49 / 70
嫉妬に狂いそうなんです
しおりを挟む
午後の業務を終え、定時で帰れる。
隣の松田を見るとまだパソコンをいじっているので多分定時では上がれ無さそうだと感じとる。
「じゃあ、松田君私先に上がるわね」
「あっ、はい、俺まだ少し残ってるんで、すいません」
「頑張ってね」
「はい、水野さん、気をつけてくださいよ、帰り道」
「何歳だと思ってるのよ、じゃあまた明日ね」
一人寂しく会社を出る。
今日も外はクリスマスの音や光で賑やかだ。
「真紀さんっ!」
後ろから名前を呼ばれた。聞き覚えのある高い声。
――マコト
振り返ると真っ白なコートに身を包んでいる誠が目に入った。
ドクドクと心臓が早く動き出す。身体が重い。誠の白いコートとは真逆のモヤモヤと真っ黒い何かが私を包みそうになる。
ああ、このモヤモヤは知っている。
走っても走っても振り切れる事のない、モヤモヤ。
それでも平然を装い私は返事をする。
「あ、誠さん、こんばんは」
「こんばんは~」
「松田君ならまだ会社よ、残業だって言ってたわ」
「あ~、今日は大雅じゃなくて真紀さんに用があって、寒いし近くのカフェにでも入りません?」
私に用があるなんて言われてしまったらついて行くしかない。誠の後ろをついて行き会社近くのカフェに入った。
店内は暖房が効いていて、冷えた身体を暖めた。
誠と向かい合わせに座り、誠はホットコーヒー、私はホットミルクティーを頼んだ。
「仕事終わりにごめんね~、急で驚かしちゃったよね」
「大丈夫よ、で、どうしたの?」
この場を一刻も早く立ち去りたくて自分から話を持ち出した。
誠の口からは予想もしなかった言葉が出てきた。
「単当直中に言うけど、大雅と別れてくれない?」
いつもの可愛い声とは真逆の低くて太い声。
誠の雰囲気から冗談で言っていないと言うことは分かる。さっきまでのフワフワした感じとは真逆のジッと私を見る真剣な顔つきとピンと伸びた背筋が本気で言っている事を嫌でも分からせる。
それでも何を言っているのか理解出来なかった。
「……どうして?」
「真紀さんと出会ったせいで大雅は凄く変わった。それがどうしても許せない、小さい人間だって思われたって構わない、だって子供の頃からずっと一緒にいて、ずっと好きなんだから……ずっと私が大雅を守ってきた。私にとって大雅は一番だし、大雅にとってもずっと私が一番だったのに……ポッと出てきた真紀さんに大雅を取られた私の気持ちがわかる?」
ポッと出……あぁ、やっぱり誠は松田のことが恋愛対象で好きなんだ、と確信が持てた。
「二人が特別な関係なのは聞いてるけど……」
「じゃあ尚更分かってくれますよね? 私達はお互いを必要とし合ってるって事、だから真紀さんは正直言って邪魔なの」
「まぁその気持ちは分かるけど……」
「全然分かってない! 私がどれだけ大雅を守ってきたか、好きで好きで、外で腕を組んでも変な目で見られないように女装までして……どんなに彼女が出来ても私を優先してくれてたのに……八年前にあんたと出会ってから……ましてや再開して付き合って完全に二番目扱いになった私の気持ちがどう分かってくれるってのよ!」
誠はヒートアップしてどんどん声が大きくなる、頬を赤く染め、目にはうっすらと涙を浮かべている。周りのお客さんにもチラチラ見られていて、完全なる修羅場に私は今いる。
店員さんも物凄く置きづらそうに、お待たせいたしました、とコーヒーとミルクティーを置いていった。
「なんも言い返せないくらいの気持ちならさっさと別れてよね」
「違っ……ただ驚いちゃって……誠さんがそんなにも松田君のことを想っていたなんて知らなくて」
「そりゃそうでしょうよ、あんた何にも知らないんでしょ? 私の方が大雅の事をよく知ってる、あんたなんかに私たちの絆は負けないから」
バンッと誠は勢いよく立ち上がり、財布から千円札を取り出すと目の前にバシッと置いて「この事大雅に言ったらまじでキレるから」とキッと私を睨みつけ店を出て行った。
私は誠を止めることも出来ず、ただ呆然と誠の話を聞いているしかできなかった。
カフェに一人取り残されて何分経ったか分からない。ただ頼んだミルクティーはもう冷めていて冷たいと感じる程の温度になっていた。
物凄く疲れた。
つまり誠は私の事が気に食わない。自分が一番最初に優先されなくなった事に悲しんでいる。松田の事が好き。
(そう言えば八年前に会ったって言ってたけど……どう言う事なんだろう、本当に私は松田君のことを何も知らないんだな……)
足は無意識に松田のアパートに向かい、まだ帰ってきてない松田をアパートの前で待つ。
早く会いたい。会って松田の温もりを感じて、私の事が好きだと実感したい。
隣の松田を見るとまだパソコンをいじっているので多分定時では上がれ無さそうだと感じとる。
「じゃあ、松田君私先に上がるわね」
「あっ、はい、俺まだ少し残ってるんで、すいません」
「頑張ってね」
「はい、水野さん、気をつけてくださいよ、帰り道」
「何歳だと思ってるのよ、じゃあまた明日ね」
一人寂しく会社を出る。
今日も外はクリスマスの音や光で賑やかだ。
「真紀さんっ!」
後ろから名前を呼ばれた。聞き覚えのある高い声。
――マコト
振り返ると真っ白なコートに身を包んでいる誠が目に入った。
ドクドクと心臓が早く動き出す。身体が重い。誠の白いコートとは真逆のモヤモヤと真っ黒い何かが私を包みそうになる。
ああ、このモヤモヤは知っている。
走っても走っても振り切れる事のない、モヤモヤ。
それでも平然を装い私は返事をする。
「あ、誠さん、こんばんは」
「こんばんは~」
「松田君ならまだ会社よ、残業だって言ってたわ」
「あ~、今日は大雅じゃなくて真紀さんに用があって、寒いし近くのカフェにでも入りません?」
私に用があるなんて言われてしまったらついて行くしかない。誠の後ろをついて行き会社近くのカフェに入った。
店内は暖房が効いていて、冷えた身体を暖めた。
誠と向かい合わせに座り、誠はホットコーヒー、私はホットミルクティーを頼んだ。
「仕事終わりにごめんね~、急で驚かしちゃったよね」
「大丈夫よ、で、どうしたの?」
この場を一刻も早く立ち去りたくて自分から話を持ち出した。
誠の口からは予想もしなかった言葉が出てきた。
「単当直中に言うけど、大雅と別れてくれない?」
いつもの可愛い声とは真逆の低くて太い声。
誠の雰囲気から冗談で言っていないと言うことは分かる。さっきまでのフワフワした感じとは真逆のジッと私を見る真剣な顔つきとピンと伸びた背筋が本気で言っている事を嫌でも分からせる。
それでも何を言っているのか理解出来なかった。
「……どうして?」
「真紀さんと出会ったせいで大雅は凄く変わった。それがどうしても許せない、小さい人間だって思われたって構わない、だって子供の頃からずっと一緒にいて、ずっと好きなんだから……ずっと私が大雅を守ってきた。私にとって大雅は一番だし、大雅にとってもずっと私が一番だったのに……ポッと出てきた真紀さんに大雅を取られた私の気持ちがわかる?」
ポッと出……あぁ、やっぱり誠は松田のことが恋愛対象で好きなんだ、と確信が持てた。
「二人が特別な関係なのは聞いてるけど……」
「じゃあ尚更分かってくれますよね? 私達はお互いを必要とし合ってるって事、だから真紀さんは正直言って邪魔なの」
「まぁその気持ちは分かるけど……」
「全然分かってない! 私がどれだけ大雅を守ってきたか、好きで好きで、外で腕を組んでも変な目で見られないように女装までして……どんなに彼女が出来ても私を優先してくれてたのに……八年前にあんたと出会ってから……ましてや再開して付き合って完全に二番目扱いになった私の気持ちがどう分かってくれるってのよ!」
誠はヒートアップしてどんどん声が大きくなる、頬を赤く染め、目にはうっすらと涙を浮かべている。周りのお客さんにもチラチラ見られていて、完全なる修羅場に私は今いる。
店員さんも物凄く置きづらそうに、お待たせいたしました、とコーヒーとミルクティーを置いていった。
「なんも言い返せないくらいの気持ちならさっさと別れてよね」
「違っ……ただ驚いちゃって……誠さんがそんなにも松田君のことを想っていたなんて知らなくて」
「そりゃそうでしょうよ、あんた何にも知らないんでしょ? 私の方が大雅の事をよく知ってる、あんたなんかに私たちの絆は負けないから」
バンッと誠は勢いよく立ち上がり、財布から千円札を取り出すと目の前にバシッと置いて「この事大雅に言ったらまじでキレるから」とキッと私を睨みつけ店を出て行った。
私は誠を止めることも出来ず、ただ呆然と誠の話を聞いているしかできなかった。
カフェに一人取り残されて何分経ったか分からない。ただ頼んだミルクティーはもう冷めていて冷たいと感じる程の温度になっていた。
物凄く疲れた。
つまり誠は私の事が気に食わない。自分が一番最初に優先されなくなった事に悲しんでいる。松田の事が好き。
(そう言えば八年前に会ったって言ってたけど……どう言う事なんだろう、本当に私は松田君のことを何も知らないんだな……)
足は無意識に松田のアパートに向かい、まだ帰ってきてない松田をアパートの前で待つ。
早く会いたい。会って松田の温もりを感じて、私の事が好きだと実感したい。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる