ここは会社なので求愛禁止です!

森本イチカ

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まったりデートでお泊まり!?

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 食べ終わったお皿を二人で並んで洗い、借りてきたお笑い総特集のDVDを見ることにした。
 おつまみに買ってきたポテトチップスや柿の種、サキイカなどをローテーブルに広げ缶チューハイで乾杯する。凄くおじさんくさいおつまみの種類だがまたそれが良い。
 ふとローテーブルの上に置かれている眼鏡が目にはいる。
 眼鏡をかけている松田も好きだが、松田の綺麗な黒い瞳が私は好きなのでコンタクトの時の松田も好きだ。ソファーの隣に座る松田の横顔を眺める。缶チューハイに口をつけゴクンと一口飲むと動く女の私にはない喉仏、鼻筋のスッと通った綺麗な横顔に釘付けになってしまう。

「ん?」

(やばっ、バレたっ……)

「いや、今日は眼鏡じゃやいんだなって思って」

「あぁ、今日はコンタクトにしたんです、眼鏡だと邪魔でしょ?」

「邪魔?」

 松田の雰囲気が変わった。
 そう、キスをする直前のような……
 ゆっくりとわたしの頭の後ろに松田の大きな手が周りゆっくりと顔が近づいてくる。

「あ……ン……」

 たっぷりと私の唇を堪能した彼の唇は満足そうに離れていった。

「キスするのに邪魔でしょ?」

「なっ!!」

 ふいっと顔を背けた。いかにも私は照れていませんと装いテレビを見ながら缶チューハイに口をつける。

「真紀」

 耳にダイレクトで届く松田の優しい声がゾクッと身体を振るわせる。

「なっ、何!?」

「ははは、もう一本飲む? って聞こうとしただけですよ」

「あ、飲む……」

「持ってきますね」

 つい緊張からかゴクゴクと飲み過ぎてあっという間に二本目に突入。
 時間が経つと共に緊張もほぐれてきてDVD中盤には松田と私の笑い声が部屋に響いた。

「そうだ! 私、松田君のアルバムとか見たいな」

 やっぱり家に来たら昔のアルバムを見るって少女漫画とかドラマでは定番だと思い出し唐突に松田に聞いてみた。

「俺のアルバム? あんまり写真ないんですよ、学校の卒業アルバムくらいしか」

「全然いいよ、見せて」

「持ってくるから待ってて」

 松田は両手に三冊のアルバムを抱え戻ってきた。

「え~、小学生の松田君可愛すぎるっ」

「そう? 普通のヤンチャ坊主でしたよ」

 小学生の松田は小学生らしからぬ無表情。大人の証明写真のような表情で写っていた。
 中学生の松田は絶対モテたであろう爽やかな笑顔と清潔感のある短い髪型。学ラン姿が新鮮で、この頃の松田にも会いたかったなぁ、なんて思ったりしてしまう。
 高校生の松田のアルバムを開くと今より少し幼いくらいで、変わらずイケメンだ。でも何となくだが見たことのある顔つき。でも松田の事を初めてみたのは会社だし、気のせいだろう。

「松田君のご両親は何してるの?」

「俺、施設育ちなんです、詳しくは知らないんだけど母親は俺を産んだ後失踪したとかで、誠とも施設で知り合ったんですよ」

 ドカンと大砲で撃たれたかのような衝撃を受けた。そんな辛い話を笑って誤魔化して話してくれる松田が愛おしくて無意識に松田を抱きしめていた。

「真紀……?」

「えぇっ、あ、ごめん! つい、なんとなく……」

 パッと両手を離しアルバムに視線を戻す。

「施設育ちって言ったから心配してくれました?」

 図星だ。

「施設って言ってもそれなりに普通に過ごしてきましたから大丈夫ですよ」

「そうなんだ……じゃあ誠……君? ちゃん? とは家族同然なんだね」

「ですね、ずっと一緒でしたから」

「この前失礼な態度とっちゃったから今度会えたらお詫びしないとな……」

「気にしなくていいですよ、それにこれからは真紀がずっと一緒にいてくれるんですよね?」

 ジッと見つめる松田の目が私を捉えて目を逸らす事が出来ない。急に真剣な空気が張り詰める。タイミングが良いのか悪いのか、DVDも終わってしまい一気に部屋が静かになる。
 「もちろん」たったこの一言が素直に口から出てこない。心の中では思っているのに、勿論ずっと一緒だよ、そう思っているのに恥ずかしいと思う気持ちが未だに勝ってしまい言い出せない。

「っつ……」

「DVD終わっちゃったし、次の見ましょっか!」

 その場の空気を振り払うように松田が明るく次のDVDをプレイヤーに入れる。

「無理しなくていいからね?」

 松田はゆっくり私の頭を撫でてくれ、それがとても気持ちが良くて自分から松田の肩に頭を乗せた。
 次こそ素直になろう、そう思った。

「え!? 何これ!!!」

 テレビ画面に映される暗い病院。絶対に借りてきた恋愛映画じゃ無い事に気づく。

「だから無理しなくていいからねって言ったのに」

「なっ!!! そーゆうことだったのね! 騙された!!!」

 さっきの雰囲気とは真逆で、あははは、と松田の笑い声と私のギャーと言う悲鳴が交わり部屋に響き渡る。
 怖すぎて直視する事が出来ず松田の腕を必死に掴み目を瞑った。それでも耳から入ってくる音が怖すぎて途中からは何も考えずに無になった。
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