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この人だけには逆らえない
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ついにこの時が来てしまったか……
せっかく美桜と甘いひとときの余韻を楽しんでいた時に恐ろしい電話がかかってきた。出るまで鳴り止まない恐怖の電話だ。【姫咲】(きさき)と表示されている画面を見て大きな溜息が出るが、震える指で通話ボタンを押す。
『隆一!!! 招集よ!! 明日朝からうちに来なさい』
聞きたくない声とフレーズがキーーーンと耳を突き抜ける。
「うるさ……いや、無理だから、っておい、ちょっと」
……切られた。全身がズーンと一気に重たくなる。
明日は美桜と結婚指輪を買いに行く予定なのに。それでも行かなきゃヤバイ、と本能が感じとる。
布団がもそりと動き布団の隙間から俺を覗き見る美桜。控えめに言って可愛すぎる。それなのに俺は今から明日の予定をドタキャンしようとしているなんて本当に最低だ。罪悪感で一杯になるが、意を決して美桜に断りを入れる。
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
「ううん、大丈夫だよ。電話大丈夫?」
「あー、それなんだけどさ……」
理由を言わずに指輪を買いに行くのは来週でもいいかと聞いたら全く躊躇わずにいいよ、と言われちょっと凹んだ。でも俺が明日行く場所はどうしてもバレたくない。見られたらとんだ痴態を晒す事になるのだから。
明日行きたくねぇ……と思いながら美桜を抱きしめて眠りについた。
朝六時。既に外は明るくなり雀かなにかの鳥の声がチュンチュン聞こえてくる。爽やかな朝なのに気分はどんより雲のよう。あどけない寝顔でぐっすり眠っている美桜を起こさないように静かにベットから降りTシャツとデニムを手に持ち寝室を出た。
美桜が起きた時に用におにぎりと味噌汁の準備をし、マンションを出る。今から向かう場所は車で二十分ほどのアパートの一室だ。東に向かって走るので朝日が物凄く眩しい。
来客用の駐車場に止め、アパートのインターホンを押す。
「はい、隆一さんですね、今開けます」
幸の薄いと言ったら悪い言い方だか、本当に張りのない細々とした声質の男の声。
ガチャリと出てきた男は声にぴったり当てはまるような黒髪短髪のヒョロリとした体型、目は一重で細く、けれど雰囲気は優しいオーラが漂いまくっている。
「広志(ひろし)さん、おはよう御座います。今日は呼び出されて来ました」
「先生から伺ってます。今締め切りの佳境でかなり先生も参っているみたいなので……」
申し訳なさそうな広志さんの態度から、だから呼び出されたのかと納得した。
「隆一~? 来たなら早く入って! やる事いっぱいあるわよ!」
あぁ、悪夢がこれから始まると思うとアパートに入るあと一歩が踏み出せない。入ったら地獄の始まりだ。
「早くさない! じゃないと過激なポーズさせるわよ!」
「っつ……」
重い足取りで部屋に入ると、それはもう地獄絵図だった。
そう、今日のここに呼び出した張本人は俺の八個上の姉、高林姫咲(たかばやし きさき)だ。姫が咲くと書いてきさきと読むが、全く姫の要素がない。むしろ女王様のようで俺を下僕のように扱う。
長い黒髪をお団子頭にし、ヘアバンドでさらに髪が落ちてこないように留めている。眼鏡越しでもわかるほどの目の下の黒い隈に、中学時代のジャージ上下と他の人には見せられないようなボロボロな姿。(一体何年着てるんだよ)
姫咲は超売れっ子BL漫画家だ。ペンネームは確か高森亜弥(たかもり あや)だった気がする。
せっかく美桜と甘いひとときの余韻を楽しんでいた時に恐ろしい電話がかかってきた。出るまで鳴り止まない恐怖の電話だ。【姫咲】(きさき)と表示されている画面を見て大きな溜息が出るが、震える指で通話ボタンを押す。
『隆一!!! 招集よ!! 明日朝からうちに来なさい』
聞きたくない声とフレーズがキーーーンと耳を突き抜ける。
「うるさ……いや、無理だから、っておい、ちょっと」
……切られた。全身がズーンと一気に重たくなる。
明日は美桜と結婚指輪を買いに行く予定なのに。それでも行かなきゃヤバイ、と本能が感じとる。
布団がもそりと動き布団の隙間から俺を覗き見る美桜。控えめに言って可愛すぎる。それなのに俺は今から明日の予定をドタキャンしようとしているなんて本当に最低だ。罪悪感で一杯になるが、意を決して美桜に断りを入れる。
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
「ううん、大丈夫だよ。電話大丈夫?」
「あー、それなんだけどさ……」
理由を言わずに指輪を買いに行くのは来週でもいいかと聞いたら全く躊躇わずにいいよ、と言われちょっと凹んだ。でも俺が明日行く場所はどうしてもバレたくない。見られたらとんだ痴態を晒す事になるのだから。
明日行きたくねぇ……と思いながら美桜を抱きしめて眠りについた。
朝六時。既に外は明るくなり雀かなにかの鳥の声がチュンチュン聞こえてくる。爽やかな朝なのに気分はどんより雲のよう。あどけない寝顔でぐっすり眠っている美桜を起こさないように静かにベットから降りTシャツとデニムを手に持ち寝室を出た。
美桜が起きた時に用におにぎりと味噌汁の準備をし、マンションを出る。今から向かう場所は車で二十分ほどのアパートの一室だ。東に向かって走るので朝日が物凄く眩しい。
来客用の駐車場に止め、アパートのインターホンを押す。
「はい、隆一さんですね、今開けます」
幸の薄いと言ったら悪い言い方だか、本当に張りのない細々とした声質の男の声。
ガチャリと出てきた男は声にぴったり当てはまるような黒髪短髪のヒョロリとした体型、目は一重で細く、けれど雰囲気は優しいオーラが漂いまくっている。
「広志(ひろし)さん、おはよう御座います。今日は呼び出されて来ました」
「先生から伺ってます。今締め切りの佳境でかなり先生も参っているみたいなので……」
申し訳なさそうな広志さんの態度から、だから呼び出されたのかと納得した。
「隆一~? 来たなら早く入って! やる事いっぱいあるわよ!」
あぁ、悪夢がこれから始まると思うとアパートに入るあと一歩が踏み出せない。入ったら地獄の始まりだ。
「早くさない! じゃないと過激なポーズさせるわよ!」
「っつ……」
重い足取りで部屋に入ると、それはもう地獄絵図だった。
そう、今日のここに呼び出した張本人は俺の八個上の姉、高林姫咲(たかばやし きさき)だ。姫が咲くと書いてきさきと読むが、全く姫の要素がない。むしろ女王様のようで俺を下僕のように扱う。
長い黒髪をお団子頭にし、ヘアバンドでさらに髪が落ちてこないように留めている。眼鏡越しでもわかるほどの目の下の黒い隈に、中学時代のジャージ上下と他の人には見せられないようなボロボロな姿。(一体何年着てるんだよ)
姫咲は超売れっ子BL漫画家だ。ペンネームは確か高森亜弥(たかもり あや)だった気がする。
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