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なんだってんだ
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「なんだってんだ! オイ! コラ! てめぇらっ! 離しやがれっつーんだよっ! ちっくしょう!」
その頃、屋敷の外ではクラスターがカイに肩に担ぎ上げられ喚いていた。
だが。
「あの方ほんまに大丈夫ですかねぇ」
「大丈夫やろ? こいつに魂やるて契約に変更したからあんまりえげつないのん来よらへんやろしな」
フミは乗ってきたと思しき軽自動車の屋根に両手を組んでのせ、さらにその上に顎を乗せ屋敷の方向を見て呟くように言うと、カイも同じように屋敷を仰ぎ見てそう言った。
「だ・か・ら! はなせー!」
「せやけど今回上手に屋敷の人間眠らすこと出来てほっとしましたわ」
「わははははは! この俺様にかかれば容易いこと!」
「…やったのはボクですやん。カイさんこういう微妙な術は、やり過ぎて成功したことありませんやん」
だが、そんなクライスターを無視するが如くのほほんとカイとフミの二人は屋敷を見つめながら会話をしている。
「俺の話を聞ーーーけーーーー!!」
「お! そやそや」
カイはごそごそとポケットから何かを取り出す。
それは一見普通のピアスに見えたが、角度によって様々な色に変化する不可思議な石が付いていた。それをカイはクライスターの左耳にかぶせるように押し付ける。
「イタッ!!」
クライスターは身を震わせて叫んだ。
「ほい完了♪」
カイは妙に楽しそうだ。
「てめぇ! 何をしやがった!!」
「何て。新しく書き換えた契約書や」
見ると先ほどの石が、クライスターの耳にピアスのように飾られていた。
「こんなものいらねぇよ!!」
「せやかてお前、主契約の魂が手に入らんどころか契約を破棄されとったら力削がれとったやないか。魂が手に入るだけでも俺様に感謝しろよ」
「うっっ!!」
図星だったようだ。
「ほんまにコレもって帰りますのん?」
怯むクライスターを見て、フミは半眼になってカイに問いかける。
「おう♪」
「知りませんで? まぁたアキタケさんやヤスミちゃんに怒られはっても」
フミは疲れたようなため息を吐く。
「大丈夫や。今回ばかりはあの二人かてこいつを見れば何も文句言いよらへんって」
ニッと、口元を楽しそうに歪めるカイに、フミはゴツンと軽自動車の屋根に額をぶつける。
「……その自信は一体どこから来ますねんな。いっつもいっつもそう言うて怒られては、毎回その場で捨てられてますやん。おまけに今回のこのお人はちょっと魔力が大きすぎまへんか?」
フミは顔を伏せたまま完全にあきれ果てているようだ。
「う~ん、ま、そんなとこも気に入った理・由♪」
テヘ♪とか言うカイにフミは半分だけ顔を上げてジトーッと睨む。
「……勝手にして下さいな。僕はもう知りしません」
「ちっくしょう! てめぇらいったい何者なんだよ!」
無視され続けるクライスターは、半ば自棄気味に叫ぶ。その言葉におとカイが言う。
「お。せやせや。バタバタしとって自己紹介しとらんかったな~」
「……あれをバタバタっていうカイさんの神経って…」
「ゴタゴタヌカすなっての」
ゴツッ!!とカイはフミの頭に拳を振り下ろす。
「イタッ! ホンマにもう! いい加減にして下さいよ! なんでもかんでも暴力で解決できる思たはりませんか?!」
「暴力ちゃうわ。愛のツッコミや」
ふふんとカイが胸を張った。
「カイさんが愛やて! きしょっ!! めっちゃっ気色悪っ!!」
だがフミはその言葉を聞くとずささっと後退る。本気で嫌がっているようだ。
「…お前はホンマに可愛いなぁ~ああん?」
ちょっと額に青筋浮かべつつフミを捕まえようとするが、クライスターを担いでいるため思うように捕まらない。鈍臭そうに見えてもフミの動きは意外と俊敏である。
反対にクライスターは振り回されて頭にきたようだ。
「お前らぁーー!! いい加減に脱線するのを止めんかい!!」
「おぉ! 悪魔のこいつにツッコまれてもうたで?」
「うわぁぁ! 一生の不覚ですわ~!」
そう言って二人が悶えている。クライスターは更にキレてしまったようだ。
「そもそもな! 神父のくせにそんな服来ているって事自体おかしいじゃねぇかっ!!」
途端いきなりカイとフミの動きが止まる。
「は?」
あまりの二人の間抜け面にクライスターは戸惑う。
「は? って…お前らエクソシストじゃないのか?」
そう言われてカイとフミは顔を見合わせ、なにやらボソボソと呟いている。
「う~ん。やっぱり俺様の格好が悪かったやろか?」
「まぁ、ボクもカイさんのこと言えへん格好ですしね~」
「そういや…あんまりアレっぽいことせやんかったっけ?」
カイがうーんと悩むのと、フミが腕を組んでうーんと言いながら眉を寄せて、どうだったのか思い出しているようだ。そして暫くしてからポソッと呟く。
「…………そういや、またしてまへんなぁ」
「やっぱこの商売はったりも必要やろか?」
カイがクライスターを担いでいない方の手で顎を摩りつつ、困ったように言うとフミはやれやれといった感じで頭を振る。
「せやけどあの格好も、ある意味街中では怪しさ爆発ですやん」
「それも言えてんねんけど…やっぱ呪いの一つでも唱えないかんやろか」
「見かけの呪い唱えてる最中にボカン! とやってまいますねんから全く意味あらしませんやんか。道具使ういうたかて、道具使う前にやっぱりボカン! とやってまいますし」
フミはそう言うと夜空を見上げながら右手を天に向かってパッと広げる。カイも同じようにあ~と天を仰ぐ。
「それもそうやねんな~。困ったのう」
「ホンマですね~」
ここまではなんとか我慢していたクライスターだったが、とうとう我慢できずに怒鳴った。
「いいかげん話が見えてこないから、俺をどうする気かさっさと言え!」
「ほなまぁとりあえず自己紹介するわ。俺様はな『しんじょう かいる』神さんの城、十戒の戒、守るの守で、『神城 戒守』書くねん」
「ボクは『なかにし ふみあき』言います。中間の中、東西南北の西、文の星いう意味を持つ奎、水晶の晶で『中西 奎晶』と書きますねん」
そう言いながらそれぞれ地面に漢字を書いて自己紹介をするが、クライスターには何も感慨をおよばさなかったようだ。
「そ・れ・でっっ?!」
「ほんでな職業が『陰陽師』や」
……。
「は?」
「お・ん・みょ・う・じ」
……。
「誰が?」
「俺様」
「ボクはまぁ、見習いというか…言うのも嫌ですけど弟子ですねん」
……。
「嘘だろ?」
「なんで嘘付かなあかんねん」
「まぁ、よぅ気持ちは分かりますわ」
……。
「…本当なのか?」
「うん」
「大変大変申し訳ないけどホンマですねん」
……。
「お前らっ!! その格好で陰陽師とか名乗るんじゃないっっっ!!」
クライスターは二人に向かって思わず怒鳴ってしまっていた。
「しゃーないやんけっ!! 俺様かて好きでこないな格好してるわけないんやっっ!!」
カイルも負けずに怒鳴り返す。
「まぁ、カイさんの格好は確かにおかしいですけど、普通の人が思い描かはるような格好で町中歩いたかて、コスプレと間違えられて警察さんに連行されてしまいますのや。今は世知辛い世の中ですねん」
ふぅとため息を吐きつつも、いけしゃーしゃーとフミアキはぬかす。
「……まぁ、いい。それで? 俺をどうするつもりなんだ? 糞忌々しい教会の奴らとの取り引き材料にでも使うってのか?」
2人と議論を戦わせても調子を狂わせるだけなのにやっと気が付いたのか、クライスターは聞きたいことだけを優先させたようだ。
賢明な判断である。
「あ? なんでそないなことせんといかんねんな?」
ところがカイルは本当に心当たりがないようで、キョトンとしている。
「知っているぜ? お前らがお互いの敵について情報交換しているってのはな」
クライスターは忌々しげに顔を歪めたまま吐き捨てるように言う。
「へぇ~やっぱりそんな話なんかは、ソッチ側にも漏れてるんですねぇ」
のほほんと感心するフミアキ。
「え? フミほんまかいな」
本当にカイルは知らなかったようだ。
「……その件にアキタケさんめっちゃ熱心ですやん。ホンマに知りはりませんのん?」
フミアキはため息をつきつつ話す。
「あ~…やりそうなことやわ~」
カイルは少しあさっての方向を見ている。
「そのアキタケってやつは何者なんだ?」
クライスターは2人の話を聞くと、目を光らせた。
「俺様の兄貴や。お日さんの日、威厳の威と書いて『日威』。『あきたけ』て読むねん」
カイルはそう言って、またもや地面に漢字を書く。だが、その字ではなく別のことでクライスターの感情に触ったようだ。
「……それだけで大嫌いなのに決定だ」
「なんでやねん」
「よう気持ちは分かりますわ」
うんうんと頷くフミアキ。
「え? フミお前兄貴嫌いなんか?」
カイの驚いたような声に、慌ててフミアキはブンブン!と激しく首を振る。
「ちゃいますよ! 嫌いどころか尊敬してますよ! …恐いけど」
「あ~…まぁなぁ~恐いなぁ~。…って、やからなんでやねん」
余程心当たりがあるのかカイルが感慨深く頷いたが、ふとどういった理由なのかを問うた。フミはさっと間合いをとると、にっこりと笑って答える。
「クライスターさんが嫌や言わはる部分は、カイさんの兄貴ってとこですわ」
「あーなるほどね…ってこの野郎っ!!」
納得してからその内容にカイルがフミアキを殴ろうとするがクライスターを担いだままな上に、予想していたフミアキは十分に距離をとり、ひょいとあっさりとカイルの拳をかわす。
「……フミ。後で覚えとけよ」
「遠慮のう忘れさせていただきます」
「そ・れ・で? 俺をどうするんだって聞いてるんだけどよ?」
漫才のようなやり取りに、クライスターはため息を吐きつつもう一度問いただす。
疲れてきたようだ。
「あぁ。俺様の式神にする」
……。
「え?」
「は?」
「だから式神」
……。
「カイさん…。本気ですのん?」
「うん」
……。
「いやだぁぁぁぁ!! 絶っっっっっ対に! なるもんかっっ!!」
クライスターは今さらながら目一杯暴れて逃げようとするが、鎖に阻まれて虚しい抵抗を続けるだけだった。
「カイさん。無理や思いますけど…って言うだけボクは言わせてもらいましたで? せやから後はもう何も言いしませんわ」
うんうんと頷くと、フミアキはカイルの説得をあっさりと諦めたようだ。カイルは訝しそうに片眉を上げて、フミアキの方を見る。
「お? なんやあっさりあきらめよるやんか? どないしてん?」
「クライスターさんはかなり力がありそうやさかい、野放しにしはるぐらいやったら、カイさんの新しい玩具に…て思うてみたら可愛らしいわぁて思えますやん」
それはもう最上級の笑顔を浮かべ、両手を広げるフミアキはどこか嬉しそうだ。
「こらぁぁぁ!! 待てぇぇぇ!! 誰が玩具なんだっての!!」
「いやぁもう、助かりますわぁ。この人の面倒見るのん大変でねぇ。負担が減って大助かりですわぁ」
フミアキの本音が出たようだ。ウキウキとした感のある歩調で軽自動車のところまで戻ってくるとさっさと車へと乗り込む。
「ま、そういうこった。観念するんやな」
カイルもニヤリと笑いながら、クライスターを後部座席に横たわらせ、自分は助手席に乗り込む。
「待て。ナカニシ」
いきなりクライスターがフミアキに制止をかける。心なしか顔が青ざめて見える。
「なんですのん」
そう言いつつフミアキはシートベルトを装着している。
「この国では十八歳未満の者が運転してはいけないのだろう?」
「は?」
フミアキの動きがピタッと止まる。助手席に座ったカイルは、シートベルトを装着しながら何のことだと不思議そうに首を傾げながら、後部座席に寝かせたクライスターの方を覗き込んできた。
「何言ってんねん? フミが運転するんに問題でもあるんかいな?」
「だからっ! お前は未成年なんだろうと言ってるんだ! どうみたって十五、六歳にしか見えないだろうがっ!」
途端にカイルは真っ青になって焦る。
「わぁっ! アホッ! それはっっ…!」
そして慌てたようにフミアキの方を見て…凍り付いている。
その強張った顔を見て、クライスターは何事かとつられて運転席にいるフミアキを見て同じように固まった。なぜかというと。
「……誰が未成年です?」
先ほどまでと打って変わって、恐ろしいオーラがフミアキから漂い出ている。
「え? え? だって…!」
あまりの変わり様にクライスターは、混乱して言葉がうまく出てこない。
「残念ながら、ボクはハタチなんかとうに越えた立派な成年男性なのですよ…。クライスターさん…」
静かに、地獄の底から聞こえているのではないかと思わんばかりのその声音に、クライスターは怯えるが、同時にその内容に衝撃を受ける。
「えぇっ?! 嘘つくなっ! その顔はどう見たって二十歳を越えてないだろうっ?!」
そしてあまりの衝撃に、またもやいらない口を滑らせるクライスター。
途端にギチリっと異様な音がフミアキの握りしめたハンドルから聞こえてきた上に、さらにオーラが闇よりも濃いのではないかと思うぐらいに黒くなる。
「わぁっっ!! 火に油注ぎよった!! もう知らへんで?!」
カイルですら顔色を真っ青にさせて、脂汗をダ~ラダ~ラとたらしている。
「なるほど。かなりお疑いのようですから、ボクのこの運転技術で納得していただくしかないようです…。とくと御覧になっていて下さいね…?」
ドス黒いオーラを更に凶悪にして周りに発しつつ静かに言うとフミアキは、ガッとサイドブレーキを下ろすなり、高速の動きでシフトチェンジをし、なおかつガツン!と派手な音を立てさせながらアクセルを踏み込んで、車を急加速で発進させた。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~!!」
その勢いに後ろに寝かせられていたクライスターがもろに影響を受ける。しかもシートベルトなんて上等なものをさせてもらっていないので、言わずもがなである。
「アホ~~~!! フミはなっ! 童顔のことを突かれると怒りよんねん!! しかもハンドルもったら人が変わりよんねんぞ?! 標準語になってしもたらもうアカンねやぁぁ!!」
カイルは半分恐怖のためか叫んでいる。
「そ、そ、そ、そんなの俺が知るかぁっ!!」
ガソリンと知らずに引火原因となるものを撒き点火させ、さらに火に油を注ぐ発言をしてしまったクライスターはあまりの急加速、急ブレーキ、急ハンドルのために鎖芋虫状態のまま後等部座席を激しくゴロンゴロンと転がっている。
教訓:人間触れてはいけない領域があるのです。気をつけましょう。
「もう遅ぉぉぉぉぉ~い!!」
その頃、屋敷の外ではクラスターがカイに肩に担ぎ上げられ喚いていた。
だが。
「あの方ほんまに大丈夫ですかねぇ」
「大丈夫やろ? こいつに魂やるて契約に変更したからあんまりえげつないのん来よらへんやろしな」
フミは乗ってきたと思しき軽自動車の屋根に両手を組んでのせ、さらにその上に顎を乗せ屋敷の方向を見て呟くように言うと、カイも同じように屋敷を仰ぎ見てそう言った。
「だ・か・ら! はなせー!」
「せやけど今回上手に屋敷の人間眠らすこと出来てほっとしましたわ」
「わははははは! この俺様にかかれば容易いこと!」
「…やったのはボクですやん。カイさんこういう微妙な術は、やり過ぎて成功したことありませんやん」
だが、そんなクライスターを無視するが如くのほほんとカイとフミの二人は屋敷を見つめながら会話をしている。
「俺の話を聞ーーーけーーーー!!」
「お! そやそや」
カイはごそごそとポケットから何かを取り出す。
それは一見普通のピアスに見えたが、角度によって様々な色に変化する不可思議な石が付いていた。それをカイはクライスターの左耳にかぶせるように押し付ける。
「イタッ!!」
クライスターは身を震わせて叫んだ。
「ほい完了♪」
カイは妙に楽しそうだ。
「てめぇ! 何をしやがった!!」
「何て。新しく書き換えた契約書や」
見ると先ほどの石が、クライスターの耳にピアスのように飾られていた。
「こんなものいらねぇよ!!」
「せやかてお前、主契約の魂が手に入らんどころか契約を破棄されとったら力削がれとったやないか。魂が手に入るだけでも俺様に感謝しろよ」
「うっっ!!」
図星だったようだ。
「ほんまにコレもって帰りますのん?」
怯むクライスターを見て、フミは半眼になってカイに問いかける。
「おう♪」
「知りませんで? まぁたアキタケさんやヤスミちゃんに怒られはっても」
フミは疲れたようなため息を吐く。
「大丈夫や。今回ばかりはあの二人かてこいつを見れば何も文句言いよらへんって」
ニッと、口元を楽しそうに歪めるカイに、フミはゴツンと軽自動車の屋根に額をぶつける。
「……その自信は一体どこから来ますねんな。いっつもいっつもそう言うて怒られては、毎回その場で捨てられてますやん。おまけに今回のこのお人はちょっと魔力が大きすぎまへんか?」
フミは顔を伏せたまま完全にあきれ果てているようだ。
「う~ん、ま、そんなとこも気に入った理・由♪」
テヘ♪とか言うカイにフミは半分だけ顔を上げてジトーッと睨む。
「……勝手にして下さいな。僕はもう知りしません」
「ちっくしょう! てめぇらいったい何者なんだよ!」
無視され続けるクライスターは、半ば自棄気味に叫ぶ。その言葉におとカイが言う。
「お。せやせや。バタバタしとって自己紹介しとらんかったな~」
「……あれをバタバタっていうカイさんの神経って…」
「ゴタゴタヌカすなっての」
ゴツッ!!とカイはフミの頭に拳を振り下ろす。
「イタッ! ホンマにもう! いい加減にして下さいよ! なんでもかんでも暴力で解決できる思たはりませんか?!」
「暴力ちゃうわ。愛のツッコミや」
ふふんとカイが胸を張った。
「カイさんが愛やて! きしょっ!! めっちゃっ気色悪っ!!」
だがフミはその言葉を聞くとずささっと後退る。本気で嫌がっているようだ。
「…お前はホンマに可愛いなぁ~ああん?」
ちょっと額に青筋浮かべつつフミを捕まえようとするが、クライスターを担いでいるため思うように捕まらない。鈍臭そうに見えてもフミの動きは意外と俊敏である。
反対にクライスターは振り回されて頭にきたようだ。
「お前らぁーー!! いい加減に脱線するのを止めんかい!!」
「おぉ! 悪魔のこいつにツッコまれてもうたで?」
「うわぁぁ! 一生の不覚ですわ~!」
そう言って二人が悶えている。クライスターは更にキレてしまったようだ。
「そもそもな! 神父のくせにそんな服来ているって事自体おかしいじゃねぇかっ!!」
途端いきなりカイとフミの動きが止まる。
「は?」
あまりの二人の間抜け面にクライスターは戸惑う。
「は? って…お前らエクソシストじゃないのか?」
そう言われてカイとフミは顔を見合わせ、なにやらボソボソと呟いている。
「う~ん。やっぱり俺様の格好が悪かったやろか?」
「まぁ、ボクもカイさんのこと言えへん格好ですしね~」
「そういや…あんまりアレっぽいことせやんかったっけ?」
カイがうーんと悩むのと、フミが腕を組んでうーんと言いながら眉を寄せて、どうだったのか思い出しているようだ。そして暫くしてからポソッと呟く。
「…………そういや、またしてまへんなぁ」
「やっぱこの商売はったりも必要やろか?」
カイがクライスターを担いでいない方の手で顎を摩りつつ、困ったように言うとフミはやれやれといった感じで頭を振る。
「せやけどあの格好も、ある意味街中では怪しさ爆発ですやん」
「それも言えてんねんけど…やっぱ呪いの一つでも唱えないかんやろか」
「見かけの呪い唱えてる最中にボカン! とやってまいますねんから全く意味あらしませんやんか。道具使ういうたかて、道具使う前にやっぱりボカン! とやってまいますし」
フミはそう言うと夜空を見上げながら右手を天に向かってパッと広げる。カイも同じようにあ~と天を仰ぐ。
「それもそうやねんな~。困ったのう」
「ホンマですね~」
ここまではなんとか我慢していたクライスターだったが、とうとう我慢できずに怒鳴った。
「いいかげん話が見えてこないから、俺をどうする気かさっさと言え!」
「ほなまぁとりあえず自己紹介するわ。俺様はな『しんじょう かいる』神さんの城、十戒の戒、守るの守で、『神城 戒守』書くねん」
「ボクは『なかにし ふみあき』言います。中間の中、東西南北の西、文の星いう意味を持つ奎、水晶の晶で『中西 奎晶』と書きますねん」
そう言いながらそれぞれ地面に漢字を書いて自己紹介をするが、クライスターには何も感慨をおよばさなかったようだ。
「そ・れ・でっっ?!」
「ほんでな職業が『陰陽師』や」
……。
「は?」
「お・ん・みょ・う・じ」
……。
「誰が?」
「俺様」
「ボクはまぁ、見習いというか…言うのも嫌ですけど弟子ですねん」
……。
「嘘だろ?」
「なんで嘘付かなあかんねん」
「まぁ、よぅ気持ちは分かりますわ」
……。
「…本当なのか?」
「うん」
「大変大変申し訳ないけどホンマですねん」
……。
「お前らっ!! その格好で陰陽師とか名乗るんじゃないっっっ!!」
クライスターは二人に向かって思わず怒鳴ってしまっていた。
「しゃーないやんけっ!! 俺様かて好きでこないな格好してるわけないんやっっ!!」
カイルも負けずに怒鳴り返す。
「まぁ、カイさんの格好は確かにおかしいですけど、普通の人が思い描かはるような格好で町中歩いたかて、コスプレと間違えられて警察さんに連行されてしまいますのや。今は世知辛い世の中ですねん」
ふぅとため息を吐きつつも、いけしゃーしゃーとフミアキはぬかす。
「……まぁ、いい。それで? 俺をどうするつもりなんだ? 糞忌々しい教会の奴らとの取り引き材料にでも使うってのか?」
2人と議論を戦わせても調子を狂わせるだけなのにやっと気が付いたのか、クライスターは聞きたいことだけを優先させたようだ。
賢明な判断である。
「あ? なんでそないなことせんといかんねんな?」
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「知っているぜ? お前らがお互いの敵について情報交換しているってのはな」
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「へぇ~やっぱりそんな話なんかは、ソッチ側にも漏れてるんですねぇ」
のほほんと感心するフミアキ。
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本当にカイルは知らなかったようだ。
「……その件にアキタケさんめっちゃ熱心ですやん。ホンマに知りはりませんのん?」
フミアキはため息をつきつつ話す。
「あ~…やりそうなことやわ~」
カイルは少しあさっての方向を見ている。
「そのアキタケってやつは何者なんだ?」
クライスターは2人の話を聞くと、目を光らせた。
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カイルはそう言って、またもや地面に漢字を書く。だが、その字ではなく別のことでクライスターの感情に触ったようだ。
「……それだけで大嫌いなのに決定だ」
「なんでやねん」
「よう気持ちは分かりますわ」
うんうんと頷くフミアキ。
「え? フミお前兄貴嫌いなんか?」
カイの驚いたような声に、慌ててフミアキはブンブン!と激しく首を振る。
「ちゃいますよ! 嫌いどころか尊敬してますよ! …恐いけど」
「あ~…まぁなぁ~恐いなぁ~。…って、やからなんでやねん」
余程心当たりがあるのかカイルが感慨深く頷いたが、ふとどういった理由なのかを問うた。フミはさっと間合いをとると、にっこりと笑って答える。
「クライスターさんが嫌や言わはる部分は、カイさんの兄貴ってとこですわ」
「あーなるほどね…ってこの野郎っ!!」
納得してからその内容にカイルがフミアキを殴ろうとするがクライスターを担いだままな上に、予想していたフミアキは十分に距離をとり、ひょいとあっさりとカイルの拳をかわす。
「……フミ。後で覚えとけよ」
「遠慮のう忘れさせていただきます」
「そ・れ・で? 俺をどうするんだって聞いてるんだけどよ?」
漫才のようなやり取りに、クライスターはため息を吐きつつもう一度問いただす。
疲れてきたようだ。
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……。
「え?」
「は?」
「だから式神」
……。
「カイさん…。本気ですのん?」
「うん」
……。
「いやだぁぁぁぁ!! 絶っっっっっ対に! なるもんかっっ!!」
クライスターは今さらながら目一杯暴れて逃げようとするが、鎖に阻まれて虚しい抵抗を続けるだけだった。
「カイさん。無理や思いますけど…って言うだけボクは言わせてもらいましたで? せやから後はもう何も言いしませんわ」
うんうんと頷くと、フミアキはカイルの説得をあっさりと諦めたようだ。カイルは訝しそうに片眉を上げて、フミアキの方を見る。
「お? なんやあっさりあきらめよるやんか? どないしてん?」
「クライスターさんはかなり力がありそうやさかい、野放しにしはるぐらいやったら、カイさんの新しい玩具に…て思うてみたら可愛らしいわぁて思えますやん」
それはもう最上級の笑顔を浮かべ、両手を広げるフミアキはどこか嬉しそうだ。
「こらぁぁぁ!! 待てぇぇぇ!! 誰が玩具なんだっての!!」
「いやぁもう、助かりますわぁ。この人の面倒見るのん大変でねぇ。負担が減って大助かりですわぁ」
フミアキの本音が出たようだ。ウキウキとした感のある歩調で軽自動車のところまで戻ってくるとさっさと車へと乗り込む。
「ま、そういうこった。観念するんやな」
カイルもニヤリと笑いながら、クライスターを後部座席に横たわらせ、自分は助手席に乗り込む。
「待て。ナカニシ」
いきなりクライスターがフミアキに制止をかける。心なしか顔が青ざめて見える。
「なんですのん」
そう言いつつフミアキはシートベルトを装着している。
「この国では十八歳未満の者が運転してはいけないのだろう?」
「は?」
フミアキの動きがピタッと止まる。助手席に座ったカイルは、シートベルトを装着しながら何のことだと不思議そうに首を傾げながら、後部座席に寝かせたクライスターの方を覗き込んできた。
「何言ってんねん? フミが運転するんに問題でもあるんかいな?」
「だからっ! お前は未成年なんだろうと言ってるんだ! どうみたって十五、六歳にしか見えないだろうがっ!」
途端にカイルは真っ青になって焦る。
「わぁっ! アホッ! それはっっ…!」
そして慌てたようにフミアキの方を見て…凍り付いている。
その強張った顔を見て、クライスターは何事かとつられて運転席にいるフミアキを見て同じように固まった。なぜかというと。
「……誰が未成年です?」
先ほどまでと打って変わって、恐ろしいオーラがフミアキから漂い出ている。
「え? え? だって…!」
あまりの変わり様にクライスターは、混乱して言葉がうまく出てこない。
「残念ながら、ボクはハタチなんかとうに越えた立派な成年男性なのですよ…。クライスターさん…」
静かに、地獄の底から聞こえているのではないかと思わんばかりのその声音に、クライスターは怯えるが、同時にその内容に衝撃を受ける。
「えぇっ?! 嘘つくなっ! その顔はどう見たって二十歳を越えてないだろうっ?!」
そしてあまりの衝撃に、またもやいらない口を滑らせるクライスター。
途端にギチリっと異様な音がフミアキの握りしめたハンドルから聞こえてきた上に、さらにオーラが闇よりも濃いのではないかと思うぐらいに黒くなる。
「わぁっっ!! 火に油注ぎよった!! もう知らへんで?!」
カイルですら顔色を真っ青にさせて、脂汗をダ~ラダ~ラとたらしている。
「なるほど。かなりお疑いのようですから、ボクのこの運転技術で納得していただくしかないようです…。とくと御覧になっていて下さいね…?」
ドス黒いオーラを更に凶悪にして周りに発しつつ静かに言うとフミアキは、ガッとサイドブレーキを下ろすなり、高速の動きでシフトチェンジをし、なおかつガツン!と派手な音を立てさせながらアクセルを踏み込んで、車を急加速で発進させた。
「うわぁぁぁぁぁ~~~~!!」
その勢いに後ろに寝かせられていたクライスターがもろに影響を受ける。しかもシートベルトなんて上等なものをさせてもらっていないので、言わずもがなである。
「アホ~~~!! フミはなっ! 童顔のことを突かれると怒りよんねん!! しかもハンドルもったら人が変わりよんねんぞ?! 標準語になってしもたらもうアカンねやぁぁ!!」
カイルは半分恐怖のためか叫んでいる。
「そ、そ、そ、そんなの俺が知るかぁっ!!」
ガソリンと知らずに引火原因となるものを撒き点火させ、さらに火に油を注ぐ発言をしてしまったクライスターはあまりの急加速、急ブレーキ、急ハンドルのために鎖芋虫状態のまま後等部座席を激しくゴロンゴロンと転がっている。
教訓:人間触れてはいけない領域があるのです。気をつけましょう。
「もう遅ぉぉぉぉぉ~い!!」
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