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とんでもない新人
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「もう無理! 全く会ってくれないし! 耐えられない! さようなら!」
一人でのんびりミルクティーを飲んでいたが、女の人の大きな声とバシャっと勢いよく水のこぼれる音が静かな喫茶店のジャズ音楽のBGMを掻き消すように響き渡る。
視線を音の先にずらすと頭から水を被って肩を丸めている男性の後ろ姿が目に入った。
悲しみが背中から滲み出ている。
なんとなく……ただなんとなく気になってしまいそっと席を立ち私はハンカチをその男性のテーブルにそっと置き「使ってください」とだけ言葉を残し喫茶店を後にした。
そんなインパクトのある出来事から三日経った今日。
水野真紀の働いている会社に中途採用の新人が入るらしく、部内は騒ついている。
「ねぇ、新人男かなぁ、イケメンだったら最高だな~」
椅子にもたれ掛かりながら私に話しかけてきたのは同期の櫻井涼子だ。
彼女はもう結婚もしていて子供も二人いるがイケメンが大好きで見てるだけで幸せになるそうだ。
新人がイケメンかどうかウキウキしている。
「ん~どうだろうね、全く情報ないもんね」
「だよね~あ~イケメン拝みたーい」
「本当涼子ってブレないね」
「まあねっ」
パソコンに向かいパチパチとデータの入力をし始めた所で部長の島田の声が部内に響き渡った。
「はい、皆んな~お待ちかねの新人がきたから紹介するので集まってくれ」
言われた通り島田部長の近くに向かうとバチッと新人と目が合った。
高身長の新人はビシッとスーツを着こなし綺麗なアッシュブラウンの髪の毛もビシッとヘアセットしてある。
スッと通った鼻筋に薄い唇。お洒落な眼鏡の奥にある真っ黒で綺麗な瞳にジッと見つめられている気がした。
「中途採用で今日からこの部に配属になった松田大雅君だ、皆んなでフォローしてやってくれ、新人教育は……水野、お前に任せる」
「ええ!? 私ですか!?」
「ああ、頼むぞ」
「……分かりました」
なんて面倒……いや、大変な役割を任されてしまった。
でも島田部長の頼みだ……断れる訳がない。任された仕事をこなすのみ。
「じゃ、じゃあ松田君、水野真紀です、これから指導していくので分からないことがあればどんどん聞いてくださいね」
「はい、水野さん宜しくお願いします」
松田の声は低音だが濁りのない聞きやすい声だった。
「じゃあまず松田君のデスクは……」
ど、何処なんだろうと島田部長に視線をずらすと、
"お前の隣だ"と口パクで伝えてくる。
確かに私の隣のデスクはずっと空席のままだったので納得だ。
「あ、私の隣のデスクを使って下さい。
まずは一通りデスクを綺麗にしちゃって」
「分かりました」
松田はニコリと笑みを浮かべデスクに荷物を並べ始めた。
私は素直に言う事を聞く良い子だな、と率直に思った。
椅子に座り時々松田君の様子を見ながらデータ入力を進める。
「……あの、水野さん」
「松田君、何か?」
「ちょっと聞きたいことがあって、向こうで話せますか?」
「分かったわ」
わざわざ呼び出して聞きたい事って何だろう。
場所を移動するって事は人に聞かれたくないような話なのだろうか。
ドキドキしながら松田君の後をついて行く。
なんだろう……この後ろ姿、彼の事をどこかで見たような気がして、でも思い出せなくてモヤッとする。
ガチャッと会議室の鍵を開け二人で中に入ると少し重々しい空気が私達を包み込んだ。
「あの、俺、あの日からずっと水野さんの事を探してて、運命かと思いました」
「……は、はあ」
全く理解できない内容だったが次の瞬間ハッと鮮明に記憶が蘇った。
「これ、ずっと返そうと思って洗って持ち歩いてました、あの時は本当にありがとうございました」
そう言って差し出して来たのは私が喫茶店で水をかけられた男性に渡したハンカチだった。
丁寧にアイロン掛けまでされている。
「あ、あの時の! こんな偶然あるのね、わざわざありがとう」
サッと受け取りその場を立ち去ろうとした瞬間、グッと腕を引かれバランスを崩し、ドサっと倒れるように私は彼の腕の中にいた。
一瞬の事すぎて何も反応が出来なかった。
「あの、松田君、仕事に戻るので離してもらえるかしら?」
「……俺、水野さんが好きなんです、付き合ってください」
「はっ、え? 上司をからかうのも程々にしなさい!」
「俺本気です、あの日からずっと水野さんの事が忘れられなくて……」
更に彼のグッと抱きしめる力が強くなり身動きが取れなくなる。
自分自身男の人に抱きしめられるなんて……告白されるなんて何年ぶりだろう……
もう一生独身で仕事に生きていくと思っていた私の女の部分が少し疼く。
こんな事言われて嬉しくない訳がない。
「どうしたら信じてくれますか?」
「いや、信じる信じないの話じゃないのよ、私は松田君の事を全く知らない訳だし、ましてや今日から上司と部下の関係になるのよ? この前の喫茶店の彼女はどーしたのよ!」
「あぁ、あの人は勝手に勘違いしてただけですよ、付き合った覚えもなければ、デートもしてない。てか一切手も出してないのに水かけられたとか人生で初めてでしたよ、あんなヒステリックな女性初めて見ました」
ハハハと笑いながらなかなか腕を離してくれない彼の顔をキッと睨みつけ「離しなさい」と強く言い放った。
「その目……グッときます……」
そうボソッと呟いた瞬間私の唇は彼の唇に奪われていた。
「っつ……んん!!」
何とか引き剥がそうともがくがやはり相手は男。
全く動じず私の唇を奪い続ける。
久しぶりの柔らかい感触に戸惑いを隠せない。
キスなんて何年ぶりだろう……キスの仕方さえ忘れていた。
「俺本気ですから、これからガンガン攻めていきますよ」
ジッと獲物を捕まえるような鋭い目つきで私の事を見つめる。
こういう男を肉食系男子って言うのだろうか。
いや、それとも獣系男子か?
「な、何言ってるの! 仕事に戻るわよ」
平常心を無理矢理取り戻し部屋のドアを開ける。
その後ろを何もなかったかのように後ろに着いて出てくる松田、手を出してないとか言ってるけど彼は喫茶店で女性から水をかけられるくらいだ、きっと遊び人なんだろう……間に受けない方がいい。じゃなきゃあんなに腰が砕けそうになるキスをするはずない……
一人でのんびりミルクティーを飲んでいたが、女の人の大きな声とバシャっと勢いよく水のこぼれる音が静かな喫茶店のジャズ音楽のBGMを掻き消すように響き渡る。
視線を音の先にずらすと頭から水を被って肩を丸めている男性の後ろ姿が目に入った。
悲しみが背中から滲み出ている。
なんとなく……ただなんとなく気になってしまいそっと席を立ち私はハンカチをその男性のテーブルにそっと置き「使ってください」とだけ言葉を残し喫茶店を後にした。
そんなインパクトのある出来事から三日経った今日。
水野真紀の働いている会社に中途採用の新人が入るらしく、部内は騒ついている。
「ねぇ、新人男かなぁ、イケメンだったら最高だな~」
椅子にもたれ掛かりながら私に話しかけてきたのは同期の櫻井涼子だ。
彼女はもう結婚もしていて子供も二人いるがイケメンが大好きで見てるだけで幸せになるそうだ。
新人がイケメンかどうかウキウキしている。
「ん~どうだろうね、全く情報ないもんね」
「だよね~あ~イケメン拝みたーい」
「本当涼子ってブレないね」
「まあねっ」
パソコンに向かいパチパチとデータの入力をし始めた所で部長の島田の声が部内に響き渡った。
「はい、皆んな~お待ちかねの新人がきたから紹介するので集まってくれ」
言われた通り島田部長の近くに向かうとバチッと新人と目が合った。
高身長の新人はビシッとスーツを着こなし綺麗なアッシュブラウンの髪の毛もビシッとヘアセットしてある。
スッと通った鼻筋に薄い唇。お洒落な眼鏡の奥にある真っ黒で綺麗な瞳にジッと見つめられている気がした。
「中途採用で今日からこの部に配属になった松田大雅君だ、皆んなでフォローしてやってくれ、新人教育は……水野、お前に任せる」
「ええ!? 私ですか!?」
「ああ、頼むぞ」
「……分かりました」
なんて面倒……いや、大変な役割を任されてしまった。
でも島田部長の頼みだ……断れる訳がない。任された仕事をこなすのみ。
「じゃ、じゃあ松田君、水野真紀です、これから指導していくので分からないことがあればどんどん聞いてくださいね」
「はい、水野さん宜しくお願いします」
松田の声は低音だが濁りのない聞きやすい声だった。
「じゃあまず松田君のデスクは……」
ど、何処なんだろうと島田部長に視線をずらすと、
"お前の隣だ"と口パクで伝えてくる。
確かに私の隣のデスクはずっと空席のままだったので納得だ。
「あ、私の隣のデスクを使って下さい。
まずは一通りデスクを綺麗にしちゃって」
「分かりました」
松田はニコリと笑みを浮かべデスクに荷物を並べ始めた。
私は素直に言う事を聞く良い子だな、と率直に思った。
椅子に座り時々松田君の様子を見ながらデータ入力を進める。
「……あの、水野さん」
「松田君、何か?」
「ちょっと聞きたいことがあって、向こうで話せますか?」
「分かったわ」
わざわざ呼び出して聞きたい事って何だろう。
場所を移動するって事は人に聞かれたくないような話なのだろうか。
ドキドキしながら松田君の後をついて行く。
なんだろう……この後ろ姿、彼の事をどこかで見たような気がして、でも思い出せなくてモヤッとする。
ガチャッと会議室の鍵を開け二人で中に入ると少し重々しい空気が私達を包み込んだ。
「あの、俺、あの日からずっと水野さんの事を探してて、運命かと思いました」
「……は、はあ」
全く理解できない内容だったが次の瞬間ハッと鮮明に記憶が蘇った。
「これ、ずっと返そうと思って洗って持ち歩いてました、あの時は本当にありがとうございました」
そう言って差し出して来たのは私が喫茶店で水をかけられた男性に渡したハンカチだった。
丁寧にアイロン掛けまでされている。
「あ、あの時の! こんな偶然あるのね、わざわざありがとう」
サッと受け取りその場を立ち去ろうとした瞬間、グッと腕を引かれバランスを崩し、ドサっと倒れるように私は彼の腕の中にいた。
一瞬の事すぎて何も反応が出来なかった。
「あの、松田君、仕事に戻るので離してもらえるかしら?」
「……俺、水野さんが好きなんです、付き合ってください」
「はっ、え? 上司をからかうのも程々にしなさい!」
「俺本気です、あの日からずっと水野さんの事が忘れられなくて……」
更に彼のグッと抱きしめる力が強くなり身動きが取れなくなる。
自分自身男の人に抱きしめられるなんて……告白されるなんて何年ぶりだろう……
もう一生独身で仕事に生きていくと思っていた私の女の部分が少し疼く。
こんな事言われて嬉しくない訳がない。
「どうしたら信じてくれますか?」
「いや、信じる信じないの話じゃないのよ、私は松田君の事を全く知らない訳だし、ましてや今日から上司と部下の関係になるのよ? この前の喫茶店の彼女はどーしたのよ!」
「あぁ、あの人は勝手に勘違いしてただけですよ、付き合った覚えもなければ、デートもしてない。てか一切手も出してないのに水かけられたとか人生で初めてでしたよ、あんなヒステリックな女性初めて見ました」
ハハハと笑いながらなかなか腕を離してくれない彼の顔をキッと睨みつけ「離しなさい」と強く言い放った。
「その目……グッときます……」
そうボソッと呟いた瞬間私の唇は彼の唇に奪われていた。
「っつ……んん!!」
何とか引き剥がそうともがくがやはり相手は男。
全く動じず私の唇を奪い続ける。
久しぶりの柔らかい感触に戸惑いを隠せない。
キスなんて何年ぶりだろう……キスの仕方さえ忘れていた。
「俺本気ですから、これからガンガン攻めていきますよ」
ジッと獲物を捕まえるような鋭い目つきで私の事を見つめる。
こういう男を肉食系男子って言うのだろうか。
いや、それとも獣系男子か?
「な、何言ってるの! 仕事に戻るわよ」
平常心を無理矢理取り戻し部屋のドアを開ける。
その後ろを何もなかったかのように後ろに着いて出てくる松田、手を出してないとか言ってるけど彼は喫茶店で女性から水をかけられるくらいだ、きっと遊び人なんだろう……間に受けない方がいい。じゃなきゃあんなに腰が砕けそうになるキスをするはずない……
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