキス。ゆっくりと離れていく唇が切なく、もっと欲しくなってしまう。


「ほらな、美桜を女に出来るのは俺だけだから。これ以上は美桜の可愛い顔見せてやらねぇよ。じゃあまた明日、お疲れ様でした」


「っつ……会社の時とキャラ違い過ぎだろッ、くそッ……」


 立ち尽くす池澤くんを置き去りにし足速に会社を出た。きっと私は今とてもだらしない顔をしているに違いない。この日程傘をさしていて良かったと思えた日はない。なるべく俯いてすれ違う人々に顔を見られないように、この熱く火照り欲情している顔を見られないように、足速な隆ちゃんの後を着いていく。バチャバチャと足に跳ねる雨水なんて気にせずに、早く、早く、家に帰りたい。
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