ここは会社なので求愛禁止です!

森本イチカ

文字の大きさ
上 下
2 / 70

マーケティング部

しおりを挟む
 私の勤めている会社は文房具会社だ。新商品の企画をし、生産、そして営業で各取引先の店頭に並べている。
 私の所属している部署はマーケティング部、全員で二十五名だ。
 年齢層は大体二十代から四十代。
 その中でさらに五人のチームに別れ企画を進めて行き、最終的に決まった案件を全員で進めて行く。
 最近はチームリーダーも任される事が多くなり、
年下だから、女だからって舐められないよう今までプライベートも犠牲にして仕事に打ち込んできた甲斐あって大きな仕事も任されるようになった。
 ここで恋愛なんかにうつつ抜かして仕事を疎かにするなんてもっての外だ。

「じゃあ三日後までに新しいマーケティング案を各チーム一つは出すこと、宜しくお願いします」

 部長の少しピリッとした声で全員のヤル気スイッチが入る。

「「はい」」

 返事と共に皆んなチーム毎にバラけて仕事を始める。
 チームワークはかなり良い方だと思う。
 こんな部にしてくれたのは紛れもなく島田部長のお陰だろう。

 新人の松田を教えながら新しい企画を出し合い話し合いを進めていたらあっという間に定時時刻の十七時半になっていた。
 企画が決まり忙しくなってくるともちろん残業も続く事が多くなるが、今の時期は基本定時で上がるようにしている。
これも会社の方針だ。
プライベートも充実させる事が仕事へのモチベーションを上げることに繋がるらしい。
 とはいえ開発や、新発売の時期が近くなると残業の連続だ。

 マーケティング部の殆どの社員が帰ったのに、何故か私の隣のデスクにはまだ松田が居る。

「あの、松田君、もう定時だから帰って大丈夫よ?」

「水野さんが帰るのを待ってるんですよ」

「はい?」

「一緒に帰りましょう?」

 デスクの上に頭を乗せ私の方をフニャっとした笑顔で見つめてくる。

「私はまだ仕事が残ってるから帰らないので」

「じゃあ待ってますよ」

「いや、結構です、早く帰りなさい」

「冷たいなぁ、入社初日で色々聞きたい事があったのに」

 残念と分かりやすく表情にでている。
 けれど仕事以外ではこの男はかなりの要注意人物だ。むやみに近寄るなんて自分から獣のいる危険地帯に踏み込んでいるのと同じだろう。
 仕事以外では冷たくあしらう事にした。松田の方を見ずに「お疲れ様でした」と言いキーボードを打ち続けた。

「……じゃあ今日の所は帰ります、お疲れ様でした」

 コツコツと真新しい革靴の足音が遠のいて行く。

「さぁて、あと少し終わらしちゃおう」

 グッと背筋を伸ばし、自分に気合いを入れ直して十九時にはなんとか終わった。
 一番最後だったのでフロアの電気を全て消し会社を出た。
 外に出ると少し肌寒く、もうすぐ夏が終わるのを肌で感じる。
 そんな空気を堪能しながら駅まで歩く。
 自宅は会社の最寄り駅から三駅、駅から徒歩五分の1LDKのアパート。
 言うまでもなく一人暮らしだ。

「ただいま……」

 誰の返事もない家でもつい言ってしまう。
 スーツのままドサっとベットに寝転ぶ。今日はいつもの数倍疲れた。
 ふと自分の唇にそっと人差し指を当てる。
まだ少し松田の柔らかい唇の感触が残っているような気がした。

(昼間のあれ……本気なのかな……)

 重い腰を無理やり起こしスーツを脱ぎ開放感に溢れる。
 そのままお風呂に入り、適当に冷蔵庫からご飯と昨日の残り物の肉じゃがを電子レンジで温めて食べる。
 我ながらこんな姿誰にも見せられない……
 ささっと食べお皿を洗い歯磨きを済ませ、あっという間に夜の二十二時。
 ベットに入り明日の予定を頭の中で確認する。

(松田君……明日は何も起きませんように……)

 祈りながらいつの間にか寝落ちていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

処理中です...