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仕事が終わり、いつも通り会社を二人で出てマンションに戻ってくる。そして毎日隆ちゃんは車に乗って実家に戻るのだ。今日も行くと朝言っていたので私はある準備をしていた。
隆ちゃんを玄関先で見送り、五分後、自分もマンションを出た。もちろん彼にバレないように。
駐車場から隆ちゃんの車が出たことを確認して、既にマンション前に呼んであったタクシーに乗り込む。
「前の車を追ってください」
自分の夫を(いや、来週入籍なのにこんな事態って……)尾行するなんて、不倫された妻みたいだなぁ、なんて考えていたらおかしな事に気づいた。進む方向が隆ちゃんの実家とは逆方向だ。
(え……嘘……ついてたってこと?)
バクンバクンと大きく普段とは違う動きを始める心臓。嫌な予感が頭をよぎり、手に変な汗がではじめた。呼吸も苦しいのをなんとか正気を保つために大きく息を吸い、自分自身を落ち着かせる。
見慣れないアパート。隆ちゃんは慣れた手つきでアパートの来客用駐車場に車を停めて二階のアパートの一室の呼び出しボタンを押していた。
ガチャリと部屋から出てきたのはひょろりとしたフォルムの男の人だった。
(……え、男の人?)
バレないように遠くの電柱の影から見ているからか、声がよく聞こえないが隆ちゃんはなんだか驚いた表情に見える。(まさか自分がドラマみたいに電柱の影に隠れるなんて思ってなかった)
そのまま部屋から出てきた男の人に隆ちゃんは抱き寄せられ部屋に入って行った。
(ま、まさかの……り、リアルBL……)
なんだか予想もしていなかった出来事に息が詰まる。苦しい。いや、BLは好きだよ? だけどまさか自分の愛する人が浮気していて、
しかも相手は男って……なかなかな人生ハードモード突入?
実家に行くって嘘ついて、毎日あのひょろっこい(失礼)男の人と過ごしてたって事!? なんだかもう思考回路がついていかない。あれだけ漫画で浮気だの不倫だのってシーンを読んでいたって実際に自分がその立場になるとどう振舞っていいのか分からない。えっと、漫画の浮気された側ってどんな風にしてたっけ? 思い出せない。
身体に力が入らず、暫くその場に立ち尽くしていた。何分一人で立ち尽くしていたかは分からない。此処がどこなのかもいまいち分からない。なんだか急に惨めな気持ちになりジワジワと涙が浮かんでくる。別に泣こうとして泣いているんじゃ無い。勝手に出てきてしまうのだ。
帰りたいのに、此処がどこなのか分からない。タクシーを呼ぶに呼べない。更に悲しくなる。
「もう……こんな事しなきゃ良かった……」
ぐしゃりと崩れるように、頭を抱えてしゃがみ込む。何でこんなことになっちゃったんだろう。隆ちゃんはいつからあの男の人と関係をもっているんだろう。もしかして本当は同性が好きでカモフラージュに私と結婚するとか? あ、有り得なくはない。そんな内容のBL漫画を何冊も読んだことがある。まさかそのカモフラージュ側に私は回ってしまったのだろうか……
また何分座り込んでいたか分からない。足や二の腕が痒い。夏の夜にジッと座り込んでいたらそりゃ蚊に刺されるわけだ……
スマホの位置情報から自分の居場所を割り出してタクシーを呼んだ。風もほとんどなく蒸し暑い夏の夜。身体にまとわりつく空気はべったりと熱いのに、空は雲ひとつない綺麗な星空。その差に虚しくなる。多分今は綺麗なものを見たら勝手に涙が出てきちゃう精神になっているのだろう。そう思う事にする。タクシーを待つ間、明かりの灯るアパートの部屋を見ないように逆方向の空を見て目尻から涙を静かに流した。
隆ちゃんを玄関先で見送り、五分後、自分もマンションを出た。もちろん彼にバレないように。
駐車場から隆ちゃんの車が出たことを確認して、既にマンション前に呼んであったタクシーに乗り込む。
「前の車を追ってください」
自分の夫を(いや、来週入籍なのにこんな事態って……)尾行するなんて、不倫された妻みたいだなぁ、なんて考えていたらおかしな事に気づいた。進む方向が隆ちゃんの実家とは逆方向だ。
(え……嘘……ついてたってこと?)
バクンバクンと大きく普段とは違う動きを始める心臓。嫌な予感が頭をよぎり、手に変な汗がではじめた。呼吸も苦しいのをなんとか正気を保つために大きく息を吸い、自分自身を落ち着かせる。
見慣れないアパート。隆ちゃんは慣れた手つきでアパートの来客用駐車場に車を停めて二階のアパートの一室の呼び出しボタンを押していた。
ガチャリと部屋から出てきたのはひょろりとしたフォルムの男の人だった。
(……え、男の人?)
バレないように遠くの電柱の影から見ているからか、声がよく聞こえないが隆ちゃんはなんだか驚いた表情に見える。(まさか自分がドラマみたいに電柱の影に隠れるなんて思ってなかった)
そのまま部屋から出てきた男の人に隆ちゃんは抱き寄せられ部屋に入って行った。
(ま、まさかの……り、リアルBL……)
なんだか予想もしていなかった出来事に息が詰まる。苦しい。いや、BLは好きだよ? だけどまさか自分の愛する人が浮気していて、
しかも相手は男って……なかなかな人生ハードモード突入?
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身体に力が入らず、暫くその場に立ち尽くしていた。何分一人で立ち尽くしていたかは分からない。此処がどこなのかもいまいち分からない。なんだか急に惨めな気持ちになりジワジワと涙が浮かんでくる。別に泣こうとして泣いているんじゃ無い。勝手に出てきてしまうのだ。
帰りたいのに、此処がどこなのか分からない。タクシーを呼ぶに呼べない。更に悲しくなる。
「もう……こんな事しなきゃ良かった……」
ぐしゃりと崩れるように、頭を抱えてしゃがみ込む。何でこんなことになっちゃったんだろう。隆ちゃんはいつからあの男の人と関係をもっているんだろう。もしかして本当は同性が好きでカモフラージュに私と結婚するとか? あ、有り得なくはない。そんな内容のBL漫画を何冊も読んだことがある。まさかそのカモフラージュ側に私は回ってしまったのだろうか……
また何分座り込んでいたか分からない。足や二の腕が痒い。夏の夜にジッと座り込んでいたらそりゃ蚊に刺されるわけだ……
スマホの位置情報から自分の居場所を割り出してタクシーを呼んだ。風もほとんどなく蒸し暑い夏の夜。身体にまとわりつく空気はべったりと熱いのに、空は雲ひとつない綺麗な星空。その差に虚しくなる。多分今は綺麗なものを見たら勝手に涙が出てきちゃう精神になっているのだろう。そう思う事にする。タクシーを待つ間、明かりの灯るアパートの部屋を見ないように逆方向の空を見て目尻から涙を静かに流した。
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