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会社では内緒です
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松田はほぼ独り立ちし、一緒に行動する事が少なくなった。午後の業務も別々だったので松田と顔を合わす事が意外と少なかった。
「寂しいな……」
休憩室で一人コーヒーを飲む。無駄に静かな空間。松田の顔が見れない寂しさが急に込み上げてくる。
「なんで寂しいんですか?」
後ろから松田の声が聞こえ持っていた砂糖とミルクがたっぷりの激甘コーヒーを落としそうになった。
「うわっ、松田君!?」
「俺に会えなくて寂しかった?」
「なっ……違うわよっ」
「ふーん、じゃあいいです」
ツンとそっぽを向いて会議室の方へ松田は歩いて行ってしまった。
「……やっちゃったかな」
グッと激甘コーヒーを飲み干し仕事にもどる。
(……素直に寂しかったって次は言おう)
仕事が終わったのは夜の十九時。デスクを見るとまだ松田の鞄が残っていた。
(まだ松田君居るのね……待ってみよう)
松田と一緒に帰る為に自分の椅子に座り松田を待つ。
つい最近の自分からは想像もできない。彼氏の仕事を待つ自分……
何とも幸福な温かい浮遊間に包まれている気がした。
「あ、起きました?」
「んん……んん!?」
目の前には松田の顔。そして自分は横たわり松田の太腿に頭を置いている。浮遊間……寝ちゃったのかい! と自分に心の中でツッコミを入れた。
確か自分の事デスクで待っていたはず。
もしかして松田に抱えられて休憩室に移動したのか……確認するのも恥ずかしいので聞くのはやめた。
「もう皆んな退社して俺たちだけですから安心して下さい」
「え、ええ、ごめんなさい」
ガバッと起き上がり髪の乱れと呼吸を整える。
昼間の雰囲気とはまた違う静かな夜の休憩室が心臓の動きを早める。二人きり……緊張して手汗をかいてきた。
「お水飲みます?」
「あ、うん」
紙コップにウォーターサーバーから水を出し注いでくれたのをゴクゴクと喉を鳴らし一気に飲み干した。
「そんなに喉渇いてたんだ」
「はは、寝起きだからかなぁ」
よかった。緊張しているとはバレていないみたいだ。
昼間の決意を実行する時がきた。
グッと一息飲み思った事を言葉にする。
「……松田君と一緒に帰ろうと思って待ってたら寝ちゃってたみたい」
顔を見る事は出来なかったがちゃんと言えた、と達成感。チラッと松田の方を見ようとした瞬間あっという間に松田の腕の中。ギュッと強く抱きしめられて少し苦しいくらいだ。これでは松田が今どんな顔をしているのか見れない。
「松田君っ、苦しいよ」
「あ~ごめんなさい、今嬉しすぎて顔がゆるゆるだと思うんで見ちゃ駄目」
そう言われると見たくなるのが人間の衝動。身体を揺さぶってみるが松田はビクともしない。
「駄目だって言ってるのに」
「え?……んッ……」
一瞬見えた松田の顔は真っ赤に染まっていた気がしたが、それを気にしてられないくらいに熱く濃厚なキス。
二人の息遣いだけが部屋に響きなんだかただの休憩室が凄くいやらしく感じてしまった。
「水野さん顔真っ赤」
「んなっ! 松田君のせいだからね! もう、帰るわよ!」
「ははは、帰りましょう」
二人並んで会社を出る。
松田に手を繋ごうとお願いされたがまだ会社の近く、誰かに見られたら大変だ。手を繋ぎたい……そう思ったが「会社が近いから駄目!」と断ってしまった。
ショボンと肩を落とす松田が無性に愛おしく思えた。
二十時を過ぎているからか電車内は空いていて座席に座る事ができた。家まで三駅だがやはり座れると脚がものすごく楽になる。
松田の降りる駅は会社から一駅なので五分程で着いてしまう。
今までなら一駅も長く感じでいたが今日は違う。こんなにも時間が経つのが早く感じた事はない。
「あ、松田君着いたわよ」
「水野さんの家まで送りますよ」
「いいわよ、遠回りになっちゃうでしょ」
「いいんですよ、俺がまだ一緒に居たいから」
嬉しかった。本当はもっと一緒に居たいと思っていたのに、どうしても素直に気持ちを伝えることが出来ない。
私がもっと若くて素直な女の子だったら、まだ一緒に居たい、とか言えたのかな、と思ってしまう。
三十歳と言う歳の壁はやはり私には大きく感じてしまう……
「真紀、ん」
急に名前で呼ばれてドキンと身体が熱くなる。流石に私の降りた駅には会社の人はいないと思ったのだろう、松田はまるで子供が母親に手を繋いで欲しいと言っているような眼差しで手を差し出してきた。
「仕方ないわね」
(あ~また、可愛くない返事しちゃった……)
ソッと松田の手を握り、二人で並んで歩く。
冷えたお互いの手が段々暖まってきたところでアパートが見えた。
アパートまで五分の道のりが今では短くて物足りない。やっと繋げた手を離すのが惜しい。
「もう着いちゃいましたね、じゃあまた明日」
「えぇ、じゃあまた、明日」
繋いでいた手をグッと引き寄せられバランスを崩し松田の胸に引き寄せられた。
「ちょっと……」
「誰も居ないから大丈夫」
「えっ……んっ……」
松田の大きい手が私の頭を掻き抱き、ゆっくりと私の口の中に松田の舌が入ってくる。熱くて溶けそうなキス。
「ふっ……んん」
リップ音が静かな夜道にやたら響いているように聞こえ耳にもキスをされているような感覚に陥る。
「あー、こんな真紀の可愛い顔誰にも見せたくないからもうお終い」
「……何言ってんのよ」
「可愛いって言ってるんですよ、はぁ……帰りたくないなぁ」
私もだ。まだ一緒に居たい……
「明日も仕事だからね、送ってくれてありがとう」
「ですね、じゃあまた明日、おやすみなさい」
どうして素直になれないんだろう……
松田の歩く後ろ姿を見ながら「はぁ」と深い溜息が溢れた。
「寂しいな……」
休憩室で一人コーヒーを飲む。無駄に静かな空間。松田の顔が見れない寂しさが急に込み上げてくる。
「なんで寂しいんですか?」
後ろから松田の声が聞こえ持っていた砂糖とミルクがたっぷりの激甘コーヒーを落としそうになった。
「うわっ、松田君!?」
「俺に会えなくて寂しかった?」
「なっ……違うわよっ」
「ふーん、じゃあいいです」
ツンとそっぽを向いて会議室の方へ松田は歩いて行ってしまった。
「……やっちゃったかな」
グッと激甘コーヒーを飲み干し仕事にもどる。
(……素直に寂しかったって次は言おう)
仕事が終わったのは夜の十九時。デスクを見るとまだ松田の鞄が残っていた。
(まだ松田君居るのね……待ってみよう)
松田と一緒に帰る為に自分の椅子に座り松田を待つ。
つい最近の自分からは想像もできない。彼氏の仕事を待つ自分……
何とも幸福な温かい浮遊間に包まれている気がした。
「あ、起きました?」
「んん……んん!?」
目の前には松田の顔。そして自分は横たわり松田の太腿に頭を置いている。浮遊間……寝ちゃったのかい! と自分に心の中でツッコミを入れた。
確か自分の事デスクで待っていたはず。
もしかして松田に抱えられて休憩室に移動したのか……確認するのも恥ずかしいので聞くのはやめた。
「もう皆んな退社して俺たちだけですから安心して下さい」
「え、ええ、ごめんなさい」
ガバッと起き上がり髪の乱れと呼吸を整える。
昼間の雰囲気とはまた違う静かな夜の休憩室が心臓の動きを早める。二人きり……緊張して手汗をかいてきた。
「お水飲みます?」
「あ、うん」
紙コップにウォーターサーバーから水を出し注いでくれたのをゴクゴクと喉を鳴らし一気に飲み干した。
「そんなに喉渇いてたんだ」
「はは、寝起きだからかなぁ」
よかった。緊張しているとはバレていないみたいだ。
昼間の決意を実行する時がきた。
グッと一息飲み思った事を言葉にする。
「……松田君と一緒に帰ろうと思って待ってたら寝ちゃってたみたい」
顔を見る事は出来なかったがちゃんと言えた、と達成感。チラッと松田の方を見ようとした瞬間あっという間に松田の腕の中。ギュッと強く抱きしめられて少し苦しいくらいだ。これでは松田が今どんな顔をしているのか見れない。
「松田君っ、苦しいよ」
「あ~ごめんなさい、今嬉しすぎて顔がゆるゆるだと思うんで見ちゃ駄目」
そう言われると見たくなるのが人間の衝動。身体を揺さぶってみるが松田はビクともしない。
「駄目だって言ってるのに」
「え?……んッ……」
一瞬見えた松田の顔は真っ赤に染まっていた気がしたが、それを気にしてられないくらいに熱く濃厚なキス。
二人の息遣いだけが部屋に響きなんだかただの休憩室が凄くいやらしく感じてしまった。
「水野さん顔真っ赤」
「んなっ! 松田君のせいだからね! もう、帰るわよ!」
「ははは、帰りましょう」
二人並んで会社を出る。
松田に手を繋ごうとお願いされたがまだ会社の近く、誰かに見られたら大変だ。手を繋ぎたい……そう思ったが「会社が近いから駄目!」と断ってしまった。
ショボンと肩を落とす松田が無性に愛おしく思えた。
二十時を過ぎているからか電車内は空いていて座席に座る事ができた。家まで三駅だがやはり座れると脚がものすごく楽になる。
松田の降りる駅は会社から一駅なので五分程で着いてしまう。
今までなら一駅も長く感じでいたが今日は違う。こんなにも時間が経つのが早く感じた事はない。
「あ、松田君着いたわよ」
「水野さんの家まで送りますよ」
「いいわよ、遠回りになっちゃうでしょ」
「いいんですよ、俺がまだ一緒に居たいから」
嬉しかった。本当はもっと一緒に居たいと思っていたのに、どうしても素直に気持ちを伝えることが出来ない。
私がもっと若くて素直な女の子だったら、まだ一緒に居たい、とか言えたのかな、と思ってしまう。
三十歳と言う歳の壁はやはり私には大きく感じてしまう……
「真紀、ん」
急に名前で呼ばれてドキンと身体が熱くなる。流石に私の降りた駅には会社の人はいないと思ったのだろう、松田はまるで子供が母親に手を繋いで欲しいと言っているような眼差しで手を差し出してきた。
「仕方ないわね」
(あ~また、可愛くない返事しちゃった……)
ソッと松田の手を握り、二人で並んで歩く。
冷えたお互いの手が段々暖まってきたところでアパートが見えた。
アパートまで五分の道のりが今では短くて物足りない。やっと繋げた手を離すのが惜しい。
「もう着いちゃいましたね、じゃあまた明日」
「えぇ、じゃあまた、明日」
繋いでいた手をグッと引き寄せられバランスを崩し松田の胸に引き寄せられた。
「ちょっと……」
「誰も居ないから大丈夫」
「えっ……んっ……」
松田の大きい手が私の頭を掻き抱き、ゆっくりと私の口の中に松田の舌が入ってくる。熱くて溶けそうなキス。
「ふっ……んん」
リップ音が静かな夜道にやたら響いているように聞こえ耳にもキスをされているような感覚に陥る。
「あー、こんな真紀の可愛い顔誰にも見せたくないからもうお終い」
「……何言ってんのよ」
「可愛いって言ってるんですよ、はぁ……帰りたくないなぁ」
私もだ。まだ一緒に居たい……
「明日も仕事だからね、送ってくれてありがとう」
「ですね、じゃあまた明日、おやすみなさい」
どうして素直になれないんだろう……
松田の歩く後ろ姿を見ながら「はぁ」と深い溜息が溢れた。
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