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なにいってるんだ
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「何言ってるんだ?! え?! お前頭おかしいのかよっ?!」
仮面のその声にフミがはっと我に返る。
「な、な、なに言い出しますのん?! そんなこと許されしませんやんか?! 第一そいつ消滅させますのやろ?!」
「させやん」
「は?」
カイのその簡潔な返答に皆、点目状態だ。その様子にもかまわずカイは続ける。
「せやから、消滅させへんて言うてるんやってば」
「えぇっっ?!」
フミは口をあんぐりと開けているし、仮面は呆然としているし、男性は頭を抱えたまま今にも発狂しそうだ。だが、同時にハッと我に返ると一斉に、それぞれの主張を叫びはじめた。
「カイさん?! 何言うてますのん?!」
「てめぇ! 俺が恩に着ると思ったら大間違いだぞっ!」
「そうです! 絶対私を殺しにきますよ!」
ところが当のカイはそんな騒ぎもどこ吹く風といった感じでさらに爆弾を落とした。
「大丈夫や。コレ俺様が貰うから」
「はい~~~?!」
まさしく鳩が豆鉄砲状態だ。
「カイさんまたですのん?! 何度も言うてますけどこれは犬猫とちゃいますねんで!」
顔を青ざめさせたり真っ赤にさせたりとしつつも叫ぶフミ。
「こら! てめぇ! よりにもよって犬や猫と一緒にするなっっ!」
地面に鎖芋虫状態で転がっていながらもその辺の主張は曲げられないらしい仮面。
「え? あの? え? どういうことですか? え? えぇ?」
あまりのことに事情が飲み込めずアタフタと混乱している男性。
「あ~もううるせぇなぁ。気に入ったんやからしゃーないやろ」
「気に入ったから連れて帰るやなんて、あんたは小学生の子供かーっ!!」
いかにも面倒臭そうに言ったカイの発言にフミが更に頭を抱えて叫ぶ。フミの叫びを聞くとどうも初めてではないようだ。フミは更に一体何を考えてはりますねんなー!とカイに向かって怒っている。
「だから俺を犬猫と同列に扱うなって言ってんだろっっっ!!」
だが、仮面もその辺は曲げられないらしく鎖芋虫状態で必死に暴れている。その様子に男性はおびえて後退るが、フミは意に介さず反対に仮面の方へ踏み込んで反論する。
「犬猫の方がましですやんっっ!!」
「このガキっっ!!」
今度はフミと仮面が口論をはじめると、二人にかまわずカイは男性の方へと向きなおった。
「おっちゃん、悪いけど金はいらん。あんたにも手は出させん。せやけどあんたが天寿を全うした後こいつに魂をやってくれ。もともと魂をやる契約やったんやろ」
「…はい」
「人間誰かて事情がある。いろんなもんが心に渦巻いとる。そんなんはわかってるけどあんたは自分に負けた。せやからコイツと契約した。ちゃうか?」
「…そうです。私は、人生を楽に贅沢に生きたかった。それまで私が得られなかったものを、他人を踏みにじってでもいい、手に入れたかった。私がそうされてきたから今度は私がする番だと…。そうする権利が私にはあると」
男性は俯き、拳を握りしめて契約にいたるまでの苦労を言葉に滲ませ話すが、カイは男性のそんな悲痛な告白にも容赦なかった。
「アホか。そんな権利誰にもあらへん。俺様はなおっちゃん、人間いうのはな欲望の固まりやいうのんを知ってる。せやけどや、それを理性で押さえられるいうのんも知ってる。それが出来へんやつはただの獣や」
「……」
カイの容赦ない言葉に反論できず、男性はますます項垂れるしかなかった。
「ま、おっちゃんがいやや言うなら仕方ないけどな」
「…いえ。おっしゃる通りにします」
カイの言葉に男性は力なく、ゆっくりと首を何度か横に振る。
「ほんまか?」
「えぇ」
嬉しそうなカイに男性は、今度はしっかりと一度だけ首を縦に振った。
「そっか。おい! フミ!」
「あーもーわかりましたよっ!! 作り直したらえぇんですやろっっ!!」
ぷんぷんと怒りながら、フミはまたもや鞄を手にするとゴソゴソと探りはじめる。
「で。お前名前は?」
カイはひょいと仮面を振り返ると、そう尋ねる。
「誰が言うか!」
嫌悪感を隠そうとせずに仮面は返す。カイは困ったように腕を組む。
「う~ん反抗的やな~」
「あったり前だ! 俺はな! お前なんぞに飼われたりする気はないっっ!!」
「ま、しゃーないな。アレ使おか」
そうカイは呟きながら、すっと背筋を伸ばし、両手をパン!と顔の前で合わせてから何やら呟き、息をふっとその両手に吹きかけ、しゃがみ込み両手を仮面の首に当てる。
そしてするっと首を撫でてその手をのけると、なんと金属製の首輪が嵌っていた。表面に何やら細かい文様が彫られている。
「?! な、なんだこれっ?!」
見えはしないがその感触で首輪と判り、仮面は軽いパニックに陥っていた。
「ま、これしたら俺様に逆らわれへんっちゅーわけや。まぁ、命に関わるようなことは別としてなー」
せやから安心しーと呑気に言うカイに仮面はざっと顔色を変える。
「嘘つくな!!」
「試したろか? お前名前は? 真名やなくてえぇでー」
カイのその言葉に仮面は、え?と思う間もなく自然に口から言葉が滑り落ちる。
「クライスター…え?!」
何とはなしに名前を言ってしまって、仮面は…クライスターはハッと我に返って顔色をざっと変えた。
「お、そないな名前か。おい!フミ! こいつクライスターやて」
「あーはいはい!」
「ちょっ…! ま、まて! そんなことされたら!」
「契約書にばっちりがっちり拘束されてまうってか?」
「う…」
図星を言い当てられ悔しそうに唇を噛むクラシスターを横目で見ながら、男性がおそるおそるカイに疑問に思ったことを尋ねる。
「あ、あの真名ってなんですか?」
カイはあぁと言って、男性に説明をする。
「こいつら魔族にとっての力の源っていうか根源っていうか。ま、おっちゃんはもう関わらへんねんから詳しゅう知る必要あらへんやろ?」
「あ…! は、はい。そうでした」
男性は俯いてしまった。
「ま、えぇわ。人間いうんは好奇心旺盛や。せやけどなおっちゃん、この契約書かわしたらもう召還でけへんで。第一そんな心の余裕もなくなるんやし。説明聞いたやろ?」
「え?」
「え? て…」
男性は困惑する。それを見てカイは驚きのためか目を見張った後、フミを顧みる。
「…フミ。ちゃんと説明してへんのかいな」
「…代償を頂くとは説明しました。代償は何かゆうのんは言うてませんけど」
そう言ってプイと横を向くフミに、カイは大きくため息を吐く。
「あのな~もったいつけずにいつも言うとけって言うてるやろ。…まぁ、しゃーないな。俺様が説明したるわ」
「は、はい」
「代償はな、あんたの心や」
「え?」
その言葉の意味が分からず男性は首を傾げる。カイはそんな反応は慣れっこなのか、気にせずそのまま説明を続けた。
「あんたが契約したことによってならんでえぇ不幸になってしもた人間の姿を、毎日毎日あんたは見なならんのや」
「…!」
男性はその内容に驚いて目を丸くする。
「人間いうのんはな、都合の悪い過ぎてしまったことはすぐ忘れる。せやけどなえぇ夢見てしもた後はな、反対にいつまでも忘れられん。せやからな、あんたみたいに悪魔と契約した人間を助ける代償はその人間の心と引替えなんや。毎日毎日あんたが不幸にした人間が現れてあんたに恨み言を告げていく。いつ誰がどんなことを言いにやってくるのかはわからん。そしてそれを止めることができる可能性のあるもんは全て封じさせてもらう。それが終わるのはいつかわからん。不幸にした人間の恨みつらみが尽きるまでや。あんたはそれに耐えなあかん。それが悪魔に対して契約を行った者への代償として、ウチは基本料金としていただいとる」
「……。そう…ですか…」
淡々としたカイの説明に、男性はまたもや俯く。
「はっ! 茶番だな!」
それまで黙って見ていたクライスターが嘲りの声を出す。
「人間の欲望は尽きることがない。繰り返し同じ愚行を重ねる生き物だ! 一度甘い蜜を吸った者がそれごときで誘惑に勝てるとでも思っているのか悪魔払い達よ!」
それに対し、さっきまでの陽気な雰囲気とは打ってわり、静かに語るカイ。
「あぁ。そうやな。人間とは欲深い生きもんや。せやけど大事な家族やダチがおって守りたい思った時、悪魔でさえも退け、動かす強い意志を貫き通す。俺様はその力を知っているし信じてるんや」
フミも何事か感じるところがあるのか、少し口元を歪めただけでツッコんでこない。
「…耐えてみせます」
ポツっと男性が呟く。カイとフミは男性を静かに見つめた。
「…私は耐えます。契約するまで私は神を、世間を、恨み妬んできました。私は悪くない世間が悪いのだと。だけど家族が出来、そしてまた増えると知った時私は初めて…生まれて初めてこの世の全てに感謝しました。あぁ幸せになったんだと。だけど一方で、契約によって他人の幸せを奪い取っていたんです。私の産まれてくる子供だったかもしれない、あるは反対に子供の親である私や妻だったかもしれない誰かを」
ふと男性は顔を上げ、フミに視線をやる。
「情けない話ですが、あなたやフミさんに指摘されて気が付きました。私は不幸にされる気持ちを知っていたはずでした。それなのにいつのまにか問題を擦りかえてしまっていたんです」
フミはふいと横を向き視線を少し下げ、目を瞑った。
「この…私の魂とその代償でいいのならお願いいたします」
男性はそう言うと、ゆっくりとだが立ち上がり、カイとフミに頭を下げる。
カイは鷹揚に頷くと、フミの肩をポンと叩く。
「俺様はおっちゃんの気持ちを信じさせてもらうわ。その気持ちをずっと忘れんといてほしいねん。頼むわ」
フミはカイに新たに作った契約書を渡す。
「おっちゃん、悪いけどここんとこに左の小指当てて名前書いてんか」
「え? あのペンとか…あの血とか?」
「そんな野暮な真似するかいな。ほれ早う」
「は、はい」
カイに急かされ男性はギコチなくだが左の小指で自分の名前を描く。
名前を描き終わると同時に契約書と、カイが新たな契約書と重ねて持っていたクライスターの仮面が光り輝きだした。
「うわっ!」
男性が思わずあまりの眩しさに目を瞑る。
するとカイとフミの声が耳元で聞こえる。
『ほな、おっちゃん元気でな。…子供のために生き延びや』
『…ありがとうございました』
そうカイとフミの声がしたと思ったらフッと部屋から男性以外の気配が消え去った。
「え?!」
慌てて男性がなんとか瞼をこじ開け周囲を見渡すが誰もいない。
「ゆ、夢?」
だが夢でない証拠に部屋はカイが暴れた時に開いた穴がそこかしこに出来ていた。
「…後片づけが大変だな…。妻になんと言い訳をしようかな」
そう呟きながら、妙に男性はすっきりとした顔になっていた。
「これからが大変なんだ。頑張らないと」
そして、男性は部屋を出ていった。
これからの事を考えて睡眠を取ることにしたようだ。
この先いつとれるかもわからないだろうから…。
仮面のその声にフミがはっと我に返る。
「な、な、なに言い出しますのん?! そんなこと許されしませんやんか?! 第一そいつ消滅させますのやろ?!」
「させやん」
「は?」
カイのその簡潔な返答に皆、点目状態だ。その様子にもかまわずカイは続ける。
「せやから、消滅させへんて言うてるんやってば」
「えぇっっ?!」
フミは口をあんぐりと開けているし、仮面は呆然としているし、男性は頭を抱えたまま今にも発狂しそうだ。だが、同時にハッと我に返ると一斉に、それぞれの主張を叫びはじめた。
「カイさん?! 何言うてますのん?!」
「てめぇ! 俺が恩に着ると思ったら大間違いだぞっ!」
「そうです! 絶対私を殺しにきますよ!」
ところが当のカイはそんな騒ぎもどこ吹く風といった感じでさらに爆弾を落とした。
「大丈夫や。コレ俺様が貰うから」
「はい~~~?!」
まさしく鳩が豆鉄砲状態だ。
「カイさんまたですのん?! 何度も言うてますけどこれは犬猫とちゃいますねんで!」
顔を青ざめさせたり真っ赤にさせたりとしつつも叫ぶフミ。
「こら! てめぇ! よりにもよって犬や猫と一緒にするなっっ!」
地面に鎖芋虫状態で転がっていながらもその辺の主張は曲げられないらしい仮面。
「え? あの? え? どういうことですか? え? えぇ?」
あまりのことに事情が飲み込めずアタフタと混乱している男性。
「あ~もううるせぇなぁ。気に入ったんやからしゃーないやろ」
「気に入ったから連れて帰るやなんて、あんたは小学生の子供かーっ!!」
いかにも面倒臭そうに言ったカイの発言にフミが更に頭を抱えて叫ぶ。フミの叫びを聞くとどうも初めてではないようだ。フミは更に一体何を考えてはりますねんなー!とカイに向かって怒っている。
「だから俺を犬猫と同列に扱うなって言ってんだろっっっ!!」
だが、仮面もその辺は曲げられないらしく鎖芋虫状態で必死に暴れている。その様子に男性はおびえて後退るが、フミは意に介さず反対に仮面の方へ踏み込んで反論する。
「犬猫の方がましですやんっっ!!」
「このガキっっ!!」
今度はフミと仮面が口論をはじめると、二人にかまわずカイは男性の方へと向きなおった。
「おっちゃん、悪いけど金はいらん。あんたにも手は出させん。せやけどあんたが天寿を全うした後こいつに魂をやってくれ。もともと魂をやる契約やったんやろ」
「…はい」
「人間誰かて事情がある。いろんなもんが心に渦巻いとる。そんなんはわかってるけどあんたは自分に負けた。せやからコイツと契約した。ちゃうか?」
「…そうです。私は、人生を楽に贅沢に生きたかった。それまで私が得られなかったものを、他人を踏みにじってでもいい、手に入れたかった。私がそうされてきたから今度は私がする番だと…。そうする権利が私にはあると」
男性は俯き、拳を握りしめて契約にいたるまでの苦労を言葉に滲ませ話すが、カイは男性のそんな悲痛な告白にも容赦なかった。
「アホか。そんな権利誰にもあらへん。俺様はなおっちゃん、人間いうのはな欲望の固まりやいうのんを知ってる。せやけどや、それを理性で押さえられるいうのんも知ってる。それが出来へんやつはただの獣や」
「……」
カイの容赦ない言葉に反論できず、男性はますます項垂れるしかなかった。
「ま、おっちゃんがいやや言うなら仕方ないけどな」
「…いえ。おっしゃる通りにします」
カイの言葉に男性は力なく、ゆっくりと首を何度か横に振る。
「ほんまか?」
「えぇ」
嬉しそうなカイに男性は、今度はしっかりと一度だけ首を縦に振った。
「そっか。おい! フミ!」
「あーもーわかりましたよっ!! 作り直したらえぇんですやろっっ!!」
ぷんぷんと怒りながら、フミはまたもや鞄を手にするとゴソゴソと探りはじめる。
「で。お前名前は?」
カイはひょいと仮面を振り返ると、そう尋ねる。
「誰が言うか!」
嫌悪感を隠そうとせずに仮面は返す。カイは困ったように腕を組む。
「う~ん反抗的やな~」
「あったり前だ! 俺はな! お前なんぞに飼われたりする気はないっっ!!」
「ま、しゃーないな。アレ使おか」
そうカイは呟きながら、すっと背筋を伸ばし、両手をパン!と顔の前で合わせてから何やら呟き、息をふっとその両手に吹きかけ、しゃがみ込み両手を仮面の首に当てる。
そしてするっと首を撫でてその手をのけると、なんと金属製の首輪が嵌っていた。表面に何やら細かい文様が彫られている。
「?! な、なんだこれっ?!」
見えはしないがその感触で首輪と判り、仮面は軽いパニックに陥っていた。
「ま、これしたら俺様に逆らわれへんっちゅーわけや。まぁ、命に関わるようなことは別としてなー」
せやから安心しーと呑気に言うカイに仮面はざっと顔色を変える。
「嘘つくな!!」
「試したろか? お前名前は? 真名やなくてえぇでー」
カイのその言葉に仮面は、え?と思う間もなく自然に口から言葉が滑り落ちる。
「クライスター…え?!」
何とはなしに名前を言ってしまって、仮面は…クライスターはハッと我に返って顔色をざっと変えた。
「お、そないな名前か。おい!フミ! こいつクライスターやて」
「あーはいはい!」
「ちょっ…! ま、まて! そんなことされたら!」
「契約書にばっちりがっちり拘束されてまうってか?」
「う…」
図星を言い当てられ悔しそうに唇を噛むクラシスターを横目で見ながら、男性がおそるおそるカイに疑問に思ったことを尋ねる。
「あ、あの真名ってなんですか?」
カイはあぁと言って、男性に説明をする。
「こいつら魔族にとっての力の源っていうか根源っていうか。ま、おっちゃんはもう関わらへんねんから詳しゅう知る必要あらへんやろ?」
「あ…! は、はい。そうでした」
男性は俯いてしまった。
「ま、えぇわ。人間いうんは好奇心旺盛や。せやけどなおっちゃん、この契約書かわしたらもう召還でけへんで。第一そんな心の余裕もなくなるんやし。説明聞いたやろ?」
「え?」
「え? て…」
男性は困惑する。それを見てカイは驚きのためか目を見張った後、フミを顧みる。
「…フミ。ちゃんと説明してへんのかいな」
「…代償を頂くとは説明しました。代償は何かゆうのんは言うてませんけど」
そう言ってプイと横を向くフミに、カイは大きくため息を吐く。
「あのな~もったいつけずにいつも言うとけって言うてるやろ。…まぁ、しゃーないな。俺様が説明したるわ」
「は、はい」
「代償はな、あんたの心や」
「え?」
その言葉の意味が分からず男性は首を傾げる。カイはそんな反応は慣れっこなのか、気にせずそのまま説明を続けた。
「あんたが契約したことによってならんでえぇ不幸になってしもた人間の姿を、毎日毎日あんたは見なならんのや」
「…!」
男性はその内容に驚いて目を丸くする。
「人間いうのんはな、都合の悪い過ぎてしまったことはすぐ忘れる。せやけどなえぇ夢見てしもた後はな、反対にいつまでも忘れられん。せやからな、あんたみたいに悪魔と契約した人間を助ける代償はその人間の心と引替えなんや。毎日毎日あんたが不幸にした人間が現れてあんたに恨み言を告げていく。いつ誰がどんなことを言いにやってくるのかはわからん。そしてそれを止めることができる可能性のあるもんは全て封じさせてもらう。それが終わるのはいつかわからん。不幸にした人間の恨みつらみが尽きるまでや。あんたはそれに耐えなあかん。それが悪魔に対して契約を行った者への代償として、ウチは基本料金としていただいとる」
「……。そう…ですか…」
淡々としたカイの説明に、男性はまたもや俯く。
「はっ! 茶番だな!」
それまで黙って見ていたクライスターが嘲りの声を出す。
「人間の欲望は尽きることがない。繰り返し同じ愚行を重ねる生き物だ! 一度甘い蜜を吸った者がそれごときで誘惑に勝てるとでも思っているのか悪魔払い達よ!」
それに対し、さっきまでの陽気な雰囲気とは打ってわり、静かに語るカイ。
「あぁ。そうやな。人間とは欲深い生きもんや。せやけど大事な家族やダチがおって守りたい思った時、悪魔でさえも退け、動かす強い意志を貫き通す。俺様はその力を知っているし信じてるんや」
フミも何事か感じるところがあるのか、少し口元を歪めただけでツッコんでこない。
「…耐えてみせます」
ポツっと男性が呟く。カイとフミは男性を静かに見つめた。
「…私は耐えます。契約するまで私は神を、世間を、恨み妬んできました。私は悪くない世間が悪いのだと。だけど家族が出来、そしてまた増えると知った時私は初めて…生まれて初めてこの世の全てに感謝しました。あぁ幸せになったんだと。だけど一方で、契約によって他人の幸せを奪い取っていたんです。私の産まれてくる子供だったかもしれない、あるは反対に子供の親である私や妻だったかもしれない誰かを」
ふと男性は顔を上げ、フミに視線をやる。
「情けない話ですが、あなたやフミさんに指摘されて気が付きました。私は不幸にされる気持ちを知っていたはずでした。それなのにいつのまにか問題を擦りかえてしまっていたんです」
フミはふいと横を向き視線を少し下げ、目を瞑った。
「この…私の魂とその代償でいいのならお願いいたします」
男性はそう言うと、ゆっくりとだが立ち上がり、カイとフミに頭を下げる。
カイは鷹揚に頷くと、フミの肩をポンと叩く。
「俺様はおっちゃんの気持ちを信じさせてもらうわ。その気持ちをずっと忘れんといてほしいねん。頼むわ」
フミはカイに新たに作った契約書を渡す。
「おっちゃん、悪いけどここんとこに左の小指当てて名前書いてんか」
「え? あのペンとか…あの血とか?」
「そんな野暮な真似するかいな。ほれ早う」
「は、はい」
カイに急かされ男性はギコチなくだが左の小指で自分の名前を描く。
名前を描き終わると同時に契約書と、カイが新たな契約書と重ねて持っていたクライスターの仮面が光り輝きだした。
「うわっ!」
男性が思わずあまりの眩しさに目を瞑る。
するとカイとフミの声が耳元で聞こえる。
『ほな、おっちゃん元気でな。…子供のために生き延びや』
『…ありがとうございました』
そうカイとフミの声がしたと思ったらフッと部屋から男性以外の気配が消え去った。
「え?!」
慌てて男性がなんとか瞼をこじ開け周囲を見渡すが誰もいない。
「ゆ、夢?」
だが夢でない証拠に部屋はカイが暴れた時に開いた穴がそこかしこに出来ていた。
「…後片づけが大変だな…。妻になんと言い訳をしようかな」
そう呟きながら、妙に男性はすっきりとした顔になっていた。
「これからが大変なんだ。頑張らないと」
そして、男性は部屋を出ていった。
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